14話
次の日の月曜日。
俺はいつもよりも早く起きて三人分の弁当を作った。俺と沙夜そして七瀬の分だ。
おかずは、七瀬が要望しただし巻き卵にハンバーグ、肉巻き、ミニトマト、ブロッコリーにほうれん草の胡麻和え。
沙夜以外に作るのは随分久しぶりだからついつい作りすぎてしまった。女子には少し多すぎるかもしれない。
悩んでも仕方ないからさっさと弁当に詰める。詰めるときもおいしそうに見える工夫を怠ることは無い。
「兄さんおはようございます」
「おはよう。沙夜」
沙夜は、起きてくるなりキッチンへやってきた。
「いつもより豪華ですね」
「変な気合が入ってな、ついつい作りすぎた」
俺がそう言うと沙夜は、呆れたような表情をして俺の事を見てきた。
それから言葉を発することなく離れていって朝食を作り始めた。その顔が少し悲しそうに見えたのは気のせいではあるまい。
沙夜の事だ、多分七瀬に嫉妬してるのは見ればわかる。今日は存分に甘やかすとしよう。俺は朝食を作る沙夜の後ろ姿を眺めながらそう心に決めた。
「沙夜、今日途中まで一緒に行くか」
朝食を食べながら俺はそう提案した。俺の言葉を聞いた沙夜は、暗い顔から一変、花が咲いたような笑顔に変わった。
「いいんですか兄さん!」
「あ、ああ。もちろん」
沙夜の勢いに押され気味になってしまった。まぁ機嫌が直ったようで何よりだけど元気になりすぎた気もしなくもない。
まさかここまで喜ぶとは流石に想定外だ。
さっさと食べ終えて残りの準備を始める。昨日、時間が取れなかった分いつもより急いで用意をする。最後に弁当を二つ忘れずに鞄に入れたら準備完了だ。
「ほい。沙夜の弁当」
「ありがとうございます」
笑顔で弁当を受け取った沙夜は大事そうに弁当を自分の鞄に入れた。
「よし!行くか」
「はい行きましょう。兄さん」
俺と沙夜は揃って家を出る。
一緒に登校するのは久しぶりだ。
だが中学校は駅とは違う方向に行かないといけない。俺は遠回りになってしまうがいつもより早く家を出ているから多分問題ない。
俺が遠回りになることに申し訳なさそうにしていた沙夜だったが少し歩くと、もう気にしてはいない様子だった。
言葉数は決して多かったわけじゃないけど別れるまでお互い楽しめた思う。少なくとも俺はそうだった。
「俺はここだから。じゃあな沙夜」
「はい。気を付けてくださいね兄さん」
「ああ、分かった。沙夜も気を付けろよ」
「もちろんです。失礼します兄さん」
沙夜と別れた俺は、駅へと向かって歩き始めた。
駅の到着するといつもの時間になっていて、涼が待っていた。
「涼、おはよう」
「幸人。おはよう。あれっ、今日はいつもと違う方向から来たんだ」
俺がいつもとは違う方向から現れていたことに驚いているようだった。
「今日は沙夜と一緒に歩いてきたからな」
「相変わらず仲良し兄弟だね」
涼は、ため息をつきながら呆れたようにそう言った。
俺は何故涼がそんな反応をするのかよくわからず首をかしげる。
「俺変なこと言った?」
「別になんでもない。ただ、幸人のシスコンぶりに呆れただけ」
「俺はシスコンじゃない!」
「はい、はい」
俺の言葉は軽く受け流された。
普通の兄妹よりは仲がいいことは自覚しているつもりだが、俺は決してシスコンではない。
だから、涼にそう言われるのは納得いかないのだが、親も含め沙夜以外に味方はいない。
俺にとっては死活問題なのだが、涼にとってはただの軽口を言いながらいつもの電車に乗った。
一番人が多い時間は避けているが、それでも乗車している人は多い。
そういえば、七瀬も一緒の駅を使っているはずだが、登下校はどうしているのだろう。同じ電車で登下校してるならいい時間帯を教えておいた方がいいかもしれない。七瀬ぐらいの美少女ならあの満員電車の中ならいつ痴漢にあってもおかしくない気がする。
