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5話

少し長めです。


 次の日の昼休み、俺と諒が学食に行こうと廊下に出るとこちらに走って向かってくる一人の女子生徒の姿があった。俺達の前まで来ると、立ち止まって笑みを浮かべた。


「涼くん、お待たせー」


 そう言いながら、諒に勢いよくハグをした。いや、飛びついたといった方がいいかもしれないぐらいの勢いだった。


 涼にハグした黒髪のショートカットでボーイッシュな美少女は、俺の数少ない友達の一人で諒の彼女でもある双葉ふたば 菜月なつきだ。生粋のボクっ子で七瀬とはまた違う雰囲気の美少女だ。

 当然、入学して間もない頃は大勢の生徒から告白されたようだが涼と恋人だと知れ渡ると一切そんなことはなくなったらしい。

 今では夫婦と言われて学校では有名なカップルだ。


「涼くんに早く会いたくてボク急いで来ちゃった」

「ありがとう、でも気を付けてね」


 周りを気にせずイチャイチャする二人。ほんとにただのバカップルだ。いつも静かな涼だが菜月と一緒になると人が変わる。


 一応、廊下は自分のクラスや他のクラスの生徒であふれている。その生徒たちの反応は、顔を赤くしている者、憎しみや嫉妬を込めた目で二人を見つめる者の二者に分かれた。前者のほとんどは女子生徒で、後者はほとんどが男子生徒だった。

 

 俺は慣れているので他の生徒みたいなことはない。入学してからほぼ毎日のように起こっている状況なのだからいい加減、慣れてほしいというのが俺の気持ちだ。


「はぁー。二人とも、昼休み無くなるから早く行こうか」

「あっ、ごめん幸人」

「そうだった、ごめーん」


 俺はこのままだと終わらないと判断し、声をかけると二人とも我に返って素直に謝ってくれた。これもいつもの事ではあるが。


 俺達は食堂にやってきた。この学校の食堂はかなりのレベルで種類も豊富だ。俺は普段は弁当だが、週に一回は食堂で昼をすますようにしている。


 涼がエビフライ定食で、菜月がオムライスを注文して俺は弁当だ。四人掛けのテーブルを見つけてそこに座る。


「幸人のお弁当いつもおいしそうだねー」


 俺が自分の弁当を取り出して食べようとしていると、菜月が目を輝かせて俺を見ていた。長年の付き合いで俺はこの目と声が、俺の弁当のおかずを狙っていると悟った。俺は涼に助けてくれと視線を送ったが、涼は肩をすくめてあきらめろと視線を送ってきた。知ってたけど。


「はぁー、分かったよ。菜月、おかずが欲しいんだろう何がいい」

「あれっ、ボクそんなこと一言も言ってないけど」

「ずっと友達してるんだから、それぐらい見れば分かる」

「あはは、ばれてたかー。じゃあお言葉に甘えさせてもらうね‥‥‥うーん、どれにしようかな」


 唸りながら真剣に考える菜月を見て、俺と涼は顔を見合わせて笑みをこぼした。菜月は何十秒か考えて、これにすると俺に指をさして言ってきた。 


 菜月が選んだのはだし巻き卵、俺的に作るのも簡単で弁当の色どりもよくなるから良く作る料理だ。菜月がだし巻き卵を要求してくることは少なくない。それを予想していた俺は、だし巻き卵は普通よりも多めに作ってきた。


「はい、どうぞ」

「ヤッタ―、ありがとう幸人」


 俺がだし巻き卵を菜月の皿に載せると、菜月は幼い子供の様に食べている。作った側からすればすればとてもおいしそうに食べてくれるので嬉しい限りだ。


「幸人、ごめんね。菜月の我が儘を聞いてもらって」

「別に涼が謝ることじゃない。それに今日は多めに作ってきたから」


 俺はそう笑って返した。このやり取りを今までに何回したことか。


 そして俺は自分の弁当を食べ始めた。涼と菜月も自分の料理に手を付け始めた。

 

