第3話 お菓子
ギギィ―ッ。
「おはよう。早起きは不快だな。しかしうるさい扉だ。余計な演出に凝らずにさっさと治せばいいのに」
そんな愚痴を零しながらクロウ・ニートが教室に現れた。始業時間から15分も前のことだった。教室中から注がれる驚愕の視線をそよ風のように受け流しながらクロウは真っすぐ玄咲の元へとやってきた。ゲーム知識からすればあり得ない早期出勤に目を剥く玄咲にクロウはポケットから1枚のカードを取り出して手渡した。
「これは……?」
「お前のお陰でプレミアフラグを単発で終わったとはいえ撤去前に自力で引けた(引けてない)からな。その礼だ。パチンコ屋の会員カードだ。お前の名義で登録しておいてやった。1万マニー入れてあるからお前の大好きな10000ちゃんをまた打つといい。前も言ったが撲殺堕天使トゥインクルエンジェルもお勧めだぞ」
「いりません」
「まぁそう言わずに」
クロウは玄咲に会員カードを押し付けた。固辞しようかとも思ったが流石にそれは人ととして失礼なので、本当は全く受け取りたくないしパチンコスロットに興味も関心もないのだが仕方なく受け取った会員カードを玄咲はカードケースに仕舞った。
「ところで、今日は早いんですね」
「……俺もサンダージョーの一件で少しは思うところがあってな。今度から、少しだけ早く出勤することにした。ま、自己満足だがな。それだけだ。シャルナ・エルフィン。お前にはこれだ」
礼というか詫びの意味も籠めた会員カードだったのだろう。続けてクロウは手に提げてたビニール袋をシャルナに渡した。シャルナが中から飴玉を一粒取り出して訝し気に眼を細める。
「お菓子……の詰め合わせ?」
「景品だ」
「いりません」
「まぁそう言わずに」
「……じゃあ」
シャルナは何とも言えない表情で押し付けられたビニール袋を己のバッグに入れた。クロウは安堵の表情を浮かべた。
「ま、邪魔はこれくらいにして後は教壇で寝とくか。あー……2人とも、頼りなくて悪かった」
そう言ってクロウは頭を掻きながら教壇に向かった。だらしなく伸びた紫色の髪で覆われた背を見ながら玄咲は呟く。
「……別に気にしてないのに。教官なりの詫びの品なんだろうな。ちょっとずれてるけど」
「うん。そうだね。ところで、玄咲。パチンコなんか、するんだね」
「え?」
「しかも、ちょっとえっちな、版権ばっか。意外というか、納得というか……結構嬉しそうに、会員カード、仕舞ってたね?」
「いや、俺はあくまで付き合いで打っただけで、別にこれっぽっちも興味なんか」
「誤魔化さなくて、いいよ。うんうん。男の子、だもんね。そういう趣味も、あるよね。全然、おかしく、ないない」
「……」
結局誤解を解くまでに始業までの時間を全て費やした。それでもまだほんのりとシャルナは勘違いをしていた。




