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稲穂ゆれる空の向こうに  作者: 塵芥
サンクチュアリ
16/64

登山スタート!

遠足当日、天気は晴れ。


少し暑いと言ったほうがよかったが、山頂には涼しい風が吹いているという。

その山頂を目指して、四年生は一学期最後の試練に挑むのだ。


普段から電子ゲームだ、自家用車だ、と足腰を鍛えようとしない現代っ子にとって、この登山遠足は非常に意義あるものであった。

学年主任の五十嵐教諭はそんな思いを胸に、朝から一段とはりきっていた。


「さあいいかみんな!

いよいよ登山を開始する。


もう一度注意するからよく聞いておくように。

まず、むやみに植物を触らない。

自然保護の意味も含め・・・

ウルシや蜂、蛇に出くわしたら危険だからな。


それから、必ず班の男女四人で一緒に行動すること。

一番遅い人に合わせて登ること。


そしてここが一番重要!


絶対に登山コースを逸れないこと。


木々に赤いリボンが結んであるのが目印だ。

もし万一道がわからなくなったら、百八十度後ろを向いて、もときた道を引き返せば必ず登山ルートに出るから安心しろ。


まあ、四年生の登山コースだ。初級レベルの山だ。

約束ごとさえ守れば低学年にも登れる山だから、心配しなくとも大丈夫だ。

先生達はしんがりを務めるから、安心しろ」


先生から最後の注意事項を聞かされた四年生は、引率教師と共に各班に割り当てられた登山口に向かった。


蒼音は母特性のお弁当が入った、ずっしり重いリュックを背負い、そして背後には茜音を伴い移動した。

さすがに、茜音を一人山の麓に待たせておくのは、無理な相談のようだった。


茜音がいうところによると・・・

蒼音と、ある一定の距離を開けることは不可能だそうだ。


領域、結界とでもいうのだろうか。

背後霊というものは、寄生虫のようなもので、とり憑く宿主からあまり遠く離れることは出来ないらしかった。




先頭のグループから順に入山してゆくということで、蒼音の班はしばらく登山口で待機していた。

先のグループの姿が見えなくなったら次のグループが歩き出す・・・といった具合だ。



生憎、蒼音の班は、琴音、涼介の三人での登山になるらしい。

山本あゆみが風邪のため病欠したのだ。


「残念だったね、山本さん風邪ひいちゃって。

折角の登山だったのにね」

蒼音は、女子友達が休んでしまい、しょんぼりと口数少なくうなだれる琴音にねぎらいの言葉をかけた。


「あっうん、でも仕方ないよね。

あゆみちゃんはいないけど、でも・・・

ね、ほらこの班には他に茜音ちゃんもいることだし。

あたしは全然大丈夫だよ、ありがと園田君」

蒼音の後ろにいる茜音の方に笑顔を向け、琴音はブイサインを見せてくれた。


「そ、そうだったね。君たち、同じ女子同士だもんね」

二人の会話が聞こえているのかいないのか、近くで待機する涼介はちらちらと、蒼音と琴音を横目で観察していた。



(あいつ、僕達のこと気にしてるのかな?


そりゃ、こそこそ秘密の話しをしていたら気にはなるだろうけど・・・・

でも、だからって、僕の背後に女の子の幽霊が憑いてるなんて・・・

そんなこと、口が裂けても言えるわけないじゃないか)

もじもじと、蒼音は落ち着き無く順番を待っていた。




「おい、もうそろそろ最後に俺たちの出発だぞ」

涼介が班長らしく準備を促してきたので、三人は立ち上がって登山口へと進んだ。




うつむいてばかりで気がつかなかったけれど、このどんぐり山は名前の由来どおり、どんぐりの実がなる木・・・・・



椎の木立が群生する、緑なす美しい山だった。


歩き出し山に分け入ると、森の香りが鼻腔を刺激し、健やかで清涼な気分を運んでくれた。

野鳥の歌声が響き、ところどころ木漏れ日が差し込む様子は、先ほどの下界とは打って変わった別世界を魅せてくれた。


「空気がおいしいね。森林浴だね」

琴音は思い切り深呼吸をして、瑞々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「そういえば、昨日図書室のパソコンでどんぐり山を検索して調べたんだけど、この山に椎の名木が生えてるんだって。

樹齢五百年を超える巨木だよ。

どの辺にあるんだろう?


会ってみたいな。

でも今日は遠足だから無理よね。

多分道なりじゃないはずだから・・・」

琴音はひとり言のように呟いた。

スピリチュアルに興味のある彼女らしい希望だ。


足元は舗装されていないが、斜面はなだらかで、なるほど、それほどに険しい山でもないらしい。

お山の道の脇には、お地蔵様が祀られている。


何か想うところがあるのだろうか、茜音はお地蔵様の優しい顔をじっと見詰めている。



「あたしこの山に登るの初めてなの。

涼介は?」

さきほどから黙ったままの涼介に、琴音も少し気を配ったのだろうか、なるべくこの場の会話を繋げようとした。


「俺?


ううん、俺もどんぐり山は初めてだよ。

去年の夏休みに父さんと違う山には登ったけどさ。

でも楽勝楽勝!日頃鍛えてるからなっ」

涼介は体力を誇示するように、竹刀を素振りするポーズみせつけた。

どうやら蒼音を意識してのことらしい。


「あはは、さすが剣道市内大会優勝者はすごいね。

涼介は秋の大会も上位狙ってるんでしょ」


「まあね、でも前回の優勝って言っても、四年生の部だけのことだから。

それでも、秋の大会も頑張りたいな!

琴音だってベスト8入りは余裕だろ?」


「まさか!無理だよそんなの」

「大丈夫だって琴音なら。

一年生から一緒に頑張ってきたんだから。

大会に向けて、夏休みの強化練習は休まずに参加しようぜ」


剣道少年団についての会話。

二人の話題に加わることが出来なくて、今度は蒼音がモヤモヤとくすぶっていた。



気がつくと、彼は二人から距離を空けてしまい、後の方からとぼとぼ歩いていた。



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