 菜月は食べ終わって満足したのか、諒の肩にもたれてすやすやと気持ちよさそうに寝ている。涼はそんな夏樹の頭を優しく撫でていてその光景はそれだけで絵になる。


 俺はある見慣れているから何ともなく涼と話をしているが、他の食堂に来ていた生徒達は違うようだ。男女とも食べることを忘れ、二人に見惚れている。

 二人が出す甘い雰囲気は食堂全体に広がっている。


 俺は残りの昼休みを、気持ち良さそうに眠る菜月とその頭を優しく撫で続ける涼と話しながら過ごした。勿論、たくさんの視線を浴びながら。




 放課後になって俺は一人で帰路に付いた。珍しく今日も一人で下校だ。いつもは涼や菜月と一緒に帰っているが今日はあいにく二人ともバイトで先に帰っていた。


「なんで、七瀬が家の前に居るんだ」


 俺が買い物袋をぶら下げて家に帰ってくると、家の玄関の前でたたずむ七瀬の姿があった。


「あっ真田君まだ帰ってなかったんだ」


 俺の事を視界に捉えた七瀬はどこか安心したように息を吐いた。


「なぁ、家の前に何でいるんだ」

「覚えてないの。昨日、奢ってくれたお礼にお菓子あげるって言ったじゃん。」


 七瀬は上目遣いで睨んできたが、普通に可愛かった。妹が美少女で耐性のある俺でも見惚れてしまうぐらい。


「‥‥‥忘れてた、ごめん」


 俺はその言葉だけを、どうにか口に出すことが出来た。すると七瀬は、少し落ちた表情になった。


「私こそ強く言い過ぎたかも、ごめん」

「いや、七瀬は悪くないよ。約束をすっかり忘れてた俺が悪い」


 なぜか、七瀬も俺に謝ってきたので必死にフォローを入れる。悪いのは俺で、七瀬が悪いことなんて一つもない。


「お礼がしたいから、そのお菓子一緒に食べないか飲み物は出すからさ」

「私、お礼されることなんてしてないよ」

「俺が帰ってくるまで待たせただろう。だから、お礼というよりはお詫びかな」


 お菓子を貰ったら直ぐに七瀬を返すのは気が引けた。なぜなら、俺に手に持っているお菓子を渡すために学校が終わって直ぐに来ていたとすると、俺が帰ってくるまで一時間近く待たせてしまったわけだ。違ったとしても待たせてしまったことに変わりはない。


 流石に何もしないのはどうかと思ったから、取り合えず思いついたのがお菓子を一緒に食べるということだった。


「私が勝手にしたことだし、気にしないで」


 七瀬は、突き放すような声でそう言った。


「俺が気にするから、頼む」

「‥‥‥そこまで言うなら、分かった」

「ありがとう、助かる」


 俺が両手を合わせて懇願すると、どうにか承諾はしてくれたが警戒しているようだ。

 俺は早速、玄関の鍵を開けて七瀬に入るように促した。しかし、七瀬はまるで凍り付いたかのようにその場から一歩も動かなくなった。


「どうした。入らないのか」

「私、男の子の家って初めてだから、その緊張しちゃって」


 七瀬は、普段の姿からは想像できないほど弱々しい声でそう答えた。俺はつい笑みがこぼれた。


「なんで笑うの」

「七瀬も普通の女の子なんだなって思っただけ」

「それどういうこと」


 俺に向かってジト目を向けてきている。少し昨日会った時の七瀬の面影が戻ってきた感じだ。さっきまではずっと学校で男子に接する様子と似ていたというかほぼ同じだった。


 それに、七瀬が何に緊張しているのかよくわからない。確かに男が住んでいる家ではあるが、住んでいるのは俺だけじゃないのだから。


 でも、そうか。七瀬は俺に妹がいることを知らないのかもしれない。というか、学校で沙夜の事を話すのは基本涼と菜月の前だけしかしたことがない。


「ごめん、ごめん。俺、一つ下の妹が居て一緒に暮らしてるから緊張する必要はないと思うよ。男一人よりはましでしょ」

「真田君、妹居るの?」


 俺が首を縦に振ると、本気で驚いた顔になった。俺は学校で沙夜の事はほとんど話さない。そもそも話す友達事態が全然いないんだけど。

 だから知っているのは、涼や菜月といった同じ中学出身の何人かだけ。だから、七瀬が知らなくて当然だ。


「証拠‥‥‥」

「えっ、何」

「証拠、見せて!」


 どうやら、俺に妹がいることを完璧に信じてないらしい。流石に証拠を出せと言われたのは初めてだ。家の中に入れば写真ぐらい沢山あるが、七瀬はここで見ない限り納得してくれないらしい。


 しょうがなく俺は自分の鞄からスマホを取り出して、沙夜が映った写真を探した。確か先週、一緒に遊びに行ったときに一緒に撮った写真があったはずだ。


「あった。はいこれで信じてもらえるか」


 俺のスマホには、笑顔で映る二人の男女の姿が映っている。勿論、男の方が俺で、女の方が沙夜だ。


「これが、真田君の妹‥‥‥えっ!すごく可愛い」


 七瀬は目を輝かせて俺のスマホに写る写真を見ている。俺は七瀬の見てはいけない部分を見てしまったような気がした。

 沙夜と一緒に居るとたまに恋人同士だと思われることがあるが、雰囲気とかは似てるわけでなんで間違われるのかよくわからない。

 でも、今回はそんなことは無さそうだ。


「そろそろ、入らないか。妹の写真が見たいなら、家の中でゆっくり見ればいい」

「わかった、ありがとう‥‥‥私、変に緊張しすぎだったのかも」

「そうかもな、それじゃあ上がってくれ」


 俺は玄関の扉を開けて、七瀬に再度入るように促した。


「お邪魔しまーす」


 七瀬は、元気すぎるぐらいのテンションで入って行った。俺は少しほっとした気持ちで、家の中に入って行った。


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