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1話


 俺は駅に着くと改札口の近くにいる同じ高校の制服を着た男子の方に向かった。


「涼、おはよう」

「あ、幸人、おはよう」


 俺が声をかけたのは、俺の中学からの付き合いで数少ない友達の一人である小早川こばやかわ りょうだ。


 あまり勉強をしないくせに定期テストでは毎回十位以内に入っていて、運動神経もよく、芸術センスも抜群で非の打ち所がない。まさに天才という言葉がふさわしいだろう。

 

 それに王子様のような爽やかなイケメンで、雰囲気ですらイケメンなオーラをまとっているのだ。神は涼にいろいろ与えすぎだと俺は思う。


 唯一の欠点は、不愛想で友達が少ないということ。俺もそうなのだが友達と言える生徒がお互い両手で数えられるぐらいしかいないのだ。


 その理由は、入学してすぐの頃、涼がクラスメイトに遊びに行こうと誘われても全て断っていたのが原因だと俺は思っている。


 そんな俺も家の事が忙しく全部断っていたらいつの間にか涼と二人孤立していたというわけだ。

 

「幸人、久しぶりだね。と言っても最後にあってまだ三日しかたってないけど」

「確かに、ほとんど毎日のように涼とは会ってたからな」 

「それよりも早くしないと遅れるよ」

「そうだった‥‥‥急ぐぞ涼!」

 

 俺達は急いで改札口を抜けた。ぎりぎりでいつもの電車に乗ることができた。電車の中で、ゲームやバイトの他愛もない会話で盛り上がった。

 

「おばさんとおじさんは元気か?」


 俺はそう話しかけた。


 家が近いので、俺と沙夜が二人暮らしを始めたときに慣れるまでよく諒の両親にお世話になったのだ。涼の両親は俺と沙夜を本当の子供の様に接してくれていろいろ助けてくれたので本当に感謝している。 


「うん、幸人や沙夜ちゃんにまた家に来てほしいって言ってたよ」

「それならまた行かないといけないな」

「よろしく頼むよ」


 高校の最寄り駅で降りて、歩きながらそんなことを話した。


 高校が近づいていることもあっていつの間にか、同じ制服を着た生徒が周りに少しずつ増え始めた。


 涼は目立つので周りからの視線をかなり向けられているが、他とは違う雰囲気の涼に積極的に話しかける奴なんてほとんどいない。話しかけてきても挨拶を交わすとどこかに去っていく。 


 しばらく歩くと校門が見えてきた。俺も涼も部活に入っていないから、高校に来るのは一学期の終業式以来だ。


「久しぶりだね」

「ああ、俺もだ」


 高校の敷地内に入ると生徒からの視線がまた増えた気がする。流石は涼だ。本人も気づいてはいるが気にしないようにしている。

 

 気にはしないようにしていたが、むけられる視線の数はどんどん増えていく。流石に気まずくなって涼と顔を見合わせて苦笑いをお互いにして、自分達の教室へと足早に向かった。

 

 なぜなら、うちのクラスには涼と同等かそれ以上に有名な生徒がいて、教室の中だとクラスメイトの視線はそっちに行くのだ。


 つまり、俺達が影の薄い存在になって視線を向けられることもほとんどないのだ。気持ち的にはかなり楽になる。


 教室に入ると俺達の予想通り、一つの机を中心とした人だかりが出来ている。集まっている生徒の以外のクラスメイトの視線もほとんどが、今教室に入ってきた涼ではなくその人だかりに向けられている。俺と涼が教室に入ってきたことに気が付いた生徒はほんの数人だろう。

 

俺達は、自分の席に向かった。涼が窓側の一番後ろの席で俺がそのひとつ前の席だ。

 俺は、椅子に座ると後ろに諒の方に向いた。


「やっぱり、七瀬さんの人気はすごいね」

「ああ、七瀬が居ると涼の存在が霞むぐらいだからな」


 俺達の席とはちょうど反対側にいわゆるの陽キャの生徒が男女問わずに集まっている。

 その中心にいる生徒が俺と涼が話をしている七瀬ななせ 心愛ここあだ。

 

 茶色のストレートヘアーに白い肌、パッチリとした大きな瞳、さらに人形のような顔立ちから学校一の美少女と言われている。

 

 文武両道で定期テストは学年一位で、運動能力も部活には入っていないが運動部以上だとか。

 

 涼のような欠点も無く誰にでも隔てなく接する優しい性格だ。そして当たり前だがすごくモテる。

 

 入学して半年位しか経っていないが、告白された回数は二桁を超えているが全て断っているらしい。

 

 それでも、告白されたと言う話は一向に減っていないのだから、七瀬の人気はすさまじいのだろう。


 七瀬の周りはすぐ近くに女子がさらにその周りに男子が集まっているという構図だ。女子の方は普通に友達だと思うが男子の方は下心丸出しで見てる側としたらかなり引く。美少女というのも大変そうだ。


「幸人は七瀬さんにあまり興味ないよね」

「たまに眺めるだけで充分だから、俺の中だと七瀬は観賞用美少女って感じだな。眺めるのはいいけど付き合うにはちょっとな」

「その気持ち僕もわかる気がするよ、七瀬さんは僕達とは別の次元の人間みたいな雰囲気があるからね」

「あー、確かにそれに関しては俺も納得だけど、涼もそんな雰囲気あるからな」

「いやいや、そんなことはないよ」


 そんな冗談めいたことを言い合っているとチャイムが鳴って担任の先生が教室に入ってきたので、俺が次の言葉を発しようとする前に会話は強制終了されてしまった。

 

 俺は渋々前を向いて先生の話に耳を傾けた。


 今日は二学期初日ということで始業式が終わった後は宿題を集めて、大量の配りもの貰って昼前には学校が下校になる。

 俺は帰る準備をしながら後ろで同じく帰る準備をしている涼に話しかけた。


「俺この後少しよる場所があって今日は一緒に帰れないんだ」

「気にしないよ。それにどっちみち僕も今日予定があって幸人と一緒に帰れなかつたから」


 少し照れながら話す涼を見てその理由を悟った俺はついつい笑ってしまった。


「なんで笑っているんだい」

「いや別に。涼、楽しんで来いよ」

「もちろん、そのつもりだよ‥‥‥それじゃあ、僕は行くね。幸人また明日」


 最後は笑顔で教室から出て行く涼を見送ってから俺も自分の席から立ち上がった。


 ちなみに、七瀬はもう既に教室から出て行っていて教室にも、廊下にも落胆を隠しきれない男子生徒であふれていた。


 こいつら自分の感情に正直すぎる。もっと周りを見てみてほしいほとんどの女子が死んだ目で見てるぞ。


 俺はその光景を見てそんな感情を抱きつつも、そこまで気にすることなく教室を出た。学校に生徒はかなり残っていたが関係ない。俺にはカレーの材料を買うという予定があるのだから。俺は急いで学校を後にして駅に向かった。

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