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第62話 この世界の正体

「ふむふむ。大分マシになったわね。戦争で自らを滅ぼしかけるくらいカード魔法を発展させただけのことはあるわ」


 決闘の3日後。学園外。プレイアズ王国市街。90年代に発売されたゲームなのでスマホや携帯電話、まだメジャーじゃなかったパソコンなどは登場しないが、冷蔵庫や洗濯機や電灯やポケベル等の電化製品は登場するそれなりに高度な文明レベルにも関わらず、一部の建物を除いて頑なに中世ヨーロッパ風を維持する世界観重視の街並みを眺めてバエルが顔を輝かせてそう言った。


 本来なら休日である日曜日を挟んで普通に授業が始まる予定だったラグナロク学園は、現在一時的に休学中だ。ゲームと同じ流れだ。学園長が上手くやってくれたようだと玄咲は安堵する。日曜日、玄咲の指定した時刻、場所に赴いた学園長が雷丈家の悪行の証拠を掴み、その事後処理やらなにやらで学園長だけでなくヒロユキや一部教師まで駆り出され、生徒にも全く無関係ではなく、結局休学にしてその間に雷丈家絡みの問題を各々片づけることになったのだ。プレイアズ王国において雷丈家とはそれだけ大きな存在だった。


 とにもかくにも休日。玄咲はどうしてもシャルナにプレゼントしたいあるものを購入するために街に出かけていた。ついでに簡易召喚したバエルを伴って町の観光もさせている。


 現在玄咲のSDには岩下若芽などの上級生から根こそぎ奪ったバトルポイントが5000万ポイント入っている。ラグナロク学園で稼いだポイントは街で普通に通貨として使うことが可能だ。国が運営に関わっている学園ならではのシステム。ラグナロク学園生の優遇の一環であるが、SDを使って街で買い物をするラグナロク学園生の姿が少年少女の憧れを呼び入学希望者の増加に繋がっているのだと、玄咲はゲームで街のモブから聞いたことがある。確かにこのなんか近未来風で格好いい見た目のSDを使って優雅に買い物をする姿は少年少女には憧れの的だろうなと、玄咲は己のSDを見て思った。


「楽しいか、バエル」


「ええ。とっても楽しいわ! 玄咲、ありがとう!」


「そうか……俺は君の笑顔が見れてとても嬉しいよ。これからも時々こうして君に外の世界を見せてあげよう」


「うん! そういえば玄咲。さっきからあなた私と普通に会話しているけれど人目が気にならないの? 小声で延々独り言ブツブツ呟いてる凄く危ない人になってるわよ」


 バエルの指摘の通り玄咲は現在道行く人々が割れて通る危ない人となっている。独り言に加えてその鋭すぎる眼光が危なさに拍車をかけていた。ポケットに突っ込んでいる手が凶器を隠し持っているかのようにも見える。ラグ学の制服のブランドをもってしても誤魔化せぬ危険人物感。しかし当人は全く気にしていない。


「いいんだよ。俺は自分のことは割とどうでもいいんだ。それに、人目を気にするより気にせずバエルと会話する方が得だろう?」


「……そうね。よく分かってるじゃない。ふふ、そりゃ気にならないわよね。だって私と会話できるんだもんね――あら? ねぇねぇ、玄咲。あの店に入りましょう」


「書店か。いいぞ」


 玄咲はバエルと書店に入店した。すぐにバエルが入口近くのテーブルに積まれてる本を指さす。


「あ! 面白そうな漫画があるわ! 是非読みましょう」


「漫画本か。CMAって本当文化レベルが滅茶苦茶だよな。そこがいいんだが。えっとタイトルは【レッド・アイズ】か……」


 玄咲は漫画本を捲ってみる。異世界を舞台にした漫画だ。主人公は狂気に呑まれた軍人。切れると目が赤くなるらしい。どこかで聞いた設定だ。主人公の名前は天杉謙作。どこか玄咲と似た名前だ。そしてそのストーリーもまた玄咲の人生を彷彿とさせた。極めつけに異世界の名前は地球といった。どこからどう見てもレッドアイズは地球時代の玄咲をモチーフにした漫画だった。バエルに青ざめた顔を向けて玄咲は口をパクつかせる。


