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7話


「うーん。週に一回ぐらいなら大丈夫よ」


 少し考えるような仕草をして、七瀬はそう言い放った。沙夜の目は輝きを増して、俺は呆気にとられるばかりだ。

 最終的に二人には仲良くなってほしかった。でもまさか一瞬でここまでの中になるとは想定外だ。


 俺が呆気に取られている間に、二人でどんどん話を進めていった。

 結局、七瀬が毎週土曜日に家に来て沙夜にお菓子作りを教えてくれることになった。


「ありがとな。沙夜の我が儘を聞いてくれて」


 同じマンションに住んではいるが、一応、俺が送っていくことになり短い距離を歩きながらではあるが感謝を伝えた。


「別に気にしなくていいよ。私がもっと沙夜ちゃんと仲良くなりたいと思ったからだし。楽しそうだったのもあるけどね」


 そう笑いながら話す七瀬が天使か女神に見えた。全く七瀬には頭が上がらない。

 七瀬なら涼や菜月と一緒、いやそれ以上に沙夜と仲良くなる。俺は何となくそう思った。


「ねぇ、ちょっと待って」


 玄関の前まで送って俺が帰ろうとしていると、七瀬は何故か俺を呼び止めた。


「ん、どうかしたか」

「これからお世話になるから、連絡先交換しれくれない」


 そう言ってスマホを出してくる。脳内お花畑の男子なら、勘違いをしそうだが勿論俺がそんなことを思うわけもない。

 確かに沙夜とはすでに交換しているはずだが、俺とも交換しておけば何かと都合がいいのかもしれない。


「わかった」


 俺も自分のスマホを取り出してアドレスの交換をした。

 軽く別れの挨拶をして、今度こそ本当に七瀬の家を後にした。

 

 家に帰った俺を迎えてくれた沙夜はいつも通りに戻っていたが、何となく嬉しそうな雰囲気があった。

 いろいろあったが沙夜に新しい友達が出来たのは兄としてはかなり嬉しい気持ちだった。





 次の日の昼休み、俺は涼に一昨日と昨日の事を話していた。今日、菜月は他の友達と食べていて俺達二人だけ食べている。


 余談だが七瀬と関係が出来たからと言って学校での距離感が変わることはもちろんなかった。それは俺もわかっていたことだから何とも思っていない。


「と、まぁこんなことがあったんだよ」

「へぇー、そうなんだ」


 俺の話を聞き終わった涼は、驚いた様子だった。いつもクールで静かな涼がここまで驚いて居るのを見るのは、中学卒業以来だ。と言ってもそこまで表情が変化している訳ではないが。


「ま、まぁ。結果として良かったからいいんだが‥‥‥」

「そうだね。沙夜ちゃんに新しい友達が出来たことは幸人としては嬉しいだろうね」


 涼も沙夜の性格を知っているので、俺の気持ち同情してくれる。もし、この場に菜月が今頃ショックを受けているだろう。

 菜月は沙夜に振り向いてもらおうといろいろ頑張っていたから。結局、たいして成果は上げられていなかった。


「この話は他の人に聞かれるわけにはいかないね」


 涼は少し暗い表情になった。


「確かにな。一部の生徒にしてみたら、これ以上にうらやましいことはないかもな」

「一部じゃなくて男子全員の間違いだよ」

 

 学校一と名高い美少女とある意味関係を持つことになったのだ。仲良くなりたい生徒達からすればうらやましいとかのレベルではないだろう。


 このことが知れ渡れば、嫉妬や憎悪の感情が俺に向けられるだけならまだいい。

 だが、七瀬はもちろん、沙夜や涼、菜月に迷惑をかける可能性がある分知られるわけにはいかない。


「困ったことがあったら言ってよ。僕もできる限り協力するから」

「ああ、ありがとう。助かるよ」


 俺が考えていることを理解してくれて、その上協力してくれるのだから本当にありがたい。

 立場が逆だったら俺も同じことをするだろう。やはり、持つべきはお互いに支えあえる親友だ。


「と、まぁ俺の事はいいとして。涼、昨日のあれはどういうことだ」

「えっ!あー、あれの事か」

 