「幸人、どうかした?真剣な顔してるけど」
「あ、ああ。少し考え事をな」
「へぇー、そこまで真剣になるってことは沙夜ちゃんのこと?」
「嫌、違うけど‥‥‥」
俺がそう答えると、涼はえっと驚いてから真剣な顔になって何かを考え始めているようだった。
電車に揺られること数分、沈黙して何かを考えていた涼は結論を出したようで下げていた子を上げた。
「幸人が考えてることって七瀬さんのことかい」
「‥‥‥」
俺にしか聞こえない様な声で涼はそう言った。
図星を突かれた俺は、何も言えなった。
七瀬とのことは少しだけ涼に話していた。頭の切れる涼ならその答えにたどり着くのも簡単な事か。
俺の沈黙を肯定と判断したであろう涼が、次に何を言ってくるのかと思っていたら涼はただ嬉しそうな視線を向けるだけだ。
涼は、今の何が嬉しかったのかわからないがずっと笑顔のままで少し怖かった。
折角、今日は沙夜と少しの間だが一緒に登校することが出来てテンションがいつもより上がっていた。それなのに、涼の謎の言動によって憂鬱な気分になっていた。
下がってしまったテンションのまま電車を降りて涼と共に駅を出る。駅を出るときには、謎の笑顔は聞いていていつものクールな涼だった。
どうせ直ぐにそのクールな感じも消えてしまうのだが。
「涼くんおはよー!」
駅から出て歩いていると涼の背中に抱き着いた女子生徒。
後ろを振り向く必要も無くその女子生徒が菜月であることを俺も涼も承知している。と言うか毎日こんな感じだ。
「「おはよう菜月」
俺と涼が振り向いて菜月におはようを言うと菜月は満面の笑みを浮かべた。よほどうれしかったのだろう涼に抱きしめられながらおはようを言われたのが。
「おはよー涼くん。幸人もおはよー」
涼に抱き着きながらも俺の事は忘れていなかったらしい。絶対忘れられていると思っていたか普通に驚いた。
そこからは、菜月を加えた三人で登校する。
涼と菜月は勿論のことイチャ着くから、俺は二人の少し前を歩いてたまに会話に参加すると言った感じだ。
だが、少しづつ二人の世界に入って行って俺に会話が飛ぶことも無くなった。毎日こうなのだから俺が一緒に居る必要があるのかわからない。
一学期の頃に、流石に一緒に居る意味がないなと一人で登校したらその後に涼と菜月に何故か凄い怒られた。怒るなら俺の事を忘れないでほしいと思うのだがいつも最終的には忘れられてるんだよな。
学校まであと少しの所で、いつの間にか二人の世界から帰ってきていた菜月が俺の隣までやった来た。
「幸人、鞄の中に何が入ってるの」
菜月は興味津々な様子で話しかけてくる。
「‥‥‥特別なものは入ってないぞ。教科書と弁当ぐらいだ」
「ふーん。じゃあなんで少しうろたえたのかな」
このカップルは揃って痛い所を突いてくる。
ここで菜月に俺がもう一つ弁当を持っているということを知られてはいけない。知られたら確実に理由をしつこく聞かれるだろうし、変な理由を付けたら七瀬に渡せなくなる。
だからと言って正直話せば菜月の事だからきっと他の友達に話す確率が高い。それはそれで渡しにくい。
「ただ、なんで急にそんなこと聞いてきたのかわからなくて驚いただけだ」
俺はとりあえず誤魔化す道を選んだ。
「ほんとにー‥‥‥」
菜月は、まだ疑っているらしい。
なんでそこまで疑うのかよくわからない。
「ああ、本当だ」
「わかった。そこまで言うなら信じてあげるよ」
まだ疑っているようだがとりあえず乗り切ることが出来た。
本当に朝から疲れた。これで今日一日持つのだろうか。
これからまだ大変なことがあるというのに先が思いやられる。




