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第35話 メタメタロボット

「コスモちゃん。分かった? もう絶対あんなこと、特に男の人にはしちゃ駄目だからね? 絶対だよ?」


「分かりましたグルグル博士。コスモもうしません。コスモは人の心がよく分からないので時々非常識なことをしでかします。これからも非常識なことをしたら人の心を教えてください。コスモ、真面目にインプットします。早く人間になりたいので」


「不安だなー……機人は総じてちょっと感性が変わってるけど、こんなに変わった機人は初めて見たよ。まぁ、あの構造なら仕方ないのか……」


「ぶいっ」


「褒めてない」


(これでみんなのハートをキャッチ――と密かにコスモは人たらしの算段を企てます)


「本当変わってるなぁ……」


 困り顔でコスモを見つめるグルグル。玄咲はシャルナに尋ねる。


「俺が気絶している間に話は進んだか?」


「進んでないよ」


「そうか」


 進んでいなかったらしい。困り顔のグルグルへ、コスモが腕をグルグル回す。


「うーん。しかし、グルグル博士にメンテナンスされたあとはいつも以上に調子がいいです。また試し殴りしてもいいですか?」


「ああ。うん。あれだね。ちょっと待ってて」


 グルグルがゴミ山から台座に円柱形のクッションと上部に黒いボードがついた魔工器具を取り出して持ってくる。その魔工器具を見て思う。


(なんか。パンチングマシーンみたいだな……)


「セッティング完了。じゃ、このパンチングマシーンに打ち込んでみて」


「……」


「OKOK。コスモのちょっといいところ、見せちゃいます」


 コスモが腕をグルグルさせながらパンチングマシーンの前へ。そして謎にリズミカルな動きでフック・ジャブ・ジャブ・ストレートとシャドーボクシングしてから、両腕を裏拳を前に向けて垂直に持ち上げて、


「バスター・モード」


 詠唱。コスモの手首から先が光に包まれる。


「コスモ、ドレスアップ!」


 そして次の瞬間には、黒色の大型のグローブが手に装着されていた。長方形を連結させたような異様に太い五指が目を引く。全体的に丸みはなくゴツゴツと角張っている。そのいかつい外観は否応なしにその本質を見るものに伝える。殴るための兵器。そう、誰の眼にも分かる形をしていた。


「か、格好いい……!」


 大好きなADの3次元形態にキラキラと眼を輝かせる玄咲の袖をシャルナが引く。


「ねぇねぇ。バスターモードって?」


「機人にとっての武装解放だよ。武装解放とは厳密には少し仕組みが違うから詠唱が違うらしい。ただ細かい理屈は分からない」


「玄咲にも、分からないんだ」


「俺は分からないことだらけだよ」


「知ってる」


「……そうか」


 知ってたらしい。


「デストロイ・アーム装着完了。コスモは今小宇宙を感じています! いきますよ!」


 コスモが掌中央のカードスロットにカードをシュインとインサートする。パンチングマシーンへと両拳を重ね合わせて突貫する。


「バーン・ナックル!」


 コスモのADが金色の光を纏う。バーン・ナックルは打撃力強化、そして対魔力効果をADに宿すランク4土属性の機械魔法。生半可な魔法なら殴り消せる。その効果は今は発揮せず、純粋に打撃力強化の効果だけを発揮している。コスモのADが唸りを上げて円柱型のクッション――サンドバッグへと真っすぐに突き込まれる。コスモが叫ぶ。


「ヒート・エンドォ!」


 ズガン!


 サンドバッグにADが突き刺さった。吹き飛ばされたサンドバッグがグワングワン揺れる。カード魔法で保護されていなければ木っ端微塵に爆散している威力。上部の黒い長方形の板上でドゥルルルルルルル、と高速で数字が入れ替わる。そして、ピタッと止まった。コスモがずいっと覗き込む。


 10000Guru。


 謎の判定基準で審査され、謎の単位で表された数字を見てコスモが未だいかついままの両腕を上げて喝采を上げた。


「――やりました! ついに10000Guruの大台突破です! グルグル博士のおかげです!」


「いや、コスモちゃんの素質値が高すぎるんだよ。たったあれだけのメンテナンスで8000Guruから10000Guruまで跳ね上がるなんて思わなかった」


「コスモ感激です!」


 コスモとグルグルが二人で盛り上がる。玄咲とシャルナは置いてけぼりだ。


「ねぇ玄咲。何の話してるか分かる?」


「分からん。俺は分からないことは徹底的に分からないんだ。論理的思考で解明とかできないからな」


「私も。お揃いだね」


 いやなお揃いだと一瞬思ったが口にはしない。


「っとと」


 コスモがちょっとよろめいて頭を抑える。


「むむ。しかしときめきパワーを消費し過ぎました。最近補充がご無沙汰でしたからね。そして丁度ここに凄まじいときめきパワーの持ち主が。補充しなければ」


「!」


 来た、と玄咲は思った。


(コスモはときめきパワーが減ると常時コスモに膨大なときめきを発している主人公に抱き着いてエネルギーを補充するんだ。「と、ときめいてねーし! 俺硬派だし!」と赤面してすっとぼける大空ライト君を見るたび殺したくなったっけなぁ……。お、俺もばっちりコスモにときめいている。ど、どうしよう。そ、そうだな。コスモはときめきパワーが尽きるとろくに動けなくなる。これは人助け。だから、成り行きに任せるのが最善。だから仕方ない。仕方ないんだ……)


