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稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
夕焼け小焼け
57/64

手と手

《・・・・と


・・・音


・・・・蒼音聞こえる?


あたちの声が聞こえる?》


《え?


茜音?


茜音の声なの?

一体どうやって話かけているの?


これは夢?

夢の中なの?》


《えへ、わかんない。

でも話せるね。


あの時みたいだね。

覚えてる?


お母しゃんのお腹の中にいた頃、あたちたち、よくお話ちちたよね》


《・・・うん、覚えているよ。


っていうか覚えているような気がする。

思い出したような気もする。


たしか・・・


お母さん達が、僕ら双子の名前を考えた頃だよね?


あの頃から僕達、互に想いを通じあえるようになったよね。

お腹の中でね。


そういえば、いつもお母さんが僕らに声をかけてくれて、歌をうたってくれたりしたね。

赤とんぼの唄、僕覚えてるよ。

楽しかったな》


《それに温かかったね。

お腹の海の中は、気持ちよかったね。

ずっとここにいたいって、そんなこと話ち合っていたよね》


《うん、生まれる時は苦しいのかな?

って不安だった。

けど、早く一緒に生まれたいとも話したね。


あの時あの頃は、未来が待ち遠しかった。

全てが順調だった。

二人で手を握り締め合い、その日が来るのを待ち望んだよね》


《そうだね。

楽ちみだったね。

外にはどんな世界が待っているかワクワクちたね》


《・・・でも君はいなくなってしまった。



ある日突然、君は、僕の呼びかけに応えてくれなくなり、握り合った手が、次第に冷たくなって、君は日毎に小さくなってゆき、そしてとうとう僕は一人残されたんだ。



何度呼んでも、返事はなった。


僕は泣いた、お腹の中で声にならない声を出して泣いた。


お母さんの泣き声も聞こえていた。

お母さんは毎日泣いていた。


だから僕も生まれるのをやめようかと悩んだ。


だけど、お母さんが泣くのをやめて、僕を励ましてくれたから、僕は生まれることを決めたんだ》


《蒼音頑張ったね。

あたちの分も頑張ったんだね。

えらいね蒼音。


今・・・

生まれたこと後悔ちてるの?

それとも生まれてよかった?》


《ど、どうしてそんなこと聞くの?

そんなこと、この僕が言えないよ。


そんなこと茜音に言えないよ。


僕は・・・・


僕は・・・・

二人で受けるはずだったこの世の幸福を、独り占めしたんだよ。


君も受けるはずだった、お父さんお母さんの愛情を僕は一人で受けてしまった。

君も歩むはずだった未来の恩恵を、僕だけが奪ってしまった。


僕には、自分の生き方を評価する権利なんてないよ。


茜音は一人きりで逝ってしまった。

だったら、僕こそ同じように孤独じゃなきゃいけないんだ。


そうだよ、ずっとそうしてきた。


友達なんか作って楽しんじゃ駄目なんだよ僕は。

あの時・・・


僕も茜音と一緒に逝けばよかった。


そうすれば、茜音も今まで寂しくなんてなかったろう?》


《違うよ、あたち寂ちくなんかないよ。

あたち今までずっと寂ちくなかったよ。

蒼音とずっと一緒だったから。


蒼音が嬉ちい時は、あたちも嬉ちかった。

蒼音が悲ちい時は、あたちも悲ちかった。


あたちはいつも蒼音の中にいたんだよ。


だから、あたちも蒼音も一人じゃなかった。

蒼音を通ちて、あたちはこの世を感じることができたんだよ。


蒼音がいたから、この世の感動を、同じように感じることが出来たんだよ》


《じゃあ茜音?

これからも僕と一緒にいてくれるだろう?

ねえそうだろう?


どうしたの?



何故黙っているの?


茜音?



返事をしてよ。


あの時みたいに黙って逝ったりしないで。

僕を残して一人で逝ってしまわないで・・・


茜音!》




返事のない夢の最後・・・・


夢・・・・


だったのだろうか?

気がつくと外はもう明るくなっていた。


夢の終わりを見届ける前に、もう朝を迎えていた。



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