 俺が昨日、寝ようとしている時に、涼からメッセージが送られてきた。そのメッセージというのが、明日つまり今日俺の家で夕食を食べたいと書かれていた。


 いつも、俺に頼みがあるときはだいたい一週間前には知らせてくれる諒にしては珍しい。だから、今回のような唐突なのは初めてで何か裏があるのではと俺は疑っている。


「止められてるけどまあいいか‥‥‥‥」


 涼は俺に聞こえない声で何かぼそっとつぶやいた。


「あのメールね。僕じゃなくて菜月に頼まれて送ったんだよ」

「まぁ、そんなことだろうなと思ったよ」


 ある時期に菜月が二日に一回は俺の家に来て夕食を食べたいと言ってきた時があった。

 その時に撤退的に断ったから、諦めていると思ったら全くそんなことはなかったようだ。

 まさか涼利用して来るとはどれだけ、俺の家で夕食を食べたいのだろうか。そこまで執着する理由が全く分からない。


「一応聞くが涼も来るんだよな」

「もちろん行くよ。誘った本人がいかなかったらおかしいでしょ」

「そうだよな。わかったちょっと待ってろ」


 俺はスマホを取り出して、沙夜にメッセージを送った。今日の当番は沙夜だから、何を作るかは沙夜に確認をしておかないといけない。


 返事は直ぐに返ってきた。特に決めていないから俺達で食べたいものを決めていいと送られてきた。


 俺がそのことを伝えると今度は涼が菜月とメッセージのやり取りを始めた。多分何が食べたいか聞いてるのだろう。

 何回かやりたりをして顔を上げた涼は申し訳なさそうな表情をしていた。


「ごめん。菜月がタコパしたいって聞かないんだけどいいかな?」

「別にいいんじゃないか」


 沙夜に再度連絡してみると大丈夫と帰ってきたので、涼にそう伝えた。ホッとした表情で涼はまた自分のスマホに向き合っている。

 スマホの画面を見ながら一人はしゃいでいる菜月の姿が容易に想像できた。


「お待たせー!」


 放課後。涼と下駄箱で菜月の事を待っていると、笑顔でやってきた。

 当たり前のように、全力のハグを涼にお見舞いする。涼はそれを優しく受け止めている。

 一緒に居る俺の事も考えてほしい。


 それに、周りにいる生徒達もこの光景には慣れてほしい。

 毎日の様に、この二人は人前でイチャイチャするのだから流石になれるだろう。なぜ、男女とも顔を赤くしてるのか俺には全然わからない。

 なんだって一番近くで見続けている俺は慣れてしまったのだから。


「さて揃ったし、行くか」


 俺達は、近所のスーパーに向かった。


 スーパーに着くまで、涼と菜月はは終始イチャイチャしていた。

 電車の中では、二人からだいたい二メートル以内に人はいなかった。異様な光景に二人は全く気付く様子もなく二人の世界に入っていた。


 そして俺は二人から少し距離をとって行動していた。

 はたから見れば俺達がただ同じ学校に通っているだけで、知り合いには見えていないはずだ。一緒にいて周りからどんな目を向けられるなんて想像もしたくない。


 電車から降りて歩いている間も、いろんな人に避けられるように歩いていたような気がする。

 慣れているはずの俺でも何とも言えない気持ちになった。


「おーい。幸人、早くー」

「はい、はい。今行く」

 

 菜月に急かされながら、俺達三人は買い物をしている。買い物かごの中は、菜月があれやこれやと商品を入れていくから、俺の予定していた量をはるかに上回る量になっていた。


「まだ、何か買うのか」

「そうだね。ボクはもういいよ」


 菜月は少し考えてそう答えた。疲れてきていた俺にとってはありがたい。


「涼はどうする?」

「僕ももういいよ。別に欲しいものとかないしね」


 それを聞いた俺はレジに行って、支払いを済ませた。

 スーパーを出てからは涼と菜月はイチャつくことなく普通に歩いていた。


 それでも、菜月は相当楽しみにしているようでずっとテンション高めで鼻歌を歌いながら歩いている。

 俺も菜月ほどではないにしろ楽しみにしている。

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