第25話 カードパック
「大体候補は決まったな」
「そうだね」
デス・クリムゾンを発見してから2時間。玄咲とシャルナはようやく購入候補のカードを絞り込んだ。あとはレジに行って購入カードを告げるだけ。2人はレジに向かう。その途中、
「あ、玄咲。そう言えばさ、あれって、何?」
シャルナがレジの横の正方形の箱の中に束になって平積みされているラミネート加工された薄袋に収まった商品を指さす。
「あれはカードパックだ」
「カードパック?」
「1万ポイントで購入可能。ランダムで5枚のカードが入っている。最高レアはランク5のカード。運が良ければ格安で高ランクのカードが手に入る。だが、基本は店が在庫処分したいゴミカードが入ってて、10回に9回は損する仕様になっている。要するにパチンコと同じで胴元が儲かるギャンブルだよ。剝いてる最中の脳内麻薬の出方なんてまさに同じだ」
「ふーん、玄咲が好きそうだね」
「……まぁな」
大好きだから反論できない。玄咲はカードパックを剥くのが大好きだった。毎回ランダムでカードが排出されるパックで早期に強力なカードを当ててストーリーを無双する快感は他に例えようがない。欲しいカードがなくても引くくらいには玄咲はカードパックが好きだった。
だが、それはあくまでゲームの話。無限にポイントがあったゲームと異なり現実のポイントは有限。だから玄咲はなるべくこの世界ではポイントを節制して使うことにしていた。引いて精々数パック。そんな思考を働かせる玄咲に、シャルナがカードパックの収まっている箱を見て言う。
「結構、減ってるね」
「人気商品だからな。ほら、また一人おやつを摘まむみたいに取っていった。心のおやつなんだよ。カードパックは」
「でも、トータルでは、カードパックを剥くポイントで、シングルカードを買った方が、絶対安上がりだよね? 狙って欲しいカードを、手に入れるなんて不可能だし。そもそも、何で射幸心を、煽るような商品を、学園で売ってるの?」
「……カードショップは、国と民間企業の共同経営だから。どの企業も絶対置かせろと口うるさいから諦めてるのが現状らしいぞ。それだけよく売れるんだ。そうだ、シャルに1パック買ってやろう。開封は楽しいぞ」
「え、いい」
玄咲はカードパックを1パック買ってシャルナにプレゼントした。
「あ、ありがとう……」
渋々、と言った感じでカードパックを開封するシャルナ。その間にも玄咲はうんちくを語る。
「ランク9までのカードが入った上位パックもあるがそれは100万ポイントするから俺たちにはまだ早い。いずれ買うがな。あっちは手持ちがまっさらな状態で買う分にはかなりお得なんだ。でも、今は1万ポイントのを1パックだけで我慢しておこう。ポイントの無駄遣いはよくないからな」
「これ、無駄遣いだよね?」
「……まだ分からない」
「うん。そうだね。駄目だと、思うけど」
シャルナがカードをパックから取り出し、先頭から順に捲っていく。ランク1、アクア・ボール。ゴミ。ランク1。アクア・ボール。ゴミ。ランク1・アクア・ボール――。
「なにこれ」
「在庫処分だよ」
「……」
ゴミ。ランク1。ファイア・ボール。ゴミ。
「ま、こんなもんだよな」
「ポイントの、無駄遣い」
「……ごめん」
シャルナがため息をついて最後の1枚のカードを捲る。どうせファイア・ボールかアクア・ボールだろう。そんなことを思いながらカードを右から左にスライドさせるようにして捲る。
5。
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
カードの右上隅に表記されるランクを示す数字。ちらりと覗いたその数字が5だった。シャルナは慌てて最後のカードを捲る。
ランク5 闇属性 ブラック・フェザー。
シャルナが買おうと思っていた中で、一番高額のカードだった。それが、カードパックから出た。手を震わしてブラック・フェザーのカードを握りながら、シャルナが呂律の回らない舌で懸命に言葉を紡ぐ。
