13話
家に帰ってきた俺達は早速、カレーを作り始めた。
まずはジャガイモの皮むきからなのだが、七瀬はピーラーすら初めて使うらしくおぼつかない手元で頑張っていた。完璧とまではいかないが初めてにして上出来だと思う。
次に食材をきるが、包丁の持ち方はお菓子作りをしている分ある程度様になっているがそれでも危なっかしいのに変りはない。
よくこれであんなに美味しいお菓子が作れるな。
「お、おい!ちょっと待った」
「どうしたのそんなに慌てて」
「慌てるも何も切るときは添える手をこう猫の手にして切るんだよ。こうするとケガしないだろう」
「確かに真田君って天才だね」
そんなボケたことを素で言う七瀬に俺はあきれるしかなった。
「七瀬これ常識だから」
「えっ!そうなの」
初めて知ったような顔をしないでくれ。実際そうなんだろうけどこっちが虚しくなるから。
ほとんど何も知らない七瀬だった食材を切ることは結構うまく切れていた。
手元は危なっかしく今にも手を切りそうで怖い、猫の手が崩れるたびに俺が注意して戻すのだった。
どうにか全て切り終わった頃には、俺の精神はズタボロにやられていた。そんな俺とは正反対に七瀬はうまく出来て嬉しかったのかはしぃでいる。
休憩がてら様子を見に来た沙夜が引いてしまう位に俺達のテンションには温度差があった。
炒めたり灰汁を取る作業も七瀬に任せたが苦戦しながらも頑張っていた。俺も苦労せずに教えることができた。
七瀬は知らないだけでセンスはある方だと俺は思った。
ただ俺が思っていた七瀬のイメージは崩れ去ってしまった。完璧美少女かと思っていたら案外ポンコツというか不器用だった。
「七瀬、カレールーはな割って入れるんだよ。こんな風にな」
「あっ確かにこっちの方が早く溶けるもんね」
俺の手本を真似て七瀬のその通りにしている。その動作がたどたどしくて、幼い頃の沙夜を見ている気分だった。
「よしこれで完成だな」
「本当に私が作ったの。すごくおいしそう」
目を輝かせながらそう話す七瀬の姿から自分で作れたことが相当嬉しいように感じられた。
「俺が盛り付けはするから沙夜を呼んできてくれないか」
「うん分かった。沙夜ちゃんの部屋ってどこ?」
「あーそうだった。そのドアから奥に行って右側の部屋だ」
「ありがとう。沙夜ちゃん呼んでくるね」
説明すると七瀬は部屋から出て行き沙夜を呼びに行った。
俺は炊いておいた白米を盛り付けてカレーをよそう。あとおまけとして煮込んでいる間に作ったゆで卵を切って盛り付けて完成だ。殻を剥くのは七瀬に任せたから凸凹しているがこんなもんだろう。
俺がテーブルに並べ終えたタイミングで狙っていたかのように七瀬と沙夜が戻ってきた。
七瀬は楽しそうに沙夜に話をしている。沙夜も静かに聞いているがその顔はどこか嬉しそうな表情をしていた。
食卓に着くと沙夜は驚いたように目を見張っている。
「この具材は兄さんが切ったんですか」
「俺は全く切ってないよ。七瀬が一人で全部切ったんだ」
「初めてでこんなにきれいに切れるんですか」
声の様子から沙夜が感心しているのがわかる。七瀬はドヤ顔をしているが忘れないでもらいたい。
「沙夜だまされるな、きれいに切れていると言ってもまだ手元が危険だからな。ていうかお菓子作ってるときに見てないか」
「心愛は支持を出すだけでしたから見ていません。そんなに危ないですか」
沙夜は半信半疑の様だがあれは実際に見てみないと分からないだろう。俺も沙夜と同じ立場だったら信じられなかった。
「ああ、あれで良くここまできれいに切れたなって思ってる」
「いいじゃんケガしてないんだから。それより早く食べようよ」
「そうですね冷める前に食べてしまいましょう。心愛の料理をしている姿が気になりますが‥‥‥」
沙夜は最後の言葉を濁しながらそう言った。明日は沙夜も一緒に居るかもしれない。七瀬は明日苦労しそうだ、沙夜の方が俺よりスパルタだからな。
「いただきまーす」
「「いただきます」」
揃って手も合わせて食べ始める。
一口食べて七瀬は驚いたように目を丸くした。
「おいしい‥‥‥」
「それは良かった。それにしても驚きすぎじゃないか」
