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稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
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廻る

四人はさっそく用水路に降りてみた。


そこにはたくさんの生物が共生していた。

ドジョウに、メダカ、ミジンコ。


「わ、これミジンコかな?

ほら見える?すっごい小さいぞ。

俺が次に生まれ変わるであろう、ミジンコじゃん。


そっか、俺ここに住むんだな。そうかーこんな綺麗な用水路に住むのか・・・

それもいいかもな。

なーんてね」


以前、蒼音と言い争いをしたとき、彼は来世ミジンコに生まれると宣言したのだ。

あのときはやけくそで、ミジンコを半ば卑下していたが、ミジンコにとってみたら失礼な話だ。


「あたしだったら、とんぼかな。

とんぼに生まれ変わって空を翔びたいな。

ね、園田君は?

園田君は生まれ変わるとしたら何がいい?」

琴音は深い意味もなく、蒼音の意見を求めてみた。


「あ、僕?

うん・・・


僕はそうだな。

生まれ変われるのかな?


僕はいいよ、僕の代わりに今度は、茜音がこの世に生まれてくれれば、僕はもう生まれなくてもいいよ」

いつもの悪い癖で、ついつい物事を卑屈に考えてしまう蒼音であった。


「馬鹿だなー園田君は素直すぎるんだよ。

そんなに思いつめなるなよ。


何をどう希望しようが、そんなの関係ないよ。

あくまでも個人の希望なんだからさ、もっと柔軟になろうよ。

そうだなー園田君は、俺と同じ用水路のタニシはどう?

いいよタニシは、じっとしれてればいいんだから」


あまりにも蒼音がうじうじしているものだから、涼介はわざとからかってやった。


「タニシはいやだよ!

せめてメダカにしてよ!」


蒼音は涼介にのせられて思わず叫んでしまった。


「アハハ!

メダカがいいなんて、園田君も向上心がないなーでもいいな、そうしよう、俺たち用水路仲間だな」


『あたちは、カラスがいいな。

カラスになって夕焼け空を飛びたいな』


「え?茜音ちゃんカラスがいいの?

カラスって都会じゃ厄介者だけど、そうよね、ここだったらカラスになるのもいいかもね。

夕方になれば、綺麗な山に帰れるものね」


琴音はちょっと驚いていた。

茜音はてっきり、今度こそ人間の女の子として生きてみたい。

と切望していると思っていたからだ。



「でもいいな、みんなでこの里で生まれ変わって、共存できたら素晴らしいだろうね。

もしかしたら・・・・

いつか本当にそうなったりして?」


蒼音はすっかり気を取り直して、イタズラっぽくそう言って笑ってみせた。



だけども、それは誰にもわからない。

数ある死生観の一つに過ぎない。


そうだとしても、空想することは自由だし、想像を膨らませることで、気持ちは癒された。


胎盤に置いてくるべき胎内記憶を、蒼音と茜音はかすかに思い出すことができた。

それはきっと二人が互に呼び合ったから。


蒼音の中に眠っていた茜音の魂が覚醒したことによって、二人の記憶が繋がって蘇ったのだろう。





『あ、お地蔵様だ』



木立の足元に、ひっそりと野仏が祀られている。

茜音は懐かしさを込めてお地蔵さまに手を合わせた。


「そういえば、お地蔵様って、この世に生まれることができなかった子供たちを浄土へ導いてくれる、菩薩様なのよね。

赤いよだれ掛けしてるね、お地蔵様。


きっと茜音ちゃんは、ここで生まれてから、お地蔵様にも守られていたんだろうね」

琴音がそう教えてくれたので、蒼音と涼介も心こめ、両手を合わせお祈りをした。


蒼音は祈りながら考えた。


もしかすると、自分だけが恵まれていた・・・

という考えは傲りなのかもしれない。


自分は茜音の運命を上から憐れみ、立ち位置を決め付けていたのかもしれない。

良いことも悪いことも全部を含めての運命なのだ。


歯車が一つ違えば、茜音は自分だったかもしれない。


この世に生を受け、あるがまま素直に生きているのは、茜音の方だったかもしれない。

ほんのささいなきっかけで、それはいつでも反転できたのだろう。


だからこそ尚更、お地蔵様に祈りを込めた。


(お地蔵様・・・

僕には茜音の行く末を導いてやることもできません。

どうしたいのかどうすればいいのか、まだわかりません。

だから・・・


どうかよろしくお願いします。

お地蔵様、僕に勇気をください)






午後になり、おやつのかき氷を食べ終えると、四人はそれぞれ風通しのよい縁側を陣取りうたた寝をした。


庭にはひまわりや朝顔が咲いている。

盛りを終えた芍薬の葉も薙いでいる。


山の方からは、カナカナカナ・・・・

と、ヒグラシの鳴き声が聞こえてきた。


夏の終わりを予感させる、物悲しい鳴き声だ。




軽く午睡を貪るつもりが、気がついた時には夕方近くになっていた。

夏至を超えて、陽が傾くのが随分と早くなったようだ。


いつのまにか夕凪になり、辺りは一時、静寂に包まれた。






「蒼音・・・起きたん?」



ふと・・・


聞きなれた呼び声が飛んできた。


身体を起こすと、居間の卓袱台には蒼音の両親が揃っていた。



「お母さん!」




蒼音の声に気がつき、ほかの三人も起き出したようだ。




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