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第27話 片鱗

 ラグマにハーフパンツを1人で購入しに行ったシャルナがバトルルームに戻ってきたとき、スカートから伸びる脚部はしっかりと白色のハーフパンツで覆われていた。どこかで着替えてきたらしい。玄咲は安心した。ようやくシャルナをまともな目で見られる。


 バトルルーム内で、20メートルほどの距離を置いて、魔法陣の上に立ち、2人は対戦のために対峙した。シャルナが手を挙げて大声を出す。


「じゃ、そろそろ訓練、始めよっか。ブラック・フェザーの、お陰で、下半身の無防備さに、気付けて良かった」


「そ、そうだな。人に見られなくて良かった。もし、シャルのその、目撃した人間がいたら殺してしまっていたかもしれん」


「そうかな。玄咲、そんなことする、人じゃないよ」


「……いや、俺は割と平気で人は殺すよ。利害の問題でな。その、世の中には死んだ方がいい人間、殺さなくちゃならない状況、死んでも死ねない状況ってのがそこそこ頻繁にあるからさ。綺麗事ばかりじゃ生きていけないよ。綺麗事は、大好きだけどさ」


「……うん。そだね」


 シャルナは少し寂しそうに笑って、言った。


「でもね、玄咲がどんな人間でもね、私は一生、傍にいてあげる。ずっと、離れない、からね!」


「……うん! 俺だって、一生シャルを守るよ! 地獄に落ちたって、地獄の底から這い上がって、シャルを守るんだ! 絶対にな!」


「うん! ありがとう!」


 笑顔が行き交う。幸せな時間が終わらない。玄咲は幸福感に包まれたままSDを操作する。対戦の申請ボタンを押す。モードは勿論トレーニングモード。シャルナが応じる。SDにカウントダウンが表示される。3、2、1。


【0】


「行くぞ、シャル!」


「うん、玄咲!」


 2人の初対戦が始まる。





「シャル、思ったよりずっと強いな。びっくりしたぞ」


「……いや、玄咲、強すぎ。化け物。アルルちゃん、よく勝てたね。色々ハンデがあったとはいえ」


「次やったら負ける気はしない。驕りじゃなくそう言い切れる。大分カードバトルについて分かってきたし、スロット数3で補正値30のこのADがあれば十分勝てる」


「相変わらず凄い自信。頼もしいよ」


「シャルを守るんだ。傲慢なまでに強くならないといけない」


「ッ! さらっと凄いこというね……」


「シャルを守るために俺は今生きてるようなものだからな。他のことはどうでもいいがそこだけは妥協しない。だからシャル。安心してこの学園で過ごして欲しい。例え君が条件程強くなれなくたって、俺がその分強くなって君を守る。俺にとってシャルは、その、俺の全てなんだ」


「……玄咲ってさ、ある一線を越えると、もう躊躇も何もなく、言いたいこと全部言うよね。私とは、真逆だな……」


「そうなのか?」


「うん。そうなの。ちょっと、羨ましい。……私ね、強くなるよ。その、さ。私も……」


 シャルナの言葉が俯くと同時、止まる。それから顔を上げて、笑顔で言った。


「玄咲のこと、守ってあげたい」


「――そんなこと言われたの初めてだ」


「そっか。良かった。玄咲の初めて、一つ貰っちゃった」


「……う、うん。シャル、ありがとう。嬉しいよ。凄く」


「どういたしまして。そのためには、強くならなきゃね。反省会、しよっか」


「ああ。色々シャルの問題点も見つかったしな。指摘したいことが10程ある。今日はその欠点の修正に費やすとしようか」


「う、頑張る……」








「そうじゃない。こうだ」


「こう?」


「違う。こうだ」


「えっと、こう?」


「うーん……こうだ!」


「……玄咲の説明、分かりづらい」


 現在玄咲はシャルナに短剣の使い方を教えている。ADは魔法を発動する媒体でもあるが、当然形状に応じて武器としての習熟も要求される。シャルナは短剣に変えたばかりで、センスだけで扱っている状態で基礎がなっていないので、玄咲はカードバトルを一旦切り上げて、短剣術を教えることにしたのだ。説明が分かりづらいと言われた玄咲がしょげる。


「……すまん。自覚はある。何分教える経験なんてほとんどなくてな。そりゃ、分かりづらいよな……」


「手本が完璧なのは、助かるけどね。コツが掴みづらいよ。もっと、こう、口頭指導とか、手本見せる以外に、教える方法、ない?」


「……効率的と思える方法があるにはある。でも、その」


「それ、やって」


「……一つ、重大な問題があるんだ」


「どんな問題?」


「えっと、俺がシャルの体に触れて、動きを導いてってやり方なんだけど、そうなると当然シャルと密着することになって、だから、その……」


「問題ないよ。やって」


「え?」


「強くなるため、だよ。妥協なんて、しちゃだめ。それに、今更、だよね?」


「……まぁ、確かに。分かった。じゃあ、やるよ。少し、触れるぞ」


「うん」


 シャルナの後方に立って、体を添える。その瞬間。


 ピクッ。


「っ! すま」


「ただの、反射だから。気にしないで」


「……分かった」


 玄咲は再びシャルナに体を添える。ピクっと反応する。無視する。そして、シャルナの体勢を手で整えて、腕に手を添えて、体を寄り添うようにくっつけて――。


「こうだ」


「っ!」


 シュバッ!


