主人公は運命を感じる
本当であれば今日明日にでも旅立たなければならないけれど、一週間程先延ばしにすることにした。ヴァルハラ学園には傷の療養で少しばかり遅れると手紙を送ったのだ。
(____________学校なんて今はどうでもいい。)
今は冒険者ジークについてだ。彼はバルドル領で冒険者稼業をしている銀狼兜の双槍使い。昨日は剣を使っていたようだが、本来の武器は槍らしい。
「あぁ、ジークならあそこの宿に泊まっているよ。」
彼について色々と調べさせて貰った。これは決してストーカー行為などという邪なものではない。命の恩人に恩返しをするために少しばかり素性や住所を調べさせて貰っているのだ。
「ジークくん...えへへ.....見つけたよぉ.........」
冒険者でも中堅に位置する「c」級冒険者という肩書を持つ彼が何故、この様な辺境で冒険者をするのかは謎ではあるが、先ずはお礼の挨拶をしなければならない。
コンコン
彼が住まうであろう部屋のドアをノックする。怪我の為、包帯や絆創膏をあらゆる箇所に施してはあるが、身嗜みは最大限に整えた。
「はい、どちら様でしょうかって君か。」
銀狼兜を装備した状態で姿を現すジーク。
「はい、貴方のブリュンヒルデです。先日は命を助けて頂き、本当にありがとうございました。」
お礼の品としてバスケットに入った出来立てのパンをジークへと渡す。
「おぉ、美味しそうだ。ありがたく頂かせて貰うよ。」
嬉しそうにバスケットを受け取る。出来る事ならば兜の下の表情が見たかったが我儘は言えない。
「先日のことは冒険者として当たり前の事をしただけなんだから気にしなくていいよ。君が無事だった事が幸いだ。」
あぁ......これはもっと惚れてしまう。既に惚れてはいるのだが、より彼に対しての愛情深度が深くなる。
「いいえ、恩返しをさせてください。貴方様はブリュンヒルデの命の恩人なのです。未熟な【聖女】適正者ではありますが、全身全霊をもってジーク様に尽くし、奉仕させて頂く所存であります。」
そうだ。生涯を掛け、彼に尽くす事がブリュンヒルデの天啓なのだ。神託による職業適性などでは決してない。
「この身体も心も全てジーク様のものです。如何様にもお使い下さい。」
上目遣いで誘うようにジークくんを覗き込む。これでも村では一番の美少女と言われるほどの外見なんだ。自信はある。告白だって同年代の子達からよくされているのが良い証拠。醜悪な容姿だけはしていないと断言しよう。
「い、いや......流石に重いしいいかなぁ。パンは有り難く頂かせてもらうよ。お大事にね。」
扉が閉じる。その場に立ち尽くしてしまう。
「..............は?」
一瞬、思考が停止してしまった。
「いやいやいや」
可笑しい。これから行われるであろうラブストーリーはどうなる。窮地から救ってやったんだから見返りを寄越せ、その身体でな的な展開はないのか?
「可笑しい........可笑しい可笑しい!!!」
そんなのあんまりだ。彼はブリュンヒルデの王子となる予定の男の子。ヴァルハラ学園なんかに行っている暇などない。彼と愛を育まなければならないと言うのに一体どうなっているんだ。
「ジーク様、ジークくんっ、開けて.........開けてよッ!」ドンドンドンドン
扉が開くまでノックを止めない。開けたらそのまま部屋へと上がりこもう。そしてもう一度問うんだ。
「.........えっと、何かな?」
彼が扉を開いてくれた。足を扉の間に挟み込み、無理やりと中へと入る。
「えっ、え!?」
そして鍵を閉める。
「メ、だよ?」
背へと手を伸ばし抱き締める形で彼を見上げる。
「.........不法侵入って言葉、知ってるかな?」
「ブリュンヒルデの心に先に足を踏み入れたのはジークくんだもん。」
銀狼の兜が邪魔で素顔が見えない。彼の兜を外そうと手を伸ばす。だが、手首を掴まれ止められてしまう。
「諦めてくれ。俺は君とはそういった関係にはなれない。」
突き放す言葉。けれど心地がいい。
「ブリュンが諦めるのを諦めて♪」
妖艶な微笑を浮かべ、ベッドへと彼を押し倒す。
「ジークくんは罪な男だね。ブリュンヒルデを一目惚れさせた。従順な召使いでも使い捨ての駒でも何でもなって上げたのに断るんだもん。」
無理矢理と銀狼の兜を外す。
「あは♡」
そしてその兜を床へと投げ捨て、彼の瞳を見つめた。
「命の恩人にこんな酷い事をして心は痛まないのかい?」
侮蔑とした表情。唆られる。その蔑んだ目でブリュンヒルデを見て欲しい。
「嫌な顔だ。」
だらしない顔をする自分を見てジークはそう吐き捨てた。好き。もっと言って欲しい。
「あぁ、やっぱりジークくんはブリュンヒルデにとっての王子様だ♡」




