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師匠は弟子を愛し過ぎている

「____________銀鉄の槍に刻まれたルーンの効力は二つある。魔力を流し込む事で刃こぼれや損傷を瞬時に修復する事が出来る。そして貫通強化も施したから精鋭さも一級品さ。」


ルーン魔術の達人であり、【大魔穹士】の職業適正を冠している『s』級冒険者エル・ミア。


「流石は師匠です。」


大弓使いで在りながら、剣の扱いも心得ており、最早、彼女に何が出来ないのかわからない程にデタラメな存在であった。流石は『s』級冒険者と言う他ない。


「我が最愛の弟子である君と離れることは私にとって地獄のような日々となるが..........直ぐに国命を果たし、君の元へ帰還しよう。必ず待っていてくれ。」

「はい、師匠の帰りを心待にしております!」


そう言い残すと強くジークフリートを抱擁し、クラキ国の旗を仰々しく掲げた大層な馬車へと乗り込んだ。本人曰く、こうすれば面倒な盗賊や行商人などが絡んで来ないとのこと。



「_________________んはぁ!可愛すぎかよぉ!!!」



馬車を前進させたエル・ミアは未だに手を振り続け、自分を見送るジークフリートの姿を見て悶えていた。


「いやだいやだいやだぁ!離れたくない離れたくない離れたくない!ジークフリートジークフリートジークフリートぉ!」


駄々をこねる子供のように暴れるエル・ミア。そして冷静さを取り戻したのか席へと座り、一流冒険者の必需品である『魔法袋』を漁り始める。


「............君の匂いが薄れていく気がしてきた。温もりが感じられない。昨日履いていた下着を被ろう。」


情緒不安定なエル・ミアは魔法袋に入れていたジークフリートの下着を取り出し、頭へと被る。そしてすぅーはぁと深呼吸をした。馬車を引く御者はその姿を目にしてしまい、即座に視線を逸らす。


「はぁ.......落ち着いてきた。」


下着を被ったまま、エル・ミアは馬車の窓から覗くバルドル領へと目を向ける。


(そうか、私は百年ぶりにバルドル領を離れるのだな......)


長くもあり短かった気さえもする。多くの冒険者を育て上げ、誰一人として死なせなかった。


「今のバルドルの冒険者たちならばやっていけるだけの力はあるよ。トールギスは性格に難はあるが、ああ見えて責任感のある男だ。上手く冒険者ギルドを回して行くことだろう。」


下着を外し、鼻へと近付けすんすんと匂いを嗅ぐ。そして胸へと抱き締めるように当てる。


「___________ジークフリートは人間だ。寿命で私よりも先に死んでしまう。魔力で老化を止める技法もあるが、それは外見だけに反映する。それでは問題解決にはならない。」


不老不死の薬はラグナロク後の世界であるこの世界には存在しない。ならばどう寿命を増やすか。


(バルドル領に戻ったら研究を始めないとならないな。人間であるジークフリートと死ぬまで一緒にいるには寿命という大きな壁を乗り越えなければならない。)


それを探求することこそがエル・ミアの役目であり、研究しなければならない命題なのだ。


(__________私は今年で三百歳になる。人間で換算するとピチピチの三十路。処女を拗らせ本物の魔法使いになってしまったよ。)


恋愛ごとに時間を割かず、職業適正の鍛練と次代の教育に力を入れ過ぎた。


(無論、数多の誘いも過去には受けたさ。トールギスが二十代の頃、恥ずかしくなるような愛を綴った手紙を渡してくれた事もある。)


だが全ての誘いを丁重に断った。


(_____________________何故かって?)


孤高であり、強い美少女エルフの隣に男の影があったら箔が下がるだろう。そんな人間臭すぎる理由で処女を拗らせていたとアルフヘイム出身者が知れば笑い話の一つになった事だろう。


「だが、今の私には愛する弟子がいる。」


愛すべき者がいる。これほどまでに人は幸福な気持ちになれるものだろうか。


「______________否、私以上に幸せな者など存在しない!」


帰郷の時が楽しみで仕方がない。


「ふふ、くくく........ハネムーンと称して世界を旅するんだ。そして夜の冒険も............ふふふ、あっはははっ、げっほっげっほ..........」


興奮のあまり咳き込んでしまう。そして目の奥にハートを浮かべだらしない表情でジークフリートとの甘い夜を夢想する。


「...............待っていておくれ、私のジークフリート。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですね、エル・ミア氏。愛多き事はいいですね。 [一言] まだ途中ですが、面白いですね。願わくば外見ではなく内面を好きになるヒロインが出ることを祈ります(もちろんヤンデレで)。
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