冒険者ギルド 3
全話にて今週投稿分終わりと書いたが嘘だ!
準備できたので続きもアップ
ギルドの中庭には巨大なオブジェ設置されている。
高さ8mほどの縦長の黒い石?でできたそのオブジェの下の方には宝珠のような部分があり、そこに吟遊詩人フィルが触れる。
「『アクティベート』」
そう唱えると、オーブを通してオブジェとフィル、それにフィルの手の中の冒険者カードが繋がり、情報が更新されていく。
オブジェは、ここカルケーネン王国冒険者ギルドの核ともいうべきもので、正式名称を冒険者の石碑というが、一般的には単にメンヒル|(直立石)やアーカーシャオーブと呼ばれている。
この地のオーブにアクティベート……接続したことで、フィルは正式にこの地の冒険者ギルドの一員になったことを意味する。
ここの冒険者ギルドにおける貢献度はゼロなので位階は最低の10級であり、ギルドからの恩恵は得られない。しかし依頼取得の際には他のギルドでの位階も参考にされるため、新しい土地でも実力に見合った依頼を受けることができるというシステムだ。
そしてフィルのギルド位階は、スキルについての情報提供が評価され、一気に6級に昇格した。
更にフィルがこれまで踏破してきた土地々々の地図も合わせてアクティベートされたことで、カルケーネン王国冒険者ギルドが保有する地図情報が一気に30倍に膨れ上がり、その分の貢献度が加算され、3級のギルすら追い抜いて1級に昇格した。
貢献度的には段位認定が相当であるが、【万年一級】との壁となる特別な“なにか”の確認できていないので、1級に留め置かれた。
「ウソでしょ?」
ズカベルはその報告に開いた口が塞がらなくなった。
「『地図情報はあくまでこの島の情報だけにとどめたし、情報の精度もそれなりに下げている。全部一度に登録しようとしたら量が多すぎて司書の精霊に恨まれてしまうよ。第一、別の島の地図など不要だろう?』」
「……一体君はどれほど多くの“冒険”をしてきたんだい」
「『特別なことなど何もない。ただ人より長く旅をしているだけさ』」
「君は余所の島から来たんだよね。どこから来たんだい? 良ければ教えてくれないか」
探るようなズカベルに、髭の吟遊詩人は穏やかなトパーズの瞳で答えた。
「『忘れたよ』」
…………………………………………
「フィルさん!」
冒険者のギルクーク・ラットリアが何人かの冒険者と連れ立ってやってきた。
「フィルさんがこの周辺だけじゃなく、広い世界を冒険してるって聞いたんだ。色んな土地の話を聞かせてくれないか。あと、話せる範囲でいいからスキルのコツとか」
キラキラとした瞳のギルの申し出に、フィルは少し困った顔を浮かべる。
「『吟遊詩人としても冒険者としても、そういった情報は私の飯のタネなのです。ロハという訳には』」
あ、とバツの悪い顔になるギル。そこで友情を盾にただ働きを要求したりしない素直な男である
「だったらギルドから依頼を出そう。王国を出たことのない冒険者が大半で、いたっていいとこ隣国。それ以上向こうの国への旅をしたことのあるヤツは数えるほどしかいないはずさ」
赤と金糸のチュニックの男装の麗人ズカベルが、スタイリッシュに会話に加わる。
「だからそういった国々の話やキミが見知ったスキルの話。無論、話す内容は君が選んでくれていいし、君の能力を話す必要もない。長旅の注意点みたいな実務的な話だってかまわない。どうだい? 対価を支払うから君の飯のタネを売ってくれ」
「『その依頼、お受けしましょう。買い手がいる限り売り惜しみはしませんよ』」
二人のやり取りに、ギルクークほか、若手の冒険者たちから歓声が上がる。いつの間にか人も増えている。
「参加費は一人小銀貨3枚」
「えー、金取んのかよ」
ギルドマスターの言葉に一部から抗議の声が上がる。
「当り前です。会場設営費とか、何にだってコストが必要です。吟遊詩人殿の報酬は参加者一人当たり銅貨6枚。ですから興味を引けそうなネタを準備してくださいね」
「『それではギルドが負担するどころが儲けの大半を持っていくことになる。ぼったくり過ぎだ。情報を得ることは若手冒険者の底上げにもつながるのだからギルドにもメリットがある。ギルドの財布を使え』」
「いえいえ、あくまで受益者負担が原則。会場設営費などを考えればギルドの利益などなく、いわば持ち出し。ギルドは十分以上に負担を負っていますよ」
「『……1級冒険者に対する指名依頼にしては安すぎますね』」
