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稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
サンクチュアリ
17/64

火花

『蒼音大丈夫か?歩けるか?』


蒼音は、茜音の呼びかけにも無反応だった。

へそを曲げているのだ。


話題から遠ざかりたかった・・・

という気持ちもあったけど、蒼音の脚力が、普段剣道の稽古に励んでいるあの二人よりも、劣っていることにショックを受けていたのだ。


琴音がすぐに気がついてくれて、歩幅を狭めながら距離を縮めてくれた。

「園田君、大丈夫?

三人揃って歩かなきゃはぐれちゃうよ。

休憩しようか。少しお茶でも飲む?」


女子らしく気遣ってくれたことはありがたかったが、蒼音は男の沽券を傷つけられたようで少し恥ずかしかった。


まだ登り始めて間もないのに、女の子にいたわってもらうなんて・・・・

思わず、むきになって涼介の方を向いて言った。



「これくらい大丈夫だよ。

それより早く歩こう。

僕達の班は最後に出発したんだ、着くのが遅くなっちゃうよ。

さ、菅沼君、もうちょっとペースをあげて歩こう」


「じゃ・・・

じゃあ遠慮なくペースあげっからな。

弱音吐くなよ」


「勿論だよ。遠慮なんかいらないよ!頼んだよ」


交わす言葉こそ少なかったが、二人はまるで喧嘩をしているようだった。

二人の間に見えない火花が飛び散っていた。


「ちょ・・・ちょっと~なんか雰囲気悪くない二人とも。

せっかくの遠足なんだし、もうちょっと仲良く楽しく登ろうよ。

先生だって競争じゃないって言ってたでしょ。ね?」

少しでも二人の仲を取り持とうと、琴音は琴音で気を配っていたのだ。



「あ、そうだ!しりとりしながら歩こうよ。

黙って登るより気が楽だよ。ね?

そうしようそうしよう。

じゃ、あたしからね。


えーと・・・・

じゃあドングリ!はい、園田君次!」


「え?僕・・・・えっと・・・・

じゃあ、リリリ・・・・・


リクガメ!」


「はっ?陸亀って?なんだそれ。

しょっぱなからすげえマイナーなしりとりだな」

涼介は鼻でせせら笑った。


「いいじゃないなんでも、そういうこと言わないの!

ほらっ次涼介の番。メだよ」


「メダカ」


「カタツムリ」


「えっ・・・僕またリ!・・・・えーと・・・・・・


リンパ!」


「んだよ、リンパってリンパ腺のリンパかよ。パ・・・かよ。

えっとじゃあ・・・・パンナコッタ」


「ははは涼介だってパンナコッタって・・・・!

狙いすぎ!さすが自称スイーツ男子ね。あはは!じゃああたしね。タマゴヤキ!」


「っと・・・キキキ・・・・・キナコ」


「きな粉か・・・普通だな。

じゃあ、コンデスミルク」


「コンデンスミルク?

ああ、練乳のことね。

絶対狙ってるでしょ涼介。


それじゃあたしも・・・・

クマノモウデ!」


「あ、僕それ知ってる。

和歌山県にある熊野でしょ?

熊野詣でって、そこに参拝するって意味だよね?

確か世界遺産の熊野古道がパワースポットなんだよね」


「えー!すごい園田君、知ってるんだ。

あたし親戚が和歌山にいるから知ってたんだよ。


それにほら・・・・

あたしそういう聖地とかパワースポットとかに興味あるから・・・えへ」


「うん、僕は和歌山県には行ったことないけど、おばあちゃんが兵庫県に住んでいるから。

同じ近畿地方だし、なんとなく知ってるだけだよ」

小さな話題だけれど、琴音との共通項がまたみつかって蒼音は喜びをあらわにした。



「っんだよそれ、クマノモウデって・・・・


ふんっ、なんのことか知らないけど、次園田君だから・・・・

デ・・・だよ」。


涼介は二人の共通の会話が面白くはなかったが、何食わぬ顔でしりとりを続行させた。


「うん僕ね。

そうだな・・・デ・・・・

うーん・・・デ?


思いつかないな・・・・」


その時、首をかしげ苦悶する蒼音をよそに・・・

三人がいる空間に、三人以外の声が響いた。




『デカメロン』








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