19話
教室の中に入ると、雛野の言った通り黒板に班の名簿が張っていた。
俺は、浅海と同じ班だった。
七瀬と同じ班にならなかったことが少し残念ではある。
だが、幸いに七瀬は高島と一緒の班だった。とりあえず一安心といったところか、高島なら十分七瀬の事を見てやれるはずだ。
残りの雛野と涼も一緒の班になっていた。
二人ずつで班になれたのは良かったのかもしれない。
「おっ、真田君とね。よろしく」
「こちらこそ、よろしく」
「ここあっち、一緒にがんばろうねー」
「うん。一緒に頑張ろう、亜希」
「えーと、よろしくお願いします。小早川さん」
「よろしく、雛野さん。お互い頑張ろうね」
それぞれお互いに挨拶をすまして班の席へと向かう。
そういえば七瀬にまだ何も言ってないな。一応、応援位はしておいた方がいいかもしれない。沙夜にも朝しろって言われたし。
「七瀬」
「どうしたの?真田君」
「えーと、あれだ。七瀬は二週間ずっと頑張ってきたから絶対大丈夫だ」
「ふふ、ありがと。私が言うのもあれだけど真田君も頑張ってね」
美少女から応援されては頑張るしかないな。
「あぁ。お互い最高の物を作ろうぜ」
俺はそう言って自分の班のテーブルへと戻った。戻ってから浅海にいじられたのは言うまでもない。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
唐突に聞こえた叫び声に驚いて肩が跳ねた。
誰だよ、今はまだ休み時間とは言え流石にうるさすぎるだろ。
俺が声のした方へ向くとそこにいたのは、クラスの中心人物でリア充代表ともいえる男子生徒がいた。
名前は原 大祐だ。確か一年サッカー部のエースらしいだから体もかなり引き様っている。それに長身でかなりのイケメンだ。
もちろん、涼には及ばないが。
俺が七瀬達と仲良くなって真っ先に絡んできて難癖をつけてきた生徒だ。
俺はあいつの事は嫌いだし、向こうも恐らく俺の事は嫌いだろう。
「はぁー、原の奴うるさいわね」
「ああ、全く持ってその通りだと思うよ」
隣で嫌な顔をしながらそう言った浅海の言葉に俺も静かに同意する。
なりたい人と一緒になれて喜ぶのは別にいいと思うが限度と言うものがあるだろ普通は。
原の班はどこかと思っていると、原は七瀬の所ではなく雛野と涼が居るテーブルへと向かって行った。
「よう、雛野よろしくな」
「原さん。こちらこそよろしくお願いいたします」
流石は雛野、あんな奴にもいつも通りに接している。
俺は遠巻きに眺めながら素直に関心した。俺なら小言の一つや二つ言ってしまうだろう。
「彩月はやっぱりすごいわね。流石お嬢様ね」
浅海もやっぱり今の雛野の行動には感心しているようだった。
「お嬢様だからかはわからないが俺も普通にすごいと思う」
そんなことを話しながら、雛野達の方を眺め続けた。
よく見ると、他のクラスメイトの多くもそっちに目線がいっているようだった。
「小早川、俺にその席を譲れ!」
原の言葉聞いて涼は怪訝そうな顔をしている。
「どうして僕が君に席を譲る必要があるんだい。そっちに座ればいいじゃないか」
冷静に涼は返した。
涼の言い分は確かに正しい。
だが、原は納得いっていない様子だった。
「雛野の隣は俺だ。だから、早くどけろ」
おっー案外早く本性が出たな。俺はもっとオブラートにするのかと思うっていたのに。雛野は笑顔ではあるが顔が引きっている。
まぁどっちにしろ言葉でも力でも原が涼に勝てるわけがないんだから、俺は静かに様子を見守ることにする。
というか先生はあれを止めなくていいのか。
流石に殴り合いになったらと目に入るかもしれないが、今にも一発即発な雰囲気だ。
「はぁー、そんな強引だと女の子には嫌われるよ」
小さく笑いながら涼はそう言った。
明らかに挑発しているような口調だ。
原は怒りをぎりぎりで抑えているみたいだ。顔を赤く染め上げて震えている。
普段、原とよく一緒に居る男子、女子どちらも助けようとはしていない。涼に恐れをなしているのかよくわからないが、涼にビビっているのは確かなようだ。
「早くどけろ!」
言葉では無理だと判断したのか、強引に涼の手を掴んで椅子から降りさせようと引っ張る。
だがその程度で涼がひるむわけがない。
みんな知らないだろうが、涼は脱ぐとかなり引きし待った体をしている。いわゆる細マッチョと言うやつだ。
そろそろ止めに入らないのかと、先生の方を見るがうなだれた首がうなだれている。
あれは寝てるやつだ。これから授業なのに寝るって大丈夫なのか。
俺が視線を涼の方に戻すと、痛みで顔をゆがめる原の姿があった。
その表情は驚き、怒りとりあえずいろいろな感情が見て取れた。
「えーと、何があったんだ」
何があったか予想は着くが一応ずっと見ていた浅海に聞いてみた。
「小早川君を殴ろうとした原が逆にやられたのよ」
俺の予想通りだった。
いくらサッカー部のエースと言えど、涼に勝てるわけがない。
「僕も迷惑だし、雛野さんにも嫌がってるんだから他の席に座ってくれないかな」
「くっ!‥‥‥」
クールな顔と声で言われて、原も勝てないと判断したのかすごすごと引き下がった。
その顔は怒りと悔しさで満ち溢れていたが、それを涼が気にしている様子はなかった。
それから、涼と雛野が小声で何か話をしていた。
驚いた顔の涼と、楽しそうな顔の雛野。
一体どんな話をしているのだろうか、それとこの状況を菜月に教えたらどうなるのか気になるな。
俺はこっそりと二人の様子を写真に収めた。
チャイムが鳴って、みんなが席に着くと家庭科の先生は目を覚ました。
さっきまで、変な雰囲気になっていたのに何事も無かったかのように先生は授業を始める。
ある意味凄い先生なのかもしれない。
アクシデントはあったがやっと調理実習が始まる。




