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稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
サンクチュアリ
18/64

デカメロン

「・・・・・ん?

デカメロン?

何だそれ?でっかいメロンのことか?

ていうか誰が言ったんだ?」


涼介は目の前の二人を交互に見比べ、あきらかに不審な顔をした。


たった今宙から聞こえた声。


それは言わずもがな・・・


涼介には姿の視えない茜音の声であった。

視えはしないが、どういうわけか、今の声だけは聞こえてしまったらしい。


三人がしりとりに興じる様子を見て、つい仲間に入りたくなった茜音は、とうとう黙って見守ることが出来ず声を出してしまったのだ。


(あちゃー・・・・聞こえちゃったんだ今の声)


蒼音と琴音は目を合わせ、茜音の方に振り返った。


『えへへ・・・』


茜音は舌を出して失態を誤魔化そうとしていた。


しかし、今更仕方のないことだ。

二人はこの場を取り繕おうと必死に御託を並べた。


「ぼ、僕が言ったんだ。


うんそう僕がね、なんとなく語呂合わせのつもりで言ったんだ。

そう、デカメロンって僕の造語だよ。

大きなメロンって意味で」

蒼音はあたふたと言い訳した。


「そ、そうなんだ~園田君ってユーモアがあるのね。

でっかいメロンなんて誰も思いつかないわよね~すごい発想よね・・・

うん本当」

蒼音の話しに調子を合わせ、琴音も一生懸命に協力してくれた。


「え?園田君の声だったのか?

にしてはちょっと変な感じだったけど・・・」

涼介はいぶかしんだ。


「何言ってるんだよ。

僕と桜井さんしかここにはいないじゃないか。

他に誰の声だっていうんだよ。

やだな~菅沼君は変なこと言い出して・・・」


「ふうん、でも・・・・・・・・

余計なお世話かもしれないけど、でっかいメロンでデカメロンって、それ思いっきりすべってるよ。

こけてるよ。


僕達以外の人には、それ言わない方がいいよ。

空気が凍るからね」

涼介は平然と蒼音を小馬鹿にした。

けれど、茜音の存在を嗅ぎつけられるよりは、小馬鹿にされるぐらい我慢できた。


「うん忠告ありがとう。

肝に銘じておくよ。

今後言わないよ、そんな馬鹿らしいことは・・・・・

絶対にね」

蒼音は男らしく堪えた。

愚か者の烙印を押されることを甘んじて受け入れた。


「そ、そんなことないよね?

すべってないよ。

傑作だったよ。デカメロン。

ね園田君」

琴音はことの真相を知っているだけに、どうフォローすべきか迷ったが、一応は蒼音をかばいつつ茜音のことを隠し通した。






「ところでさ・・・」

涼介は立て続けに最後の一撃を突きつけた。


「最後に《ン》がついたから園田君の負けね。

しりとりだから造語もNGね」


涼介の一言で、しりとりはあっけなく終了した。



補足すると・・・・


「デカメロン」とはでっかいメロンでもなく、陸ガメの一種でもなく・・・・

十四世紀のイタリアの作家、ボッカッチョが書いた傑作。

男女の悲喜、人間賛歌をおおらかに描いた、世界的に有名な長編小説のことである。


まだ四年生の三人は、そのような題名の小説がこの世に存在することなど知る由もなく・・・

互の無知をさらけ出し、ああだこうだと、丁々発止とわたりあっていたのである。


では、なにゆえ茜音がそんな小説を知っていたのかというと、答えは単純である。


蒼音が授業中、ひとり暇を持て余した茜音は、誰もいない図書室に入り浸り、挿絵のついた本をめくって楽しんでいたのだ。

そこで目にした美しい挿絵が添えられた小説デカメロン。


まだ、字をあまり読めない茜音だけれど、簡単なカタカナくらいは図書館で独学したらしい(?)

デカデカと表紙に書かれた「デカメロン」くらいは読めたのだろう。

しりとりの時、咄嗟に発した言葉がソレであった。

とまあ、至極単純明瞭なからくりであることは、いうまでもなかった。



閑話休題。



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