「だって初めて自分でこんなにおいしいカレーが作れたんだよ」
「普段どんな食生活してるんだよ」
「ここに引っ越してきてからはコンビニ弁当か外食だよ」
料理が出来ないが一人暮らしをしている人は、日本全国かなりいるとは思っているが別に悪いとは思っていない。
だが七瀬の場合、少なくとも一学期の間は誰かと暮らしていたわけでそれも学校に通うのに問題のない場所に住んでいて一人暮らしを始めるメリットなんてあるだろうか。
「なんで一人暮らしなんか始めたんだ?」
俺がそう聞くと七瀬は少し困った表情をした。
「私のお父さんがね凄い過保護なの。だから出来ないことが多くって、料理もそうケガすると危ないからって中学校に上がるまで電子レンジすら使わせてくれなかったの」
恥ずかしそうにしながら七瀬はそう言った。
俺は子供思いのいい親御さんじゃないかと思ったがその言葉を口にすることは無かった。口を開きかけたときに沙夜に何も言うなみたいな視線を向けられたから。
「だから一人暮らしを始めたの。まだ、いろいろ慣れてなくて毎日大変なんだけどね」
「困ったことがあったらいつでも相談してください。私も兄さんも力になりますから」
この会話を聞いただけだとどっちが年上なのかよくわからなくなってくるなぁ。身長は七瀬の方が高いけど、オーラというか雰囲気が沙夜の方が大人な感じがする。
それから女子二人は楽しそうに談笑を始めた。
俺はそんな二人を静かに見守りながらカレーを食べた。
「本当に今日はありがとう!」
「俺もなんだかんだ楽しかったから明日からもよろしく」
俺がそう言うと七瀬は何故か笑っている。
なんで笑うんだと考えてみると、そういえば似たようなやり取りをしたことを思いだした。俺も七瀬ほどではないが一緒になって笑った。
そのことを知らない沙夜は、俺と七瀬が笑っている理由もわからない。一人訳も分からず戸惑った表情を見せている。それから、頬を膨らませて俺の方へ近づいてくると俺の胸をたたき始めた。
もちろん本気ではないから全然痛くないし、その姿はとても可愛らしい。
俺と七瀬の笑いは、微笑みに変わった。
「そういえば、七瀬は弁当の中身に入れてほしい料理とかあるか」
一通り笑った後、俺は機嫌の悪い沙夜の頭を撫でながら七瀬にそう聞いた。
「卵焼きは絶対かな」
七瀬は即答した、相当卵焼きが大好きなのだろう。
卵焼きは得意だから期待してもらいたい。
「どんな卵焼きがいいとかあるか」
「うーん。だし巻き卵が一番かな」
「わかった。それを明日の弁当には必ず入れるよ。他にはあるか」
「大丈夫。あとはお任せでお願します」
かなり期待されているようだから明日はいつもより早く起きて頑張るかなせっかくなら喜んでほしいし。
「あっそうだ。お弁当なんだけど昼休みに渡してくれないかな」
「いいけどどうして?」
帰り際に七瀬はそう言ってきた。
俺は学校に行く前に渡そうと思っていたから、少し驚いた。それに、七瀬がこんことを言うとは思っていなかったから余計にだ。
「みんなに自慢したいから」
堂々と言われても俺にはよくわからなかった。なぜ自慢したいんだ。そいいえば、俺の弁当が美味しそうって話があるんだっけ。
「でも別に俺が直接渡す必要なんて無くないか」
「いやいや、大事だよ。真田君が私に直接渡してくれた方がみんな信じてくれるから」
「そう言うもんなのか‥‥‥わかった。明日の昼休みに直接渡せばいいんだな」
「うん。我が儘聞いてくれたありがと!」
学校では見せない笑顔でお礼を言われて嬉しかった。そういえば俺以外にこの笑顔を向けてるとこ見たことない。沙夜にもここまでの笑顔は見せていない気がする。気にするだけ無駄かもしれないけど。
「それじゃあまた明日ね、真田君」
「ああ、また明日。明日は期待していてくれ」
「わかった、期待してるね。バイバイ」
最後まで笑顔のまま七瀬は帰っていった。
今日は俺は家まで送ることはしなかった。正確には送ろとしたのだが、機嫌を悪くしてしまった沙夜が俺にずっとくっついているから送ろにもできなかった。
それから、沙夜の機嫌を直すのにまた苦労した。
新しい作品を書き始めました。良かったら読んでみてください。




