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9.イザークと使用人たち

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 ※イザーク視点





 ザッバーーーン


 突然、水の中に入れられて俺は意識が覚めた。

 慌てて起き上がれば、見慣れた邸宅内の大浴場、それも水風呂の中だった。


 何が起きた?

 ――あぁ、思い出した。突然、後頭部を殴られたんだ。恐らく、背後から襲われた。殺気が無かったとは言え、殴られるまで気が付かなかった。不覚。

 殴られた後頭部がズキズキと痛む。


「気が付かれたようで何よりです」


 慇懃に話しかけてきたのは、家令のギルベルト。


「俺を殴ったのは誰だ?」


「旦那さまは、殴られておりません。強いて言うなら、蹴り降ろされました」


 ……俺は立って居たはずだが、()()()()()()()、だと?

 ……うん、取り敢えずそれは不問だ。


()()()()?」


 今までギルベルトは俺の事を『()旦那さま』と呼んでいたはずだが。

 ギルベルトが胡乱気な瞳で俺を睨む。


「さきほど、若奥様のアリス様が火の精霊王と正式にご挨拶なさいましたので、“旦那様”に昇進ですね……ですが、今は、昔のように呼ばせて頂きます、……坊っちゃま!」


 ……ギルのお説教モード突入、だ。


「あなたは! 何を、なさったのか、自覚はお有りですか?」


 ハンナといい、ギルといい、俺は頭の上がらない相手が多すぎるのではないか?


「私は言いましたよね? 若奥様を壊すな、と。だというのに、ご自分の妻を傷付け、それを放置して、いえ、ハンナに処置を任せたのは英断だとは思いますが、その後2週間もの間の逃亡は、いったいどういう了見でしたか?」


 ……何も言い返せない。自分が悪い事は重々承知している。


「この2週間、アリス様は貴方様にお手紙を(したた)めていましたよ、毎日!」


 え? アリスの手紙?


「どうせ、坊ちゃまがいるのは魔の森だから、あちこちに移動していらっしゃるでしょう、お手紙はこちらで保管しております」


 アリスの手紙……読みたい……


「健気にも、毎日、貴方様のお帰りを、貴方様のご無事を私に確かめ、お手紙を託し、魔の森方面へと向かい祈りを捧げるお姿を……、あなたは!」


 アリスが、俺の為に、祈りを?


「~~まずはっ! その身体の汚れを落としてからです! 身綺麗にしないとお手紙は渡しませんっ」


 即、身体を洗った。



 ◇◇◇◇◇◇



 イザークが身体を洗っている、同時刻の大浴場前では、ピア、ギルベルト、ハンナが角を突き合わせていた。


「イザーク様、反省してましたか?」


「無口な上、無表情な方だからなぁ……何をお考えなのか、さっぱりわからん」


ハンナ(わたし)には解りますよ、アリス様を一目で気に入りました!」


「それは俺にも解った」「私も! 瞳孔開いて獲物を固定自動追跡(ロックオン)! してましたよね!」


「獲物…確かに、そんな雰囲気はありましたが……とは言え、アリス様への、あの扱いは……」


「俺は話を聞いた時、眩暈がしたよ。しかも、ハンナ(おまえ)を呼んでアリス様の事を頼んだはいいが、その後逐電したんだぞ? ……はぁ……無責任にもほどがあるだろう…」


「私たちの育て方が間違いだったのかしら……」


「ハンナさん、そこまでご自分を責めては駄目です。っていうか、そもそもそういう考え方が、イザーク様を甘やかしているんですよ! 乳母のせいになって、自分で反省も自制も出来ないって証明しているのと同じではないですか! 言わせてもらえば、イザーク様はもう三十路のおじさんなんすよ? 今更乳母の育て方云々の話ではないです。育ちきってからの行動ですから、本人の責任問題っすよ!」


「うん、ピアの言う通りだ。あの方はもう良識のある大人だ。この間のスタンピードを制圧した時も、一門や他家、腕利きの冒険者、王国軍からの援軍を纏め上げ、見事に討伐隊の総指揮官として責任を全うされた。あのように采配を振れる人が、ご自分の妻に対してあの態度はないだろうと、誰だって思う」


 三人は顔を見合わせ、揃って大きなため息を吐いた。



 ◇◇◇◇◇◇



 それを、大浴場の扉を隔ててイザークは聞いていた。扉はブ厚い作りになっていたが、身体強化で聴力を上げた耳には、簡単に拾える会話だった。


 使用人たちの話を聞いて、イザークは頭を抱えた。

 自分のやる事為す事、全て悪手だ。

 あの時は―――、気が動転して、どうしたらいいか判断が付かなくなって、戦場でも覚えなかった恐怖に見舞われパニックに陥った挙句、出奔したのだ。全てが、初めての体験だったから。慣れない感情に振り回されて、正確な判断を見失った。己は、自分自身に負けたのだ。

 だが、魔の森を駆け抜けながら、反省も後悔もし尽くした。このまま後悔に埋もれる訳にないかない。


 イザークは扉を開けて、使用人に命じた。


「……手紙を、読む」



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