表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
邂逅_かいこう_
4/64

座敷童子?

驚きのあまりそれ以上声も出ない蒼音は、恐怖心から言われるがまま煎餅を一枚、目の前で微笑む女の子に差し出していた。


『ありがとう』


(お・・・・女の子だ。小さな女の子だ。どこの誰なんだ?

どうして僕の家に女の子が居るんだ?僕なんにも聞いていないよ!

前にここに住んでいた子なのかな?でも・・・・

ここは新築のはずだけど・・・)

彼はこの状況を冷静に判断しようと、脳内をフル回転させ思案した。

ぽりぽりと無言で煎餅を食べ終えた目の前の女の子は、うろたえる蒼音にお構いなく満足した様子でお礼を言った。


『ありがと美味ちかった』

「いえ・・・それはどうも・・・」

不可解なこの状況が飲み込めない蒼音は、曖昧な返答で、この場を乗り切ろうと頑張った。

しかし無理だった。

「あ、あの君どこの子?どこから入ってきたの?」

わからないことはうだうだ考えずに、身近な人に訊ねることが一番早い解決方法だ、と、田舎の時子おばあちゃんこと、時バアが教えてくれた。


『う~ん・・・・・わかんない』


「え、わかんないって、お家がどこかわからないの?じゃあどうやってここに来たの?」

『それもわかんない、気がついたらいた』

蒼音は困り果てた。完全に混乱していた。

(どうしよう・・・・・僕、越してきたばかりだから近所に知り合いもいないし、土地勘もないし・・・・お母さんかお父さんの会社に電話したほうがいいのかな?・・・・それとも警察に、僕んちに迷子がいるって、知らせた方がいいのかな?)

蒼音が考えあぐねている間にも、おかっぱ頭でくりくりお目目の女の子は、微動だにもせずこちらを見詰めていた。

ふと、気がついたことある。


(あれ?この子・・・・)


不思議なこと、に女の子は和服を着ていた。蒼音にも詳しくわからないけれど、女の子は赤いとんぼ柄の、襦袢のような服を着ていた。

(どうしてこの時期に、着物なんて着ているんだろう?お祭りでもあるのかな?この町内で・・・・

でも・・・妙だな。それとも、この辺りの子じゃないのだろうか?)

蒼音は不思議に思った。

ふいに、ざわざわと、再び鳥肌がたつのが感じられた。

この子の格好や様子からして・・・

蒼音は想像をふり払おうと試みたが、じわりじわりと恐怖が先行した。


(もしかして・・・・・この子・・・・・・座敷童子!?)


(まさか・・・・まさかね・・・・・だって今はまだ明るいし、第一どうして僕んちに妖怪が出なきゃいけないんだよ。そーだよ、この子は道に迷って、僕んちに勝手に上がり込んで来たんだ、そうに違いない)

蒼音は納得できる結論を求めて一人必死に答えを探した。

見ると、猫の小町が女の子にすりよっているではないか。警戒心の強い動物が、自らそばに寄るくらいなのだから、妖怪であるはずがない。そう自分に言い聞かせた。


「あの君、どうやって僕の家に入ったの?どこか鍵が空いていたの?」

蒼音は気を取り直して、ソファーの前にきょとんと突っ立つ女の子に、再び問いかけてみた。


『う~ん。わかんない。あたちなんにもわかんない』

「わかんないって・・・・じゃあ名前は?名前はなんていうの?何歳なの?

それくらいは本当のことを教えてくれなきゃ困るよ僕」

『でも・・・本当にわかんない』

わからないと連呼するわりには、さほど困った様子も見せない女の子に業を煮やし、蒼音は少しむっとした。

「なんだよそれ!人んちに勝手に上がり込んでおいてわかんないって。じゃあどうするの?交番に行く?」


『ふっ・・・・ふえ・・・ふえ・・・・・だって、気がついたらここにいたんだもん。あたちだってわかんないもん・・・・うぇーん・・・・・・!!』


どうやら、年端もゆかぬ童女(どうじょ)を、威嚇したあげく泣かせてしまったらしい。蒼音はますますお手上げ状態で焦っていた。

「ご、ごめんよ・・・ちょっときつい言い方だったね。でも、気がついたらここにいたって言われてもな・・・どうしよう」

蒼音こそ泣き出したいくらいだった。今日は転校初日で、精神的にも疲れていたし、宿題もあったし、自分の部屋の荷物も片付けたかった。


『ぐすっ・・・・ひっく・・・・・・呼ばれたの・・・・誰かに呼ばれる声が聞こえたの、そうちたら、あたちここにいた』

女の子は声をしゃくり上げながら、ようやく答えてくれた。


「呼ばれたって誰に?」

『また怒らない?あのね・・・わかんないけど、聞こえた。


”誰かそばにいてよ”って叫び声が聞こえた。そちたらここにいたの。そちたら、目の前で蒼音が煎餅を食べてたの。美味ちそうだな~って思って声に出ちたら、蒼音が気づいてくれたの』

「え?どうして僕の名前を知ってるの?自分の名前も思い出せないのに僕の名前は知っているの?」

蒼音はぎょっと後ずさった。


『うん、ちってるの。どうちてかな。

前からちってたみたいにちってるの。でも、それもわかんない』


(なんなんだよこの子?呼ばれたからここに来たって?それって僕がさっき叫んだ言葉じゃないか・・・・ってことは、僕がこの子を呼び寄せたっていうのか?)

彼はとっさに、そばにある引越しのダンボールを開けて中身をかき回すと、一つの手鏡を探し出した。

そして目をつむりながら、それをおもむろに女の子の顔に向けた。

以前テレビか本で聞いたことがあった。お化けや幽霊は鏡に映らないってことを実証しようと試みた。

目を開いて、おそるおそる鏡を覗き込むと・・・

青ざめながら冷や汗を一つ垂らした。


(やっぱり!・・・)


手鏡には、女の子の姿だけ映っていなかったのである。

(やっぱり、この子は人間じゃないんだ・・・そういえば・・・・さっきから気になっていたけど・・この子・・・・

すこ~しふわふわ宙に浮いてない?なんで?どうして?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