18話
二週間、七瀬は休むこと無く毎日家に来て料理を学んだ。
苦手なことを一生懸命頑張る七瀬を俺と沙夜でできる限りの手伝いはした。
とりあえず皆の足を引っ張らない程度には上達したと思う。
と言ってもせいぜい学校の調理実習なら大したもしか作らないと思うから問題ないはずだ。いい意味で目立ちはしないと思うが、逆に悪い方で目立つことも無いだろう。
俺が同じ班になるのが一番安心なのだが、当日まで班はわからないからそこはどうしようもない。
そして、今日はその調理実習の本番だ。
俺はどんな課題なのか朝から楽しみにしている。
「兄さん楽しそうですね」
「ん、あぁそうかもな。今日調理実習があるからな」
「そういうことですか。頑張ってくださいね」
沙夜にも応援されて余計やる気が出てきた。
高校でも先生の度肝を抜く料理を作ろう。
「「行ってきます」」
俺は沙夜と一緒に家を出る。
今日は沙夜と登校はしない。
「あっ真田君に沙夜ちゃん。おはよう」
俺達がエントランスに出ると、制服に身を包んだ七瀬の姿があった。
「おはよう、七瀬」
「おはようございます、心愛」
俺達も揃って挨拶をする。
「七瀬、今日は調理実習だが大丈夫か」
「う、うん。多分大丈夫だと思うよ」
やはり少し緊張しているようだ。
「心愛はずっとがんばって来たんですから大丈夫ですよ」
「そ、そうかな‥‥‥」
「はい。私も応援しているので頑張ってください」
「わかった。私、頑張る」
沙夜に応援されて七瀬のやる気も出たようだ。この様子なら失敗することなくできるだろう。
俺と七瀬はマンションを出たところで沙夜と別れて二人で駅を目指して歩き始めた。
七瀬達と昼休みを一緒に過ごしてから、七瀬との距離感が近くなった気がする。
朝、合えばだいたい一緒に登校するし、あれからも昼休みを何回か一緒にした。涼や菜月とも仲良くなってくれている。
「真田君少しいいかな」
「なんだ?」
七瀬が真剣な顔だからきっと今日の調理実習の事だろう。
「莉乃のお兄さんに聞いたことなんだけど、内容って結構自由な感じらしいの」
自由とはどういう事だろうか。まさか‥‥‥
「それって特に作るものが決まってないってことか」
俺がそう言うと七瀬は首を縦に振った。
さっき心配そうな表情をしていたのはそういう事か。確かにそれなら心配する理由も納得だ。
レシピ通りに作ることが出来てもオリジナルで作るのはまだ難しいだろう。
俺的にはただ嬉しいだけなのだが。
「真田君が同じ班ならいいんだけどね‥‥‥」
「そうだな。運任せだから一緒の班になれると言いな」
確率は低いが俺じゃなくても浅海や高島、雛野の誰かと一緒の班でも大丈夫だろう。あの三人も料理は得意な方だし。
そんなことを話していたら駅に着いた。勿論、先に来ている涼が待っていた。
「おはよう。幸人に七瀬さんも」
「おはよう」
「おはよう、小早川君」
このやり取りも随分慣れてきた。
初めてのときなんかお互いに賢って変な空気になって居心地悪かった。
それと比べたら今はだいぶましになった。
三人で電車に乗る。
降りてからは、菜月も合流して四人で登校する。
今日は浅海も一緒になって途中からは五人になった。
改めて思うのだが俺の友達は美男美女しかいない様な気がする。
普通なら目立たないはずの俺がこの中にいると目立ったしまっている気がする。
普通は逆じゃないか。
教室に入るといつもよりもソワソワした雰囲気で包まれていた。
滅多にない特別感のある授業にみんな何かしら思っているのだろう。
今から楽しみにしている生徒や、嫌そうな雰囲気の生徒までいろいろいる。どっちでも良さそうな奴もいるがそこまで多くない。
俺の予想なら結構多いと思ってたんだけどな。
「おはようございます。みなさん」
「おはよう、雛野」
教室に入ると、先に来ていた雛野が笑顔で出迎えてくれた。
教室で出迎えとはおかしい様な気がするがこの言葉が一番しっくりくる状況なのが現実だ。
俺に続いて順番に言葉を交わす。
菜月はすでに自分のクラスに居るからこの場にはいない。
「ついにこの日が来ましたね、頑張ってくださいね心愛」
雛野は俺の家で七瀬が料理の特訓をしたことを知っている。
沙夜に会うために招待する時に、雛野達に教えのだ。
それから、何回か手伝ってくれた。
「うん、頑張る。真田君や茜達の足を引っ張るわけにはいかないからね」
「がんばってよ心愛。あたし達が手伝ったんだから」
浅海も応援しているようだがプレッシャーを余計にかけているだけのような気がする。
それから涼も含めた四人でチャイムが鳴るまで雑談をした。
初めは俺と涼が七瀬達と仲良くすることを妬む男子達から絡まれたりしたが、七瀬と涼の力でそれも二日ほどで収まった。
学校一と言われている二人から言われては引き下がるしかないだろう。
俺もこの二人から同じことを言われたら絶対にしたがうと思う。それは俺だけじゃなくて浅海、雛野、高島も同意見だった。
それから、教室中がいつもと違う雰囲気でホームルームが始まった。
一、二時間目は問題なく進んで終わった。
だが、調理実習の時間が迫ってくるとソワソワしだす生徒が少なからずいた。
何をそこまでソワソワするのだろうか。
小学校や中学校でもここまで変な雰囲気になったことがあっただろうか。それぐらい教室の中は少し変だった。
「涼、一緒に行こうぜ」
俺は二時間目が終わると直ぐに後ろに座って教科書をしまう涼にそう言った。
「うん、わかった。一緒に行こうか」
涼も了承してくれたから揃って席を立つ。
「私達も一緒に行ってもいいかな」
「ああ、いいぞ」
七瀬達も合流して六人の集団になる。やっぱり美男美女しかいない。
視界の端に悲しそうに教室を出て行く男子が数人見えたような見えなかったような。
「そういえば調理実習の班ってどうなってるのか知ってる」
調理室に向かう途中、浅海が不思議そうな表情で質問をしてきた。
「確かに知らないな。涼、何か知ってるか」
「幸人は何でもかんでも僕に聞かないでよ。僕もそんなこと知らないし」
涼は呆れる様にそう言った。
俺はそんなに涼にいろいろ聞いてるだろうか。全く記憶にないな。
「流石に調理室に行けばわかるのではないですか。黒板に張っているかもしれませんよ」
雛野の言葉にそれはそうか見たいな雰囲気になる。
そのまま、俺達は調理室を目指す。
教室の前を歩いている間、たくさんの視線を向けられていたのは言うまでもない。
男子も女子も俺達がそばを通ると会話を辞めてまで見ていた。
その程度の事を気にするわけもなく、俺達は談笑しながら歩いている。
視線を向けられるのは慣れている面々だ。俺も含めてこれぐらいで動じるわけがない。
そして、無事に調理室に着くことが出来た。