 玄咲はカチンコチンになる。一歩も動かない。足が地面に吸い付いて離れない。どんな現実も受け止める所存だ。仕方ない。仕方ないと、脳内で言い訳を繰り返す玄咲の前までコスモが歩み寄り。


 そのままスルー。


「えっ」


 そしてシャルナにすたすたと歩み寄り。


「あなたですね。以前も感じたときめきパワーの発生源は」


「へっ?」


 そのまま、抱き着いた。


「ふぇっ!?」


(!? なんで!? いや、でも、これは、これで……!)


 シャルナの細い体にコスモの豊満な体が挟み込むように押し付けられている。シャルナの白い顔が玄咲も感触をよく知る柔肉の渦の中に取り込まれている。どこか淫靡な光景。玄咲はちょっとやましい気持ちになりながらも眼福の吸引をやめられなかった。


 コスモがシャルナを離す。そしてガッツポーズをして、瞳の星をキュピーンと物理的に光らせた。


「うーん……ときめきパワー、全開です! 究極完全体コスモです!」


 元気いっぱいなコスモの隣でシャルナが目を回している。


「きゅー……」


「シャル、大丈夫か」


 回している。


「きゅー……」


「……くっ! 俺に、もっとときめきパワーがあれば……!」


 ちょっと回復したシャルナが尋ねる。


「うーん……ときめきパワーって、何?」


「人間らしさです。人間性と言い換えてもいいです。ダークソウルです」


「ダークソウル?」


「おっと、宇宙から変な電波が。コスモはコスモパワーで稼働するリアル系スーパーロボットなので時々宇宙電波を口から垂れ流してしまうのです?」


 頭の端っこのアンテナみたいにも見えるアホ毛を抑えるコスモ。シャルナは首を傾げる。


「コスモパワー……? 宇宙電波……? ときめきパワーはどこ行ったの?」


「人間のもっとも人間らしい心。それがときめき。ときめいてる人間は内応する小宇宙がギュンギュンに稼働して刹那宇宙と繋がります。そして小宇宙からコスモパワーを発します。それがときめきパワー。つまりときめきパワー=コスモパワーです。コスモはときめいてるあなたを通して宇宙と繋がりコスモパワーを得たのです。コスモパワー=ときめきパワーが尽きるとコスモは稼働停止します。だから常にときめきパワーを求めているのです」


「変わってるよねー。滅多にいないよ。こんなエネルギーで稼働する子」


 グルグルがちょっと嬉しそうに言う。研究者魂みたいのものが刺激されているらしかった。


「なるほど。それでときめきパワー? を集めているんだね」


「はい。でも、それだけじゃないです」


「え?」


「コスモはもっと人間らしくなりたいのです」

  

 コスモが胸に手を埋めて微笑む。


「人間、らしく?」


「はい。コスモは何故だか分からないのですが人間に魅かれます。だからもっと人間のもっとも人間らしい感情ときめきに触れて、人間性を学びたいのです。だから、人間性をたくさん集めて、もっと強くなるです。おっと、また変な電波が。とにかく、一杯ときめきパワーに触れて、一杯人間らしくなるのです。コスモは人間が好きなのです。きゅぴん☆」


 星の入った瞳にピースサインを添えて謎ウィンクするコスモ。微笑ましい。だが、複雑な気持ちになるのを玄咲は止められなかった。


(……できればその理由には気づかないで欲しいな)


 密かに玄咲は願う。


「……そっか、良い理由だね。ん? え?」


 シャルナはふと疑問を覚える。根本的な疑問だ。尋ねてみる。


「じゃあ、なんで私に抱き着いたの?」


「あなたが膨大なときめきパワーを発していたからです」


「……ときめきってどういう意味? 機人用語?」


 シャルナが顔色を悪くして尋ねる。


「ときめきはときめきです。一般的な意味と同様です。おそらく想像している通りの意味だと思いますよ」


「……それで、なんで、私に抱き着いたの?」


 シャルナが墓穴を掘る。


「簡単なことです」


 コスモが玄咲をビシィッ! と犯人よろしく指さしてシャルナの本心を暴く。


 ビシィ!


「あなたが彼に常時ギュンギュンにときめいているからです! コスモもちょっと引くほどに!」


 ピシィ!


