茜音
「うん視えるよ。
実は・・・・昨日から気になっていたの。
昨日はぼんやりとだけ視えていたけど・・・
今日ははっきり視えるわ」
傍にいる茜は、きょとんと目玉を丸くして聞いていた。
「えー!!
桜井さんには昨日から視えてたんだ!でもなんで?!
僕が茜の姿を確認したのは、昨日の夕方が初めてなんだよ!
どうしてどうして桜井さんすごい!
怖くないの?」
蒼音は興奮して、なおも琴音に詰め寄った。
「慣れてるもん。
信じられないかもしれないけど、あたし、少しだけど霊感があるの・・・
えへへ、こんなこと打ち明けるの園田君だけだよ。
だってみんな怖がるといけないから。
理科室に出る霊もたまに視えるんだよ。
あといろいろね・・・・
でもその子、茜ちゃんっていうのね。可愛いね」
「桜井さん霊感があるの!?
いや信じるよ!
ていうか僕のこの状況も理解してくれるんだよね。
あ、この子の名前はね・・・
昨日僕と二人で考えて決めたんだ。
名前は茜にしようって」
「えー!園田君の方こそすごい!
だって霊と意思疎通が出来たの?
あたしなんてこれまでずっと霊視・・・
視えるだけだったもん。
直接会話なんて普通できないよ。すごーい」
今度は琴音が興奮して、蒼音と茜を交互に見回していた。
「い、いや・・・・
すごいって言われても、僕は今まで霊感とは無縁だったから。
実を言うと一人で戸惑ってたくらいだし。でも桜井さんが理解してくれて心強いよ」
きっかけがなんであれ、蒼音は琴音と秘密を共有できたことが嬉しかった。
「でも・・・
それってあたしのせいかも?」
「え?何が」
「だって昨日あたしに会うまでは、視えも感じもしなかったのよね・・・・
よく言うじゃない?
霊感のある人が近くにいると、連鎖反応で、視えたりすることもあるって。
だったら、あたしがその子を呼んじゃったのかも。
園田君にも何か影響をあたえてしまったのかも、だとしたら・・・・・」
琴音は心底すまなさそうな顔をしていた。
「そ、そんなことないよ。
それは絶対関係ないよ。
だって・・・僕にも原因があるみたいなんだ。
ね、そうだろ茜?」
かたわらで黙って事の成り行きを見守っていた茜は、蒼音にそう訊かれて素直に答えた。
『うん!あたち蒼音とお友達になりたかったの。
蒼音が寂ちそうだったから』
「わーすごい!
あたしにも話しかけてくれるの?
霊と交信するなんて、話せるなんてあたしも初めて!
茜ちゃん・・・だよね?
あたし桜井琴音っていうの。
園田君のクラスメイトだよ。よろしくね」
茜は丸い瞳を更にまんまるくしてびっくりしていた。
茜にとっても昨日からの出来事は新鮮なことだったらしい。
これまで、ぼんやりふんわり蒼音のそばに浮遊し棲息(?)していただけなのに、意識が発露したこの世界は興味深いものだった。
「ねえ園田君、茜ちゃんってどういう字を書くの?
茜空の茜かな?」
「そうなるのかな、普通に当てはめると。
その・・・茜色が好きだって本人に聞いたから・・・」
「ねえ、だったら茜っていう漢字に、もう一字「音」って付け加えて、同じ読み方で茜音って漢字にしない?
とても素敵じゃない?
園田君の名前とあたしの名前と同じ、音・・がつくの。
あ、余計なお世話かな?」
「ううんいいと思うよ。
とてもかっこよく見えるよ。
三人同じ漢字がついてるって、なんだかいいね」
さすがは女の子。気を配るポイントが細やかだな。
蒼音は感心さえしていた。
「ね、いいよね茜音。
茜に音をつけて「あかね」って呼ばせるの、とてもいいと思うよ。
でも茜音にはあまり理解できないかな?まだ小さいから」
『素敵・・・!
あたちにもわかるよ。
茜音・・・・・茜音・・・・
なんだか懐かちい。
琴音、ありがと。あたち気に入った』
とんでもない偶然のなせる技か、もともと霊感があったという琴音だけあって、蒼音にとり憑く幽霊の存在はすんなりと理解してもらえた。
彼にとっては、むしろ茜音のおかげで琴音と話す機会にめぐまれ感謝したいくらいであった。
「ね園田君、クラスメイトとしてこれからもよろしくね。
あたし・・・
自分のこの体質のせいで、今まであんまり人と本音で向き合ったことがなかったの。
女子の友達は複数いるけど、あたしの本当のことを知ったら、多分みんな気味悪がるもの。
でも・・・園田君にならなんでも話せそうな気がしたの。
園田君こそあたしのこと気味悪がらないでね。
だから、これからもお話したりしようね。
茜音ちゃんからは邪念が感じられないんだもん。
きっと悪い霊じゃないと思うのあたし」
蒼音は感動していた。
目の前の濃い霧が晴れて、視界が開けたような気がしていた。
自分のことを理解してくれる人が転校先の学校にいたなんて、信じられない気持ちでいっぱいだっ
た。
「ぼ、僕の方こそ・・・
よろしくね桜井さん。
幽霊のこと詳しくないから、色々教えてくれると助かるよ。
けど、ここの理科室にも出るんだね。ハハ・・・」
「あ、心配しないで理科室の霊は、妖精みたいな小さいのだから、怨念とか感じないよ。
守護霊みたいなのかな?」
「そ、そうなんだ・・・
とりあえず気にしなくてもいいみたいだね」
二人は真剣に気持ちを分かち合ったが、おかしくなって笑い出した。
「くすっ。なんだかおかしいね。
知らない人が聞いたら何の話かわからないよね。
あたし達の会話」
「ふふ、そうだね。けど良かった。
相談できる人が身近にいて。
どうやら、茜音のことが視えるのは僕達だけみたいだから。
お父さんとお母さんにも話していないんだ。
多分信じてくれないだろうから」
二人はしばしその場にとどまり、まだ話し足りない様子で、名残惜しそうにもじもじしていた。
するとそんな二人の様子にお構いなく、後ろから小走りで近づいてきて、振り向きざまに声をかける男子がいた。