「あ、あ、あ、げ、玄咲。当た、当たった。欲しいカード、当た――!」
「き、奇跡だ。0,000何パーセントの確率だ。こんなことが俺の人生にあるんだな……」
「玄咲、ありがとっ!」
「!!!!!!!!?」
シャルナが玄咲に抱き着く。完全な反射行動だった。が、すぐに我に返っておずおずと離れる。顔が赤い。衆目の中で行ってしまったので尚更恥ずかしいのだろう。玄咲も恥ずかしかった。だが、それ以上に嬉しかった。反射とはいえ抱き着いてもいいと思えるほどの好意を抱かれている。その事実が嬉しくてたまらなかった。昇天してもいい。忘我の体で時を忘れる玄咲に、
「はい」
シャルナがカードパックを1パック渡す。玄咲が時を忘れている間に買ってきたらしかった。店員のおばちゃんが微笑まし気に玄咲たちを見ている。万引きならこうはならない。シャルナが両こぶしを握ってグッとガッツポーズ。
「私からも、プレゼント。きっと、いいカードが出るよ」
「そうだな。この流れはいいカードが出る流れだ。よし、早速開封だ!」
ランク1 ダーク・ボール
ランク1 ジャンク・ボール
ランク1 ジャガイモ・アタック
ランク1 アイス・バーン
ランク1 アクア・ボール
「……」
「……」
「も、もう1パック!」
「あ、シャル。それ以上は沼に。それに、流れが――」
ランク1 アイス・バーン
ランク1 アイス・バーン
ランク1 ジャンク・ボックス
ランク1 アイス・バーン
ランク1 アイス・バーン
「……(イラっ)」
「……シャ、シャル。冷静に」
「も、もう1パック、だけっ!」
「う、うん。次で本当に最後だぞ? もう1パックだけ、もう1パックだけだからな?」
「分かってる。大丈夫。ポイントの無駄遣いは、よくないもんねっ!」
ランク1 ジャップ・ラップ
ランク1 ダーク・スワンプ
ランク1 スカ・トラップ
ランク1 パチンコ・マシンガン
ランク2 ダーク・ハイ・バレット
「もう1パック!」
(ああ、シャルが壊れてゆく……それを止められない自分が情けない……俺はシャルに逆らえないんだ……)
ランク1 ジャンキー・ホリック
ランク1 ギャンブリング・エンジェルス
ランク1 パチンコ・マシンガン
ランク2 インスタント・トリップ
「……(サーッ)」
玄咲の肩に手を乗せて開封を眺めるシャルナの顔面が蒼白になる。ようやく冷静になってきたらしい。カードパックをプレゼントしなければ良かったかなと思いつつも、まぁ30万のブラック・フェザーが当たったからトータルでは勝ちかと自分を慰めながら最後のカードを捲る玄咲の眼に、
4。
「「!!!!」」
ランク4の証たるカード右上隅の4の数字が写る。シャルナが肩を揺らす。早く捲ってという催促。玄咲は唾を飲み込んで、最後のカードを捲り切った。
ランク4 バーサーク・デッド
「――玄咲、これって」
「あ、ああ。俺の欲しかったカードだ。や、やった。費やしたポイントは無駄じゃなかった……!」
「うん! 良かったね! 無駄にならずにすんだ! 本当に、良かったね!」
「ああ、良かった。良かったなぁ、シャル……!」
「うん、うん……!」
2人はバーサーク・デッドが当たったことよりも、ポイントが無駄にならずに済んだことの方を喜んでいた。ちょっと危ない精神状態だった。パチンカス一歩手前の精神状態。クロウなら倍プッシュする状況。だが、2人はパチンカスではないので冷静に引くことを選んだ。
「じゃあ、元は取れたし、あとは普通にカードを買って帰ろうか。もう冷や冷やしたくないしな」
「そうだね。ちょっと怖いしね」
カードパックの購入は程々に、2人はシングル買いで必要なカードを揃えてカードショップを退店する。そしてバトルセンターへと向かう。
バトルセンターへの道中、シャルナはしみじみと呟いた。
「ギャンブルは、良くない」