 場の空気が凍った。玄咲はキョドってただただ情けなく斜め下に視線を逸らしている。グルグルは実に複雑そうな表情で、専門外の状況に対応を惑っている。


 そしてシャルナは。


「」


 凍っている。


「」


 凍っている。


「」


 凍っている。


「――はっ!」


 解凍する。そして今度は顔が燃える。一瞬で真っ赤になる。シャルナはコスモに詰め寄って手を下方に突っ張り前のめりになって真向否定した。


「違うから!」


「いいえ。コスモの心センサーは誤魔化せません。あなたは彼にときめきまくってます。コスモが今まで計測した中で断トツのときめきパワーの持ち主です。数値にすれば53万――驚天動地のときめきパワーです。ちなみに隣の彼は18万です。彼も中々ですね。でも、彼よりあなたの方が約3倍ときめいています。じっちゃんの名にかけて真実です」


「っ!」


 玄咲はちょっとショックを受けた。でも嬉しかった。


「と、ときめいて、ないもん! お、お友達、だもん!」


「? 何を言っているのですか? この数値でお友達は無理があるでしょう。コスモは入ってきた当初から恋人と認識していましたが。世間の認識とも相違ないと自負していますよ。とにかくあなたは彼にときめきまくっています! 100パーセント真実です! 真実は――」


 コスモがシャルナにビシィッ! と指を突き付けて宣告する。


「いつも一つです!」


「うにゅっ!? うっ、うっ、う~~~~~~~っ!」


 シャルナの顔色、のみならず全身が過去最大の紅葉を迎える。瞳がグルグルと渦を巻いている。大粒の汗が流れ、瞳から涙が滲む。ぐにゃあ……と顔の輪郭線が歪む。


「う、うにゃーーーーーーー!」


 そしてシャルナは暴走オーバーロードした。


「バ、バーンナックル~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 シャルナが両腕を縦に重ね合わせてコスモに突貫。何故かその巨大な胸へと真っすぐ拳を突き込む。


 ズガンッ!


「あっいだぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 シャルナが赤く腫れ上がった手をふーふーする。それからコスモの胸を指さした。


「なんで、硬いの!? さっきは死ぬほど、柔らかかったのに!」


「コスモはときめきパワーを消費して体を硬化できます。見てください。ちょっとだけよ」


 ぬばぁ。


 コスモが手首の袖を捲り、腕を露わにする。


「ぷちアイアン・モード!」


 ガキィン!


 腕の一部が一瞬で黒ずみ、鉄質の肌となった。コスモが胸を張る。たゆん。


「全身を黒く染めてアイアン・コスモになることもできますが、今回はエネルギー節約のために腕だけです。胸を見せて硬化した部位を見せようと思いましたが、人間らしくないと判断して腕にしました。コスモの学習装置は経験値を300パーセント行動にフィードバックします。50パーセントしかフィードバックしないどこぞの欠陥製品とは違うのです。人間失格ではありませんが」


 ちっ、ちっ、ちっ、と指を振って余談を挟むコスモ。


「ともあれ、これで分かりましたね? あなたのバーンナックル(笑)に合わせてコスモは胸を硬化したのです。その結果があなたのその腫れ上がった両手です。全く、いきなり人に殴り掛かるなんて、人間失格ですよ?」


「ご、ごめんなさい。でも、あなたが、あなたが、余計なことを――! せっかく、玄咲を誤魔化せてたのに――!」


(……俺ってそんなに鈍感に見えるのかな……)


 両手を震わしてコスモに涙目で食ってかかるシャルナを玄咲は複雑半分、喜び半分で見る。コスモは顎に手を当てて首を捻る。


「誤魔化せていませんよ?」


「え?」


「そこの彼は入室時からばっちりあなたの好意に気付いています」


「」


 シャルナが凍る。


「」


 凍っている。


「」


 凍って動かない。


「ついでに言えば」


「コスモちゃん。ちょっとこっち来ようか」


「はい! グルグル博士」


 コスモが喜んでグルグルの元へ赴く。そして部屋の隅で説教を受ける。コスモが感極まってグルグルを抱き締める。グルグルがもがく。


 シャルナは相変わらずフリーズしている。


「……その、えっと、シャル、えっと、その……」


 玄咲はなんと声をかけたものやら分からず、実に意味のない逡巡だけが伝わる声掛けをする。シャルナが凍り付いた表情で、凍り付いた首をギ、ギ、ギ、と玄咲に振り向かせる。玄咲は顔を背けた。


「……」


「……」


「玄咲、オトモダチ、だからね」


 シャルナがオトモダチを強調して言う。イントネーションがちょっと崩れてる。潜在不安が現れている。


「……分かってる」


 それでも玄咲は重々しく頷いて雰囲気で誤魔化した。





 このあとコスモはじゃっ! とやたらと爽やかな感じで手を立てて速やかに帰っていった。一連の出来事はその後暗黙の了解でなんかうやむやになって色々なかったことになった。



 そうは言ってももちろん、両者の記憶の片隅にこの出来事は強く印象付けられた。






「ま、まぁ色々あったけど、とにかく完成したADの引き渡しをしようか」

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