8話
投降遅れてしまってすいません。
今回は4,000文字ぐらいあります。
家に帰るとすでに沙夜は帰宅していて、たこ焼き機や生地の準備をしてくれていた。流石は俺の妹、仕事が早い。
早速、今買ってきた具材の準備を始めた。俺と沙夜が慣れた手つきで食材を切って、その切った食材を涼と菜月が机に並べっていった。
五分ほどで準備が終わり、俺達は席に着いた。
「「「「いただきます!」」」」
全員で一緒にいただきますをして食べ始めた。
最初は、定番のシンプルなたこ焼きを作った。菜月以外は何食わぬ顔で作っているが、菜月だけは苦戦気味で形が少し不格好になっている。
「なんでボクだけうまく作れないの‥‥‥」
「練習すればきれいに作れるようになりますよ。頑張ってください菜月」
一人上手に作れず嘆く菜月を沙夜が励ましている。菜月は器用な方だから少し練習すればすぐにできるようになるだろう。
一回目を作り終えてそれぞれが作ったたこ焼きを食べ始めた。
涼のたこ焼きは外カリッ中トロとしたたこ焼きで、俺と沙夜が作ったのは外フワ中トロのたこ焼きだ。菜月はどれもバラバラだ。
全員同じように作っているのに、完成したものは全く違うのだから不思議なものだ。
「涼、こんなにたこ焼き作るの上手だったか。練習でもした?」
「いや、してないよ。そもそも作るの事態久しぶりだし」
「久しぶりでこれ程うまく作れるのですか‥‥‥すごいですね」
涼は何をしても人並み以上の才能を発揮するが、まさかここでもその才能が発揮されるとは驚きだ。彼氏が褒められて菜月も嬉しいそうだ。
二回目はそれぞれがしたいようにアレンジして作る。
俺は明太子とチーズ、沙夜はチョコレート、涼は餅とチーズ、菜月はベーコンとなった。
いろんなものを買ってきたので組み合わせはいろいろ試せるが、とりあえず俺は定番のアレンジ具にしてみた。
みんなそんな感じだが甘党の沙夜は早速デザートのような、たこ焼きを作っている。チョコとたこ焼きって合うのか。
「どうかしましたか、兄さん」
俺の視線に気が付いた沙夜は、不思議そうな表情でそう尋ねてきた。
「いや‥‥‥その会うのかなと思っただけ」
「ああ、普通そう思いますよね。でも、意外と合うんですよ。食べてみてください、兄さん」
そう言って俺の皿に、すで出来上がっていたのを一つくれた。俺は、半信半疑のまま食べてみた。
食べてみると確かに悪くない。
少し違うクレープを食べている感じだった。でもこれどちらかというとデザートじゃないか。甘党の沙夜にしてみたら当然か。
四人とも自分で作った、たこ焼きを交換したりして楽しい時間を過ごした。
「みんなでロシアンルーレットしようよ!」
生地の残りが半分をきったころに、菜月が悪戯っ子のような笑みを浮かべてそう言った。
俺はそれほど驚きはしなかった。
菜月の性格を考えたら逆にしない方がおかしい。
涼と沙夜もそれぐらい予想出来ていて当たり前だと思っていたが、二人の顔は若干ひきつっているように見える。
「菜月が一人でするのはどうだ」
俺はそう提案した。
「ボク、一人でしても楽しくないよ。こういうのはみんなでするから楽しいんだよ!」
あー、これはダメな奴だ。
こうなった夕夏は絶対にあきらめないからな。
どうにかならないかと恋人である涼に視線を送ってみてが、首を横に振るだけだった。
菜月の事だから拒否してもいつの間にか作って混ぜそうな気がする。それは普通に嫌だ。
「はぁー、わかった。菜月の好きなようにしていいぞ」
「ヤッタ―ありがとう!」
俺がしてもいいと伝えると、不安げになっていた表情が一気にあかるさを取り戻した。夏樹は早速、一人で作り始めた。
完成するまでの間、俺達は普通のたこ焼きを食べながら待った。
「さっ、できたよ。誰がはずれを引くか楽しみだね」
菜月は、皿に四つのたこ焼きを盛り付けて俺の正面に持ってきた。
三つはきれいにできているが、一つだけ焦げたのか黒っぽい色になっている。
涼と沙夜も気が付いたようで困った表情をしている。
「さっ、好きなのを選んでいいよ」
笑顔で菜月はそう言った。
黒いのがはずれと決まったわけではないが、可能性が一番高いのはそれの気がする。
だが、菜月の事だから何かしら考えがあるとは思うがよくわからない。
とりあえず綺麗なたこ焼きを取った。
涼と沙夜も同じのをとって、菜月は黒いたこ焼きを何の躊躇もなくとった。
「セーので食べるよ」
俺達が頷くと、菜月は満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ行くよ。せーの!」
菜月の声に合わせて口の中に放り込む。
咀嚼してみても特に変な味はしない。
俺のははずれではないのようだ。
横目で菜月を見ると楽しいそうな表情で食べている。
我慢しているだけかと思って眺めていても表情が変わることはなかった。
俺の視線に気が付いた菜月は、俺の方を見て笑顔でブイサインをした。
涼の方に視線を向けたが、こちらもおいしそうに食べている。涼もあたりの様だ。
次に、沙夜の方に視線を向けると、明らかに違和感があった。
