第37,5話 その頃のミッセル
「誰が知性のカケラもない底辺だ! ちっ、まだ脇の甘い有望な新入生に今のうちにツバつけてやろうと思ったが、話していて不愉快だ! 帰る! お前、最低のクズだよ!」
「あっ!」
ミッセルに話しかけてきた魔符士科の上級生の上の下程度の顔の男子生徒が肩を怒らせて去っていき、別の女子生徒に声をかける。すぐにいい雰囲気になる。魔工学科の校舎に肩を抱いて消えていく。ミッセルは肩を落としてため息をついた。
「はぁ……私、自分が思ってるより才能なかったのかな」
ミッセルは玄咲と分かれて以降ずっと魔工学科の校舎前のエントランスをぐるぐる徘徊していた。たまに魔符士科の生徒が訪れては話しかけ、あるいは話しかけられ、そして断られ、それを繰り返すうちに、ミッセルのプライドはズタボロになっていた。ズタボロになるあまり尊大な口調が崩れている。自分には相応しくない。そう思い始めていた。再び、肩を落としてため息をつく。
「はぁ……なんで誰にも選ばれないんでしょう。私はこんなに可愛くて努力家で魅力に溢れているのに。でも、また選ばれなかった。あの男は見る目がないですわね。あの女も。でも、私は選ばれない。いつも、いつも、才能だって、神様に選ばれなかった……」
素の口調で愚痴を零す。見栄を張る元気もない。再び、ため息が零れる。
「グルグルさえパトロンを見つけた。そもそも凄い才能を持ってた。もう1年の工房持ちでパトロンを持ってないのは私だけ。ふ、ふふ、やっぱり私には才能がなかったんだわ……」
ふ、ふふふ、とヒステリックな笑いが漏れる。涙も一滴、瞳から漏れた。
「だって才能があったら、ちょっと本当のことを言ったくらいでキレられるはずありませんもの。底辺だから底辺だって言っただけなのに、あ、あんな酷いこと、言わなくたっていいじゃないですかぁ……ぐす。本当に、この世界は傲慢で自己中心的な人ばかりで嫌になります。あぁ、どこかにいないかな。私の理想をすべて満たしてくれる王子様みたいな人が。金髪でイケメンで家柄も良くて何より凄腕魔符士のパトロンが――」
「――もしもし、君」
「え?」
声を掛けられミッセルが顔を上げる。そこに。
ミッセルの理想を全て満たす、一目でそうと分かる、金髪で、イケメンで、凄腕魔符士の、王子様みたいな雰囲気の、隣に赤毛の女を連れた男が立っていた。その瞳はどこまでもまっすぐで正義の光を宿していた。
「あ、あ……」
ミッセルは一瞬で恋に落ちた。
「僕は光ヶ崎リュート。こちらが神楽坂アカネ。僕たちはADを改造してくれる魔工技師を探しているんだが、誰か腕の良い魔工技師に心当たりはないかな」
(光ヶ崎ッ!?)
七霊王家。名家中の名家。予期せぬビッグネーム。理想中の理想。けど、ミッセルの胸は思ったより高鳴らない。
そんな肩書よりも、目の前の個人に胸が高鳴って仕方ない。
「あ、それならば――」
是非私を、そう言いかけてミッセルは口を紡んだ。連日の失敗が常の尊大な口調を奪っていた。そして、何故か胸が高鳴り、素直な物言いが出来なかった。
「……えっと、もし、私で良かったら――何人か凄腕の魔工技師を紹介します。上級生にもツテがありますから」
「ありがとう。なら好意に甘えることにするよ。えっと、君の名前は」
「ミッセル・コンツェルタントといいます」
リュートは口笛を吹いた。
「あのコンツェルタント家の令嬢か。麗しいな」
「うるわっ!?」
「ああ。麗しい。それより、なぜ自分を紹介しないんだい」
「その……私より凄い人は一杯いますから。そりゃちょっとは腕に自信がありますし、試験順位15位以内で工房も持ってますけど、一番という訳ではありませんし、グルグルにさえ……」
「……なるほど。よし、決めた!」
リュートはスマイル。
「君に頼もう。これも何かの縁だ。何より、その偉ぶらない謙虚な姿勢が気に入った!」
「ちょっとリュート。適当に決めないでよ」
「いや、こういうのは直感で決めた方がいいんだよ。彼女で間違いない。僕はそう確信してる」
「あっそ……まぁ腕を確かめてからでも遅くはないか」
「い、いいんですの?」
「ああ」
リュートはスマイル。
「君がいいんだ」
「……はい」
ミッセルはこの人のためになら自分を抑えてどこまでも尽くそうと思った。




