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第16話 強制マッチング

 ポケットから取り出したアイス・バーンのカードを掌に乗せて眺めながら玄咲はシャルナと廊下を歩く。アイス・バーン。ジャガイモ・アタックをメタれるだけの1発屋カード。このイベント以後使う機会が2度とないカード。なのに、このイベントで使えなかったカード。もはや存在価値を失った、役立たずの、玄咲の現状を考えれば生まれてこない方がマシだった、ゴミカード――。


 思わず、悪態が口をついて出た。


「ちっ、ゴミカードめ」


「さっきと、言ってること、違う」


「うっ」


 この世界にゴミカードなんてない。カードショップで格好つけて言ったセリフが凄く恥ずかしいことになっていた。羞恥に押し黙る玄咲にシャルナが尋ねる。


「これから、どうするの?」


「そうだな……なるべく自分より弱い相手とだけ戦って安全確実に白星をあげよう。よく考えたら絶望するにはまだ早い。この学校にはカードさえ使わず勝てる雑魚がうようよしてる。そいつらを狙い打つんだ」


「うーん……? 方針は、まぁいい、けど、なんで玄咲、他の生徒に、そんな詳しいの?」


「……入念な下調べの結果だ!」


「……なる、ほど?」


「行くぞ!」


 シャルナは首を捻って納得し切っていない様子。勢いで誤魔化し、知識の出どころを追及する暇を与えないために、玄咲は行動に移った。




「え? 強そうだからやだ」

「うーん……君と戦うメリットは?」

「ひっ! ご、ごめんなさい!」

「私とシてくれたら……あ、ちょっと!」

「G組のクズが話しかけんなよ」

「ストーカーまでしたらしいな? あんた最低だよ」

「ふひひ! 拙者は雑魚の相手はしない主義ですぞ!」

「バトルを建前にセクハラする気でしょ! 分かってんのよ!」

「あんた天之玄咲でしょ。ありえないからそういうの」

「まだ不運と踊る気はねぇよ……」

「ふん、帰るヨロシ」

「封じられし邪眼が言っている。君とは関わるなと」





「普通に対戦断れるとかなんだよこの糞ルール……もういやだ……」


 否定と拒絶の嵐に玄咲の心は折れた。左目を髪で隠し見た目だけ格好つけた雑魚モブ生徒にフラれてがっくしうな垂れる玄咲の背中をシャルナがポンポンと叩く。


「まぁ、まぁ」


「う、うむ。何だか元気が出てきた。よし、もう一度別の生徒にアタックをかけるか」


「いや、方針を変えた方が、いいと思う」


「……そうだな。実は俺もちょっとそう思い始めていたところだ。そうだ。一度強制マッチング機能を試してみるか。ポイント0状態での敗北はポイント減少なしのノーリスク。もっと早くに試しとけば良かったな……」


 強敵と当たるリスクがあるためゲームでは長らく使っていなかった。そのため頭からすっかり抜け落ちていた機能を玄咲は使ってみることにした。SDを指で操作し、バトルの項目から強制マッチングボタンをタッチする。


 マッチングは即座に成立した。


『対戦成立。5号館。23番室』


 ポケベルのように文字がSD上に表示される。玄咲はシャルナにSDを見せた。


「対戦が成立した。バトルルーム5号館の23番室で対戦相手が待っている。最初からこうすればよかった。無駄な時間を過ごしたな……」


「無駄じゃ、ない」


「っ!」


 予期せぬ温かい言葉に玄咲は胸を打たれた。どこからどう見ても無駄な時間を過ごし、巻き込まれた立場にも関わらず、無駄じゃないと自分を励ましてくれる。それははっきり言って天使の所業なのではないか。シャルナは天使なのではないか。むしろもう天使でいいのではないか。そんな考えが玄咲の頭の中でもたげる。


「行こ」


「ああ……」


 涙が零れそうになるのを必死に堪えながら、玄咲はシャルナとバトルルーム5号館23番室へと向かった。






 カードショップ・デバイスショップとは反対側に当たる校舎の左横。そこにバトル・ルームはあった。サイバーチックな外観をした銀色が主色の巨大な長方形の建物。それが10棟、ずらーっと横一列に並んでいる。


「すごい、ね」


「ああ。これは、中々威圧感のある光景だな……」


 例の如くゲームとは大違い。というか冷静に考えたらゲームと合致している事柄の方が少ない気がする。ゲーム知識を現実が裏切り続けている。仰々しく並ぶバトルルームの光景から、玄咲は思考を一気にゲーム知識の有用性にまで飛ばした。


(俺のゲーム知識って意味あるのだろうか。現状役に立つどころか足を引っ張ってしかいない訳だが……いや、俺が信じてやらなくてどうする。どうせ俺からゲーム知識を抜いたら戦闘能力しか残らない。つまり有意義なものは何も残らない。嫌でもゲーム知識を活かしていくしかないんだ……!)


「5号館だから校舎側から5棟目だな。行こう」


「うん」


 1棟目、2棟目を横切り、3棟目も横切り掛けたとき、その会話は聞こえた。


「マジかよ! あの100年に一度の天才って言われる特待生の光ヶ崎リュートが負けた!?」


「さっきあの3号棟からうな垂れて出てきたらしい。負け犬の顔だったってよ」


「相手は誰だよ!」


「それがなんと――サンダージョーらしい。あいつこの学校に来てたんだよ……」


「嘘だろ! あのサンダージョ―かよ! 絶対目合わせねぇようにしなきゃ……」


(リュート……あいつサンダージョーとこんな初期に一度戦っていたのか。知らなかった。けど、まぁ現時点で勝てるはずないよな……なにせサンダージョーのレベルは入学時点で既に――)


「玄咲、早く行こ」


 モブキャラの会話に耳立てて立ち止まり思考しているとシャルナにそう急かされた。見ると、シャルナは気分悪そうに俯いている。その様子を見てようやく、玄咲はこのままだとシャルナとサンダージョ―が再び顔を突き合わせる可能性があることに気付いた。思考を打ち切って歩き出す。


「す、すまない。急ごうか」


「うん」


 3棟目を横切り、4棟目。シャルナが口を開く。


「さっきあった、リュートって人、強いの」


「強いよ。1年の中じゃ最強クラスさ。とはいえまだレベル17。いくらなんでもサンダージョ―と戦うのは分が悪すぎたな。1年後ならサンダージョー如き相手にならないん――だろうが」


 だが、と断定系で言いかけた言葉を玄咲は咄嗟にだろうが、と推量系に変えた。幸いシャルナは違和感を覚えた様子はなかった。


「レベル17……それじゃ、相手にならない、ね」


「ん? サンダージョーのレベルを知ってるのか?」


「し、知らない、よ? 噂から、レベル17より、もっと上だろうなと、思っただけ、だよ?」


「そうか……そういえば――この世界ではレベルを尋ねるのはマナー違反なんだっけ? 余程親しい人でないと晒さないとか」


「うん。なんで」


「いや、なんでもない」


 シャルナのレベルを聞こうとして、ゲーム中で語られるこの世界の常識を思い出し、玄咲は危ういところでマナー違反を犯す愚を避けた。玄咲はゲーム知識に感謝し、やはり自分には必要だなと再確認した。


 そうこう話してるうちに玄咲はバトルルーム5号館へと辿り着いた。自動開閉式の赤い線で彩られた銀色の扉をくぐり入館する――。




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