体は小刻みに震えているし、目も涙目になっている。
どうやら、はずれを引いたのは沙夜の様だ。
「に、兄さん。水、水をくだしゃい!」
俺は急いで水を用意して渡した。
沙夜は、一気に飲み干すと軽くため息をついた。
少しは落ち着いたようだが、体はまだ震えているし涙目なのは変わらない。
一体何を食べたらこうなるのか。
「沙夜、大丈夫か」
「落ち着きはしましたが、まだ口の中がちょっと‥‥‥」
愛菜は最後の方の言葉を濁した。
「すっかり、菜月の罠にはまってしまいました」
「ほんと、ほんと。三人ともボクの作戦に見事に引っかかったね」
俺達の顔を順番に見て笑いながらそう言った。
それから菜月は自分の作戦を一つ一つ話してくれた。
俺達は菜月の罠にまんまとはまっていたというわけだ。そして、運悪く沙夜がはずれを引いてしまった。
「何を入れたの菜月」
一番気になる質問を代表するように涼が聞いてくれた。
「うーんとね。ワサビでしょ。あとデスソースにタバスコ、山椒だよ。あと生クリームも入れたかな」
「「「‥‥‥」」」
菜月の言葉に呆気にとられ言葉が出てこない。
「嘘だろ‥‥‥」
「え?全部ほんとのことだけど」
その言葉を聞いてから沙夜の顔が余計に苦い表情になった。明らかに機嫌を悪くしている。
「お、おい。沙夜!」
俺は沙夜に寄り添うように隣に移動する。
「ねぇ、菜月。さっきの材料まだ残ってるの」
「残ってるけどー。あっ、涼くんも食べたくなった」
俺は沙夜の事をなだめながらその光景を見守っていた。
あれを食べさせようとするとは、涼も中々やばいことを考えたな。
まぁ、あの二人は恋人同士なんだから別に俺には関係の無いことだ。
俺は沙夜の機嫌を戻すために、甘いデザートのようなたこ焼きをひたすら作った。
途中、菜月の絶叫のような声が聞こえた気がするが気のせいだろう。
それから、まだじゃっかん顔色は悪いが沙夜の機嫌が少しは戻ってくれたので良かった。
菜月の様子が変な気がするが触れない方がいい気がする。
触れてしまったら俺まで同じ目にあわされそうだそうだ。
一段落してから、元の通り色々な食材を組み合わせてたこ焼きを作った。
おいしい物やあまりおいしくない物まで沢山の組み合わせを作った。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行って、気が付いた時には生地からになったいた。
具の方はまだ残っているから明日はこの余った食材達で何か作るしか消費する手段は無さそうだ。
片づけは二人が帰ってからしようと思っていたが涼と菜月も手伝うと言ってきたから、四人で片づけをした。
「俺達はそろそろ帰るとするよ」
テーブルの上がきれいになったタイミングで涼がそう言ったので、俺と沙夜は二人をエントランスまで一緒に送った。
涼と菜月は二人きりなると直ぐにイチャつきだす。
その光景を他の住民に見られたくない。だから。こうしてエントランスまで送っているというわけだ。
エントランスまでに火種は何回かあった。勿論爆発はまだしてないけど。
「ボクにも食べさせるなんて、涼くん酷いよー」
「ごめん、ごめん反省はしてるよ。でも俺的には菜月の可愛い姿が見れたから良かったんだけど」
「えっ、可愛い‥‥‥」
「「ストッープ」」
俺と沙夜は二人の間に割って入った。
こうでもしないと周りの事を忘れて二人の世界に入ってしまう。二人は不満げな表情をしているが場所を考えてもらいたい。
「うらやましいなら、幸人も彼女を作ればいいのに。せぅかくイケメンなんだしさ」
「涼に言われても嫌味にしか聞こえない。それに俺は、恋愛に興味ないし」
超絶イケメンの涼にイケメンと言われても本心で言ってくれていると分かっているが、どうしても嫌味にしか聞こえないんだよな。
恋人に関しても涼と菜月や他のカップルを見ていいなと思わないと言ったら嘘になるが、今はまだいいかなと言うのが本音だ。
「沙夜ちゃんも彼氏でも作ろうよ。沙夜ちゃんぐらいの美人なら男子なんて一発だよ」
「私は恋愛する気はありません。それに今年は受験生ですし」
隣でも同じようなやり取りが行われていて思わず苦笑した。
今の会話と言い、なんだかんだでこのカップルは似た者同士なんだなと再確認させられた。
「急に笑ってどうしたの幸人。何か面白い事でもあった?」
「嫌、何でもないよ」
それから必要以上に聞いては来なかった。
「幸人また明日。沙夜ちゃんもまたお邪魔するね」
「幸人、沙夜ちゃん。バイバーイ」
「ああ、また明日」
「また来てくださいね」
別れの挨拶を交わして、涼と菜月は帰っていった。俺と沙夜は見えなくなるまで二人の背中を見送った。
今日は午後からではあるけどかなり疲れた。特に精神が。沙夜も安心したような表情をしてるし。
「兄さん。この後どうします。お風呂まではまだ時間あるのですが」
「そうだな‥‥‥お茶でもするか」
「あ、いいですね。でも今日入れるのは私ですからね」
「ああ、分かった。よろしく」
そんな話をしながら家へと戻っていた。