「それはきみぃ、後輩の指導育成はいわば先輩冒険者の義務。可愛い後輩たちの為に一肌脱いでボランティア感覚でやってくれたまえ」
「『善意を強要して安く買いたたくようなブラックギルドに従う謂れはない。指導のやり方はこちらで決めさせてもらう。君たち、私の泊まっている宿に移動だ。話はそこでしよう。そうすれば会場設営費とやらもかからない。どうだい?』」
「のった!」
フィルの申し出にギルが即答する。
「『お題はそうだな、第一部がこの島の国々。国家間の敵対・友好関係や各地の雰囲気に美味しいものと特産品、加えて魔獣やダンジョンの特徴など。第二部がサブスキルと職業スキルの派生について』」
よく通る吟遊詩人の声に、集まっていた若者達だけでなく、周囲のベテラン達からもざわめきが起こる。
「……僕も参加していいかな?」
「冒険者が優先です。どうかご遠慮ください」
ギルドマスターの申し出に優雅とすら言える所作で断るフィル。
「わかった、わかった。取り分は折半。どうだい?」
「『ギルドからの指名依頼なので報酬は参加人数に関係なく1時間当たり最低銀貨2枚+参加人数による歩合。それと講義内容にこのギルドにおける新情報があったらその情報料と貢献度は別途貰う。参加費の設定はギルドに任せるが、高すぎると人が集まらなくて無駄になるから、その辺は君の才覚に委ねるよ」
「……人の弱みに付け込んでると碌なことが無いぞ」
「『君はいま、鏡に向かって話しているのかな?』」
しばし睨み合ったズカベルとフィルだったが、やがて握手を交わし契約が成立した。
その日、ギルドの一角で行われた講義は好評のうちに終わった。
特に職業スキルの派生については、冷やかしに参加していたベテランがダメもとで受けたフィルの指導によって、数日後には上位クラスを取得し、その有効性が実証された。
そのことから、フィルの講義は瞬く間に冒険者ギルドの人気コンテンツとなり、フィルの懐が温かくなった。
フィルのもたらす新情報とそれに伴う情報料に、冒険者ギルドの主計課は悲鳴を上げたが、ギルドマスターのズカベルはその支払いを認めた。
「惜しむらくは、これらの情報はこのギルド出身の冒険者の手で見つけてほしかったよ。吟遊詩人殿のもたらした情報に、彼らが奮起してくれるといいんだけどね」
* * *
「きーたかー。“ペドロフ・チイチャイコスキー”」
「きーたきーた。呪われた名、だって、マジウケル~」
「ズカ公までへーこらしやがって、けったくそ悪い」
「新参のおっさんの癖して、そのうえセンセ―だってよ」
「でも強いらしいじゃん」
「あんなのマンネンのロートルをノしただけじゃん。大したことねーよ」
「なんか真名で呼ばれるの、嫌なんだって。そんでズカちゃんがソンタクして」
「そんであの通達かよ。上の癒着、マジキモ」
「あ、しってっかぁ。アイツのガキ、めっちゃ上物らしいぜ」
「へえ、例のとこもってきゃいい稼ぎにもなりそうだな」
「よぉっし、粋がったペド野郎にどっちが上か、教えてやろうぜ」
「そんで、奴隷のガキをちょいとご寄付いただいちゃおうぜ」
「ぎゃははは、いだだく、いだだく」
「まてまて、そんなメンドウはいらねぇよ。オレがいい話持ってきたぜ----------」
「なるほど、わからん」
「判んなくてもやるこたいっしょだ。心配すんな」
「そんじゃあセンセ―様とおべんきょう会とシャレこもーか」
ゲ~ラゲラゲラゲラゲラ
■ ガジェットTIPS
冒険者ギルド
世界中、ありとあらゆるところにある冒険者のための互助組織。明らかに人的交流のできない僻地にも存在する。
主な業務はクエストの受注受付・発注、素材や情報の買取販売、スキル訓練、そしてステータスのセーブや転職ができる冒険者の石碑の管理である。
ギルドマスターは功績や政治力ではなく、冒険者の石碑を管理できるかどうかで決定される。石碑はアカシックレコードに接続する装置であり、マスターはその巫だとする向きもある。
ある国家が無理やり冒険者の石碑を接収した際、ギルドマスターはいつの間にか姿を消し、石碑が力を失ったいう逸話もある。
冒険者ギルドカードにはステータスボードと【鑑定】の機能があり、身分にかかわらず取得できるためすべての住民が冒険者という例もある。
ある街 (または国)の冒険者ギルドで問題を起こし、追放されたとしても、他の地方のギルドでその問題が共有されるわけではない。
1時間後に次話投稿予定