 空気を切り裂く音がした。シャルナが驚き目を見開く。


「凄い。全然、手応えが違う。早くて、鋭い」


「シャルは体の技術的な連動がまだ甘い。時に感覚と相反する動きが正解となることもある。今のがまさにそれだ。少し感覚的にはそぐわなかっただろうが、結果は見た通りだ。要するに技術が足りないって話だな。俺はそれを君に教え込む。センスは抜群だからすぐに覚えられるさ」


「うん。頑張る。もう一度やって」


「……ああ。行くぞ」


 それから何度も玄咲はシャルナに体で短剣を扱う感覚を教え込んだ。シャルナは元々センスがあり、また意欲が何より並外れていたので、スポンジが水を吸うように玄咲の技術を吸収していく。


「よし。俺の教えた通りに打ち込んできてみてくれ。短剣で捌くから」


「うん。分かった」


 シャルナが半身になる。玄咲の教えた通りの体勢で、教えた通りの体の動きで、教えた通りのタイミングで、力を連動させる。愚直に、素直に、玄咲の全てを信じて、全てをトレースする。その結果。


 刹那、シャルナは一つの矢となった。


(!? 早っ――)


 玄咲はシャルナの打ち込みに短剣を合わせる。だが、完璧には捌き切れない。ガキン、と歪な音が鳴る。玄咲がしまった、と思った時にはもう遅かった。シャルナが体勢を崩す。


「あっ!」


「! 危ない!」


 玄咲は倒れ込んできたシャルナを受け止める。ここがバトルルーム内で物理的な怪我を負わないなどという思考は埒外だった。だが、玄咲も僅かに体勢を崩した状態でシャルナの柔らかな身体を受け止めたため、ふにょんとした衝撃と動揺を受け止めきれなかった。足が滑る。玄咲はシャルナと床に倒れ込んだ。


「あっ!」


「っ!?」


 シャルナと抱き合って玄咲は床に倒れ込んでいた。思わぬ事態。心臓がバクつく。でも、体の上のシャルナを押しのけることなど玄咲には出来ようはずもない。ただただ心臓をバクつかせる玄咲の心臓に、シャルナの心音が重なる。バクンバクンと共鳴し合う。シャルナもまた玄咲と同じくらい動揺しているらしかった。シャルナが涙目で玄咲を見る。どういう感情か、それを考える間もなく。


 シャルナは玄咲を抱き締めた。激しい動揺と興奮と歓喜と興奮が玄咲の心に一挙に押し寄せて頭をパンクさせる。玄咲は呂律も怪しく目を回す。手を宙に泳がせてシャルナにどもりながら問いかける。


「しゃ、しゃしゃしゃしゃしゃる。い、いいいったい――」


「――頭、おかしくなりそう」


「――そ、れは、俺、も――」


 シャルナは玄咲の胸板に顔を埋めている。その幽玄の白を宿す髪が顔と胸板の隙間を覆って表情を見えなくしている。だから、表情は見えない。けど、すすり泣きのような声が聞こえた気がした。泣き声。シャルナの一番聞きたくない声。動揺する玄咲に――。


「ね、ギュって、して」


 シャルナがはっきりとそう言う。続けて、


「それだけで、十分だから。強く、なれるから――」


「――」


 玄咲は震える手をゆっくりとシャルナに下ろす。そして――。


 ギュっ。







「――うん。もういいよ。満足。ごめんね。玄咲。甘えちゃって」


「あ、ああ……」


 永遠にも等しい数十秒。その後、シャルナは起き上がり、玄咲の手の中からいなくなった。元に戻っただけなのに、何かが欠けてしまったような感覚。戸惑う玄咲に、シャルナが気持ちを切り替えるように努めて明るく言う。その顔は当然ながらかなり赤い。


「さ、訓練、再開しよっ!」


「あ、ああ。そうだな。訓練を再開しよう」


「うん! 甘えた分、頑張らないと!」


「――そうだな。よし」


 玄咲は立ち上がる。思考は渦巻いている。だが、それら全てを一旦表層意識から覆い出す。こと戦闘に限れば玄咲の切り替えは早い。思うこと、聞きたいこと、一杯ある。だが、今は一旦冷静になった方がいい。そう判断して、玄咲はわだかまる思いを一旦捨て去る。


 何より、シャルナが聞いて欲しくなさそうな雰囲気を発している。


 だから玄咲はシャルナに何も聞かず、ADを構え、ただ告げる。


「こい、シャル!」


「いくよ、玄咲!」


 2人は練習を再開する。玄咲はもうシャルナの矛先を逸らさない。







 その後はバトルセンターの刻限となる10時までひたすら2人は訓練に没頭した。バトルセンターは大量の魔力を消費して稼働する施設のため24時間稼働とはいかない。


 シャルナはさっきのような一撃を中々放つことが出来ずにいた。半分まぐれだったらしい。色々と短剣を扱うコツを教え込みながら玄咲はシャルナにつきっきりでひたすら指導した。そして訓練の終わり際には――。


「ふっ!」


「――」


 さっきの一撃。それ以上の鋭さ。それを安定して繰り出してくる。たった一日でシャルナはこの日玄咲が教えたことの全てを飲み込んだ。冷たい戦慄が玄咲の脊髄を貫く。やや高めから見下ろすシャルナに対して、その手に受け止めた衝撃を未だ感じながら、玄咲は身を震わせた。


(シャルナは、天才だ)


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