主人公は賢い
「_______________悪戯はそこまでだ。」
ジークはそう言うとブリュンヒルデを瞬く間に組み伏せ、首根っこを掴み上げた。
「欲情に塗れた君はあまり好きにはなれないな。助けたことをどうか後悔させないでくれ。」
部屋の外へと放り出される。ブリュンヒルデは床にちょこんと座り、啞然としてしまう。
(うーん.......あれ?)
あのままそういった行為をする流れではないのかとハテナマークが頭に浮かぶ。
「ジークくんって.......男色なのかなぁ?」
その可能性もあり得なくはない。手鏡で自分の顔を今一度確認する。
「ブリュン、可愛いくない?可愛いよね.........」
決して不細工ではない。どちらかと言えば美少女の部類に入る自信はある。
(................今日は帰ろう。)
宿屋な為、隣人らが扉から顔を覗かせていた。これ以上暴れると追い出されかねない。立ち入り禁止にされのはもっと困る。
「おかえりー」
家へと帰宅すると両親は何処か心配とした様子でブリュンヒルデの元へと駆け寄ってきた。
「ブリュンヒルデ、何処に行っていたんだ!」
「一日中探していたのよ!怪我をしているのだから安静にしていなさいとあれ程いったでしょ!」
そうだ。ブリュンヒルデは怪我をしているんだ。すっかり忘れていた。けれどそれは些細な問題に過ぎない。
「ジークくんのところに行ってたんだよ。命の恩人だもん。ありがとうの挨拶に行かなくちゃ失礼だよ。」
未来の旦那様となる勇士様。挨拶は済まさなければならない。
「ジークさんにあまり迷惑を掛けるな。あの人は村の難しい依頼を受けて下さる数少ない冒険者の一人だ。」
「そうよ。こんな何もない村にも定期的に依頼を受けてくださってるの。あまり困らせては駄目。」
困らせてはいないと思う。だってこれから相思相愛の関係になる予定なのだから。
(でも確かになんでジークくんわざわざこの村まで来てくれるんだろう。バルドル冒険者ギルドからこの村まで馬を走らせても二日は掛かるのに......)
銀狼兜の冒険者の噂は良く聞く。バルドル辺境伯爵にて冒険者登録を行い、『s』級冒険者兼前ギルドマスターであったエル・ミア男爵に師事された若き青年。一年という月日で『c』級まで上り詰めた実力のある冒険者だ。
「前までは頭のハゲたトールスギィ?みたいな名前の人が来てたけど.....」
まぁ、どうでもいいことか。村をアングルボサの呪いの脅威から守ってくれている。その事実だけで十分だ。だけど、一つだけ引っ掛かる事がある。
「姿勢、話し方が何処か貴族然としているところがあるんだよなぁ.........」
疑問だ。冒険者をしていることから貴族ではないことは確かなのだが、彼の素性がどうしても気になる。明日の早朝にでも彼の宿屋を訪ねてみよう。
「お、犯されるところだった........」
ジークフリートは宿屋の自室で冷や汗を見せながら、防具の手入れをしていた。
「ようやく手に入れた自由なんだ........兄さんや、師匠がくれた想いを踏みにじる訳にはいかない。」
眉間に皺を寄せ、刃へと自分の姿を映す。
「.......この顔は呪いだ。軽率な行動は控えるべきだった。兄さんの言う通りだったよ。俺の失態だ。」
依頼を終え、村への帰路の途中、襲われている少女を見つけた。運悪く、銀狼の兜を装備している時間はなく、外した状態で彼女を助けてしまったのだ。
「彼女を助けたのは偶然。」
助けるべきではなかったとは言いたくはないが、素顔が割れるくらいなら助けるべきではなかったのかも知れない。
(バカ言うな......力無き者の命を守るのは俺たち冒険者の務めだろッ。)
身体が無意識に動いてしまう。お人好しなんて言葉は大嫌いだ。けれど、助けられる命が眼の前にあるのなら迷わず手を伸ばす。
「........俺はもう貴族じゃない。この手で助けられる命があるのなら、俺はそれを救う。」




