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第35話 クララ・サファリア ―Ever Eve―

「先生、大変なんです! とにかくG組に来てください!」


「へ? 私?」


 いつものように教室へと向かっていると、生徒の一人で理事長の孫娘の神楽坂アカネが階段で出会い様クララにそう告げた。


「私はこれからおじいちゃんにも知らせてきます! それじゃ!」


「あ、う、うん」


 クララの返答も聞かず神楽坂アカネは階段を走り去っていった。信頼の証と取るべきか。苦笑しながらもクララは進路を変更して、G組へと急ぎ向かった。


「毎年必ず何かしらの問題が起こるのよね……。そりゃG組が出来てから生徒の平均成績が上がったのは事実だけど、治安面の問題もたまには学園長に考えて欲しいわ」


 階段を走りながら脳裏に2人の生徒の顔が浮かぶ。真っ先に浮かんだのは、


「雷丈壱人。多分、彼絡みかな。全く、学園長はなんであんな子を入学させたんだか」


 あの雷丈家の子供で、世界有数の魔符闘士の才能を持つ鬼子。実力は問題ない。ただ素行に問題しかない。昨日だけでどれだけの問題を起こしたことか。入学させたのは間違いだったとクララは今でも思っている。

 

 2人目に浮かんだのは、


「天之玄咲。彼も、得体がしれないのよね……」


 朝っぱらから逃げ場のないカードトレイン内で堂々とセクハラをしたかと思えば、話してみれば礼儀正しく真面目な子。しかし、その瞳の奥に潜む憐れみを誘うほどの暗鬱さと、理事長の殺気に対するあまりにも異常な反応。あんな生徒は初めてだ。クララには彼の内心が全く分からなかった。しかし、予感、いや、確信があった。この子が平穏な学園生活を送るなんてことは絶対あり得ない。きっとどこかでとんでもない問題を起こすだろうという確信が。


 ふと、クロウ教員が昨日早速2人が衝突したと言っていたのを思い出した。もしかしたら今回も2人が衝突したのかもしれない。そんなことを思った矢先。


 悲鳴が聞こえた。


「!? まずいわ!」


 尋常の悲鳴ではなかった。生きてて遭遇することすら稀。そういった類の危急を知らせる悲鳴だった。近づくにつれて大きくなる。距離のせいではなく、ボリュームが大きくなっている。獣のような悲鳴が上がって、沈黙した。


 階段を登り切ると、青ざめた生徒の人混みが見えた。その中に飛び込んだ。


「どいて! どいて!」


 人混みを泳ぎ切り、G組の教室の入り口までたどり着く。


 そして、見た。


 その、地獄と称してもいささかも過言ではない、惨状を。


 入り口と端の中ほどになぜか元2年G組の級長岩上若芽(いわかみじゃくが)が転がっている。素行の悪さで有名な生徒だ。陥没したこめかみからだくだくと血を流している。そして恐ろしいことに両目がなかった。近くに転がっている血塗れの2つの球体は、そういうことだろう。死んでいるのかもしれない。そう疑うことにいささかの躊躇も抱かなかった。クララはこんな凄惨な状態の生徒を今まで見たことがなかった。間違いなく今までで最大、そして最低の状態。そしてその絶対値はすぐに塗り替えられることになった。


 震えながら、ゆっくりと、教室の奥へと視線を移す。視界の端に捉えただけで、クララは叫び出しそうになった。その衝動をこらえて、一気に顔を上げる。


 雷丈壱人の、信じられない姿が、そこにあった。


 四肢が砕かれている。ズボンの股間が血と汚物に塗れている。顔が陥没し皮膚が破れ骨が砕け赤白いものが見えている。そして――眼球がガラス片の剣山となっていた。細かい破片、大きい破片、不揃いな破片、醜い破片、多種多様なガラス片が鋭く突き立っている。赤血に塗れて、ギラギラ濡れ光って、まるで獲物を咀嚼している最中の獣の牙のように、酸鼻な匂いを発して生え揃っていた。


 雷丈壱人は動かない。それだけの暴虐をその身に刻まれていながら動かない。いや、逆か。刻まれているからこそ動かない。死んでいるから。動かない。きっと、そうに違いない。そう思わずにいられないほど、雷丈壱人の体に刻まれた破壊は凄まじいものだった。怨恨が叩きつけられていた。誰がどう見ても分かるほどの怨恨が、激情の発露が、目の前の結果だった。恐ろしかった。血が凍るという言葉を生まれて初めて体感した。どうやったらここまでの恨みを抱けるのか。ここまでのことができるのか。クララは分からない。クララは人をあまり恨まない。そういう性分なのだ。だが、この破壊の主は違う。イカれている。何かが根本的に違っている。狂っているなどという言葉では足りない。正常なのだ。


 悪魔にとってはきっとこれが正常なのだ。


「――あなたが、やったの」


 クララは悪魔に問いかける。地獄のような魔力を火炎のように噴き上げる、悪魔の王のような、地獄の主に。


 天之玄咲という名の、悪魔に。


「――俺がやった」


 応え、天之玄咲がゆっくりとその瞳を振り向かせた、


「なにか文句あるか」


 赤色の瞳と目が合った。 


 血どころか魂までもが凍り付いた。


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