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選ばれたプレイヤー

お久しぶりです

 あの魔法陣爆発事件から数日が経っていた。結局何も分からず、ネットをやれ見れば宇宙人の仕業だとか超能力者が暴れただとか、某国の新型兵器による攻撃だ云々と、思った以上に話題になっていた。

 写真もあったので見てみたが、確かに普通ではない。爆発地点が綺麗すぎる。あの時も思ったが、まるでそこの空間が抉り取られたかのようだった。もし逃げようとせずに留まっていたらどうなっていたことか。死体すら残らず消滅していたのだろうか。考えるだけでぞっとする。

 ちなみに防犯カメラの映像は何故か爆発の瞬間だけデータが飛んでいたらしい。この事から、何者かがテロを起こし、その方法がバレないようにカメラをハッキングしたのでは? との説も浮上している。


 まあ、頭の良い方々が考えても分からないのだ。一般男子高校生である私に分かるわけがない。一応警察には全部話したが、信用されているかどうかも怪しい。魔法陣が追いかけてきたことは勿論、覚えていたことはできる限り話したのだ。だが、頭の怪我を心配された。脳の検査はしたかと言われ、そもそも病院に行っていないと伝えたら、


「まだ間に合う。あいつと違って君はまだ間に合うんだ。お願いだから病院へ行ってくれ」


と肩を掴まれて言われた。あいつって誰だと疑問に思いつつ、しばらくそのまま肩を掴まれていたが、数分経ったあたりで刑事さんは突然発狂して頭を数十回壁に打ちつけ動かなくなり、担架で運ばれていった。

 ⋯⋯思い返してみても、全く意味が分からない。なんだったんだろう。



 とりあえずあの出来事について考えるのはやめ、ゲームを起動していた。最近はスマホゲームが主流らしいが、画面が小さくてやりづらいので私はパソコンゲームの方が好きだ。

 今やろうとしているのは、長年お世話になっているMMORPG、カントリーサイドオンライン。略してKsO。このゲーム、名前からして過疎化の進んだ田舎でほのぼの生活というような感じがするが違う。最初はそうだったらしいが、アップデートを重ねるうちにプレイヤーが増え、他の国やら戦争やらなんやらが追加され、今や田舎で過ごしているのは一部の物好きだけという有様である。


 このゲームのストーリーがどういった雰囲気なのかを説明するには、第23章『燃える王都』がふさわしいだろう。

 幼い頃誘拐されて奴隷として売り飛ばされた主人公の幼馴染の少女がなんやかんやあってなんかよくわからない黒幕っぽいのに「教育」される。

 ⋯⋯誤解を生まないようにいっておくと、えっちではない教育の仕方だ。一応全年齢対象ゲームなので。

 そして成長し、反乱軍の英雄となって王都を燃やす。それを幼馴染だと知らない主人公が討ち倒すという鬱エピソードだ。

 少女の最期はかなりきつめだった。めためたになった後ぐちゃぐちゃになってくちゃくちゃになったのはかなり印象に残っている。一枚絵もあったし。そのせいか一週間後くらいにモザイク修正が入っていた。逆効果だった。

 こんな感じでカントリー要素が行方不明であり、その上自由度も高く鬱・グロ要素満載ということでカルト的な人気がないこともない。プレイ人口が安定しているので町がスカスカというのもあまり見られず、私のお気に入りのゲームの一つとなっている。



 ⋯⋯読み込みが長い。アップデートも特にないがいつもより長い。何故だろうか。そう思っていると、突然画面にポップアップが現れた。


『おめでたいございしました。あなたの選ばれたプレイヤー。それは最高の体験をする。【はい】【いいえ】』


 なんだこれは。どう見ても怪しい。五秒以内に怪しい点を複数挙げろと言われれば三つは言える。機械翻訳したかのような日本語。「選ばれた」とは一体何に選ばれたのか。説明が足りない。意味不明だ。

 だが、どうやらこれをどうにかしないとゲームが起動できないらしい。新手のウイルスか?

 仕方がないのでゲームごと閉じようとするが出来ない。パソコンの電源ボタンを押す。変化はない。長押しする。変化はない。コードを引っこ抜く。――変化はない。


「⋯⋯はあ」


 どうやら、もうこのパソコンはダメらしい。こうなっては仕方がない。私は【いいえ】を押した。押そうとした。しかしカーソル――いや、私の手は私の意思に反して【はい】へと向かう。無理矢理右腕が動かされる超自然的恐怖体験にパニックを起こしかけるが、昨日のあれのおかげで耐性がついたらしくどうにか冷静さを保てた。


 私は考えた。今は【はい】へと向かわせようとする力と私が抵抗する力が拮抗してギリギリの所でカーソルがプルプル震えている状態だ。ということは更に力を加えれば私が勝つのでは? 天才!

 自由に動く左手で右手を掴み、引っ張る。そしてそのまま【いいえ】を押した。それは【はい】だった。


「は?」


 思考が止まった。【いいえ】が【はい】になったのか?

 ⋯⋯それはなしだろう! 反則だ! くそったれ! 強制なら選択肢を出すな!

 激しい閃光が画面から溢れる。それと同時に手が、腕が、何か輝くドロドロとしたものへと変わり、画面に向かってそれらが向かっていく。痛みはない。画面は何だか気味の悪い発光の仕方をしていて、何が起こっているか理解出来ていなくともこのままだと不味いという事はわかった。

 混乱して固まっているうちに体のドロドロ化が進行し、右腕だったものが吸い込まれるように画面へ近づいて、そのまま触れようとしたその時、取り返しがつかなくなるような予感がしたので反射的にパソコンへ頭突きをした。

 その頭突きはパソコンの画面を粉砕し、何かそれ以外のものも粉砕した、ような感覚があった。爆発音がして⋯⋯吹き飛ばされ、部屋の壁にぶつかったらしい。


 頭を打った。とても痛い。背中も打った。息ができない。ドタドタと音が聞こえる。ドアが開く。母親がそこにいた。


「なっ、どうしたのこれ! あんた生きてるよね⋯⋯うん、これくらいならまだ⋯⋯それにしてもまさか⋯⋯お父さん、ちょっと⋯⋯」


 だんだん意識が薄れていく。目の前が真っ暗になる。その瞬間、何かよく分からないが落ち着く青い光を見たような気がした。

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