【閑話】めかみちゃん
■ めかみちゃん ■
黄昏時。またの名を逢魔が時の空を背景に目に焼き付くのは、歪に歪んだ亡き妻の面影を残す愛する娘の姿。それが死にゆく男の見た最期の記憶であった。
--忘れたくない
--忘れたい
相反する願いを胸に抱きながら、男は死んだ。
--そのねかいかなえましょう
逢魔が時。
魔に出会い、魔が差し、父親の死を憤怒と侮蔑の視線を向ける魔に魅入られた娘の姿。
首だけとなった男がそれを見つめる死の瞬間、時が止まったように、その瞬間が続いていた。
黄昏の空に異形の現れたが、死の瞬間で固定された男には、どうすることもできない。
--いせかいてんせい ちーと、りゅうこう、はやり、わたし、めかみちゃん、あにゃにゃにゃにゃにゃっ
セルロースと歯車とゼンマイと毛糸でできた案山子のような“めかみちゃん”の体の中から蒸気が噴出し、ポーッと警笛が鳴る。
“めかみちゃん”のセルロースの手が男の首を無造作に掴む。為す術なく状況に翻弄される男の脳裏に、一つの物語が流れ込んできた。
剣と魔法のファンタジー世界で貴族の三男として生まれたペドフィル・チイチャイコスキーは、優れた魔法使いにして精霊使いで、小さなお友達にモテモテになる魅了の力で100年に渡って延べ1万人の幼児幼女を犯し続け、百人の幼女がつくるベッドの上で、幼女に包まれる幸福のなかこの世を去る伝説に残る幼児性愛の魔王、幼児性愛者の中の幼児性愛者。座右の銘は「合意があるから強姦じゃないもん」。
実感すら伴う物語の記憶に、男は嫌悪のあまり吐きそうになる。しかし肉体を持たぬ魂だけではそれもできない。
何よりおぞましいのが、その物語がただの創作ではなく、まるで既に起きたことを追体験しているかのように感じる部分であった。
--うれしい? ねえ、うれしい? しあわせにしてあける、あなた、ぺとふぃる、Ether-Netにきろくある、Ether-Netにかきこむ、あなたぺとふぃる、ちいちゃいこすき、しあわせなしんせい、しあわせなしょうめつ、かくていてきみらい、せかいのきおく、わすれない、あかしっくれこぉとにかく、わすれない、せかいのきおくはわすれない、きえない、えいえん、かきこむ、てちたるたとー、うわかき、わすれる、きえる、しあわせ、しあわせ? しあわせたよね? りゅうこうにひんかん、いせかいてんせい、いけてるあたし、あたし、めかみちゃん、めかみちゃんといっしょ、すっといっしょ、はなれない、はなれない、けぇけぇけぇけぇけぇけぇ
奇怪な笑い声?をあげる“めかみちゃん”は、男の首を掴んだまま虚空を駆け、やがて巨大な黒い球体に近づき、男を無理やりそれに押し込んだ。
こうしてペドフィル・チイチャイコスキーの異世界転生物語が始まった。
■ 次回予告 ■
吟遊詩人フィルとその一行は魔獣はびこる危険な森を進む商隊と出会い、行動を共にしていく。
騎竜乗りの少女や護衛隊長の大剣使いと友誼を結び、女商会長ともねんごろになるフィルだが、その目は何かを狙っていた。
ペドロフ・チイチャイコスキーは改名したい、第3話『ペドロフ・チイチャイコスキーとしょうたい×しょうたい』。
君は性癖に抗うことができるか?
なお、内容は予告なく変更となる場合がありますのでご了承ください。
次回予告は嘘です。
本話でこのお話はおしまい(最終回)です。
もしかしたら続くかもしれませんし、続かないかもしれません。その辺はなりゆきで~。