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23話


 右京から人数分の卵を受け取った俺は早速、浅海と共に半熟卵の作成に取り掛かった。


「真田君、この時間でいいのね」

「ああ、よろしく頼む」

「なぁ、俺はどうすればいい」

「右京には全員分の器を用意してほしい」

「了解!」


 俺がそう言うと右京は嬉しそうに食器をしまっている棚へ向かって行った。仕事を頼まれたことが嬉しかったのかもしれない。


 右京が器を用意している間に、俺と浅海で十を超える卵を次々と半熟の状態へと変えていく。


 その途中で俺は、パスタやソースを温めるために残りを浅海に任せて、そっちの作業に移った。


 五分で無事に用意することが出来た。

 でも、まさか五分で全部終わるとは思っていなかったけど、途中から参加してくれた女子二人も含めて班のみんなで協力したから出来たことなんだろうけど。


「真田君、できたの?」


 ちょうどタイミングよく七瀬が聞きに来てくれた。


「あぁ、ちょうど完成したところだからみんなを呼んできてくれるか」

「うん、分かった。真田君達の料理楽しみにしてるね」


 そう言って七瀬は、みんなを呼ぶため自分の班へと戻って行った。


 七瀬に呼ばれぞろぞろと俺達の班のテーブルにクラスメイト達がやって来た。

 誰もが俺達の班の料理を楽しみにしているように見える。

 前の二つが凄くおいしかったからだろう。その期待にちゃんと応えられているか少し心配だ。


「メインで作ったのはどちらなのですか?」


 料理をみんなに配っていると、雛野に渡したときに不意にそう聞かれた。どちらと言うのは、俺と浅海の事だろう。


「今配ってるのを作ったのは俺と右京だけど、残りはほとんど浅海が中心で作ったんだ」

「そうなんですね。では、楽しみにしてますね。真田さん」


 雛野は微笑みながらそう言ったが、どことなく黒い雰囲気なのは気のせいだろうか。俺も微笑んだが、多分ぎこちない笑顔になっているはずだ。


 さて、全員に配り終えて同じように揃って食べ始める。なぜか無性に緊張してしまう。普段はこんなこと絶対にないんだけど。


 隣には顔が強張っている浅海や右京達が居る。緊張しているのは俺だけではなかった様だ。俺以外も緊張していると分かって少しマシになった気がする。


 誰も言葉を発することなく静かに器の中身が消えていく。 

 前の二つとは明らかに違う雰囲気に俺達だけではなく、見ているだけのクラスメイト達も不安そうな表情を浮かべている。


「これはどういう状況なの?」


 不安そうなトーンで浅海が俺に聞いてきた。


「俺にもよくわからない。無言な割にはどんどん減ってるんだよな‥‥‥」


 俺もこの状況を理解できていなくて言葉があいまいになってしまう。それぐらいさっきまでとは異様な光景が目の間に広がっている。


 一番最初に食べ終わった原が、顔を上げた。その顔は少しうろうろした後、まっすぐ俺達を見つめている。

 どうやら、俺達を探していたらしい。


 それから、食べ終わったクラスメイト達が次々と顔を上げては、俺達の事を見つけては見つけてくる。本当に、俺達は何かやらかしてしまったのだろうか。

 全く見当が無いのだが。


「心愛、一体どうしちゃったの?」


 この状態に耐えられなくなったのか、浅海が一番近くにいた七瀬にそう聞いた。

 心配になる気持ちはわからなくもない。

 俺だっても少し経ったら涼や七瀬あたりに聞いていたはずだ。


「‥‥‥だって、真田君の作ったパスタが美味しすぎるんだもん。私、こんなの食べたことないよ」


 七瀬の言葉に、他の皆もうんうんと頷いている。


「つまり、予想以上のおいしさだったから無言だったってことか?」

「うん。真田君の言うとりかな。ついつい無言で食べちゃったの」


 少し恥ずかしそうに話す七瀬の言葉に、俺は安堵した気持ちを隠さず寛大にため息をついた。


 七瀬は、首をかしげていたが同じ気持ちだったであろう浅海達は、俺の気持ちを分かってくれたようだった。

 多分、七瀬達にはわからない感情だとは思う。


「これは、莉乃の勝ちですね」

「確かに、幸人が作ったのには納得いかないけどうちらの負けだね」


 雛野と高島は悔しそうな口調でそう言った。

 そういえば、浅海も含めた三人で勝負をしてたんだっけ。だから、二人とも悔しそうな表情をしているんだろう。


「二人の料理もおいしいかったわ。あたしが勝てたのはほとんど真田君のおかげだから」


 そう少し謙遜した態度で二人と話す浅海。

 浅海はそう言ってはいるが、俺だけではみんなを満足させるものは作れなかったからしっかろ自慢をすればいいのにとは思う。


 まぁ、別に口に出すことではないし後でこっそりと俺を言えばいいだろう。


 俺がそう思っていると、涼がそばまでやって来た。


「幸人、一つ提案があるんだけど聞いてもらえる?」

「わかった。話してくれ、涼」

「今、幸人達が作ったパスタをお店の新メニューに加えるのはどうかなと思ってさ。多分、店長の事だから許可してくれるはずだよ」


 涼の提案には驚いたが、しっかり考えてから俺には話したことだと思うし、涼の案が失敗したことなんてほとんどないに等しいから今回も問題ないだろう。


「涼がそうしたいなら俺はいいと思うぞ」

「そっか、ありがとう。幸人」

「別に俺を言われることじゃない」


 そこまで言って俺はふと思った。


「店出すなら、沙夜や菜月達にも食べさせることが出来るな」

「それはそうだけど、別に幸人が家で作ってあげればいいんじゃない」

「いや、それだと材料費がかかるからさ」

「お金を払うのはどっちも同じだよ、幸人」


 いつの間にか変な方向に話が進んでいたことに気が付いて、俺と涼はお互いに顔話合わせて思わず笑みを笑みをこぼした。


 涼の笑顔に見とれる女子達が多数いたことに俺達が気付くことは無かった。あとに七瀬に聞いたところ気絶しかけた子もいるとかいないとか。


「みなさん、そろそろ終わったようなので自分達のテーブルに戻ってくださいね」


 先生の一言でほとんどの生徒が我に返ったことだろう。

 もちろん、俺もその一人だ。すっかり今が家庭科の時間だと忘れていた。俺以外もきっと同じだろう。みんな慌てた様子で自分の席へ戻っていく。


「みなさん、今回の調理実習はどうでしたか。今回は雛野さんのお父様のおかげでいつもよりも多くの食材を用意することが出来ました」


 その言葉を聞いて軽くざわつきが起こる。

 確かに食材の量が多いなと思ったが、まさかそんな背景があったなんて。沢山の種類が用意されていたわけだ。全部雛野のためなんだろうなきっと‥‥‥

 雛野は全く知らなかったのか。驚きと呆れが混ざったような表情をしている。


 どっちにしろいい授業になったんだから、良かったと俺は思う。


 調理実習も成功して、無事に終わることが出来た。


 家に帰ってから、沙夜に今日の事をいろいろ聞かれた。その後、調理実習で作ったカルボナーラを作らされたのは言うまでもない。

 なぜか、その場にいた七瀬も含めて三人での夕食だった。


これで一章は最後にしようと思います。

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