「こ、これ……なに?」


「あらあら。玄咲そっくりな主人公。格好いいわね」


「格好良くない。気持ち悪い。ああ、よく考えたらバエルに聞いても仕方ないか。分かる訳ないよな。すまない、無茶振りして。応えられない質問をしても意味ないか」


「む。むむむ……あなた、まだ私を甘く見てるわね。いいわ、頃合いだからネタバラシしてあげる。要するに」


 バエルが人差し指を玄咲に突き付ける。


「この世界がCMAを元にした世界なんじゃなくて、CMAがこの世界を元にしたゲームなのよ」


「?? CMA開発者に異世界帰還者でもいたのか?」


「あなたにしては頭を働かせたわね。でも違うわ。人間にはね。他世界の情報を受け取るアンテナみたいなのがついてるの。この漫画も、CMAもそのアンテナから受信した他世界の情報をアイデアとして創作に落とし込んでいるのよ。アンテナの精度は人によって違うけどね。CMAの制作者はビンビンだったみたいだけどこの作者はシナシナだわ。名前から違っちゃってるんだもん。でも、良かったわね。あなたの一生は漫画になるくらい劇的で人の興味を引くものだったってことよ。創作になるってことは価値を認められたってことよ」


「なるほど。CMAの開発者が自分は元からあるものを掘り出しているだけだとインタビューで答えているのを読んだことがあるが、そのまんまの意味だったのか」


「そういうこと。つまり、この世界はゲームの世界ではない。純然たる異世界よ。電子の中の世界でも文字の上に浮かび上がる世界でもない。あなたの住んでいた地球と同じ、生命が息づき苦悩する実存する一世界なのよ。というわけでもうこの世界をゲームの世界などと思い込むのはやめてね。この世界に対する無礼よ? 玄咲」


「う……」


 玄咲は転生初日、この世界がゲームの中だと思って行動してきた。その行動がいかに滑稽だったか翌日にはもう理解していたがバエルの説明を聞いた今となってはさらに痛々しくしか思い出された。実在する人間にあのような態度を取っては嫌われて当然だったなと玄咲は苦々しく顔を歪める。


「……全く、俺は痛い人間だった。あんな振舞いをしては全方位から嫌われて当然だ」


「でも、大分成長したんじゃない? レベルも上がったしね」


「そういえばまだ確認してなかったな。俺は今何レベルなんだろう」


 玄咲は漫画を棚に戻す。そして人目の有無を確認してからポケットから手を抜き、カードを手に持ったままパパっとSDを操作してステータスの項目を開いた。



 天之玄咲

 魂格50



「……大分レベル上がったな。1学期で上げておくべき目安まで1日で達してしまった。レベル差があるほど経験値はたくさん入るからな。流石サンダージョー。レベル93なだけは――バエル」


「なに」


「今ナチュラルにゲームの感覚で話してしまったんだがこれも改めた方がいいのかな」


「いいんじゃない? CMAの知識も使いようよ。製作者のアンテナが鋭かったのね。ゲーム的な仕様に落とし込めきれていないところも多いけれどかなりの精度でこの世界の再現を成し得ているわ。参考にする程度なら十分メリットがあるわ。要は依存しなければいいのよ。もし不安なら私に聞いて。この世界とのギャップが大きければ私にできる限りで正してあげる」


「ありがとう。バエルには助けられてばかりだよ」


「どういたしまして」


「しかし、中々面白そうな本が並んでいるな。ちょっとだけ眺めていくか」


 玄咲は店内を散策する。そしてある1冊の本に眼を留めた。本棚から抜き出して表紙を眺める。


「カード図鑑か……そういえば俺の知識と現実のカードの効果、大分差異があるみたいなんだよな。内容は……うん、詳細だ。それに分かりやすい。いい本だ」


「買っていったら? お金は一杯あるんでしょ?」


「値段は――5000円か。全然問題ないな。勉強用に買ってくか」


 玄咲はカード図鑑を購入して店を出た。無料の紙袋を手提げて歩く玄咲にバエルが話しかける。


「帰ったら一緒に読みましょうね。玄咲」


「ああ」


「約束よ」


「ああ、約束だ」


「ふふ。楽しみ」


 玄咲の隣で可憐な笑みを浮かべるバエル。この世界に転生できた幸運を玄咲は改めて噛み締めた。


 そんな会話を交わしながら歩くこと30分。ようやく玄咲の目的地が見えてきた。プレイアズ王国の王城周辺の活性地域から少し外れに立地する入口の暖簾に一文字ずつ、金、星、と書かれた万屋【金星かねほし】。とにかく金の欲しい店主が、カード、AD、そしてカップラーメンまで、とにかくせわしなく何でも取り扱っている店だ。ゲーム通りならシャルナへのプレゼントを売っているはずの店。


「売ってると良いんだが」


 敬愛してやまないCMAの開発者のアンテナの精度を信じながら玄咲は暖簾を潜った。


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