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12話


 次の日、七瀬は時間通りに家にやってきた。早速、調理開始と言いたいところだが、まずは買い物から始めようということになっている。


「沙夜行ってくる」

「行ってくるね沙夜ちゃん」

「行ってらっしゃい。兄さん、心愛」


 沙夜が留守番で俺と七瀬で買い物に行く。七瀬は自分でこういう買い物をほとんどしたことがないとのことだったから、ここから教えることになった。


 買い物をするのは勿論、マンションの近くにある俺達が良く買い物をするスーパーだ。


「そういえば、私まだ何作るか聞いてないんだけど」

「あっ、そうだった。今日は無難なとこからカレーを作ろうと思ってる」

「やったー!私カレー大好きなんだ」 


 そう子供の様にはしゃいでいる。

喜ぶのはいいけど作るのは七瀬自身だからね。そんな俺の心配をよそに七瀬は一人、スキップを今にも始めるような足取りで歩いている。


 スーパーに到着した俺達はカートを手に店内へ。

 タイムセール時間ということもあり店内は、主婦であふれている。俺は慣れているが、慣れない七瀬は人の多さに戸惑いを隠せていない。


 それでも順調に牛肉、人参、玉ねぎと順調に食材をカートに掘り込んでいった。


「七瀬ちょっと待った」

「え?どうしたの急に」


 ジャガイモを手に取ってカートに入れようとする七瀬を俺は止める。七瀬は不思議そうな表情で俺を見つめている。


「カレーに使うのはこっちのメークインだ」

「そうなの。どれもでもよくよくないの」

「ああ、メークインは形が崩れにくいから煮物には向いてるんだよ」

「そうなんだ、私初めて知ったよ」


 七瀬は初めに手に取った方にもとに戻して、楕円形のメークインを手に取ってカートに入れた。

 あとはカレールーをカート入れたら買い物終了だ。

 ちなみに福神漬けは自家製だから買う必要はない。それを聞いて七瀬はかなり驚いていた。高校生が普通自分で作ろうとは思わないよな。


「真田君、誰に料理を教わったの?」


 会計を終えて家と帰る道中にそのことをずっと思っていたかのような口調で聞いてきた。


「特に誰かに教わってはいないな。沙夜と競い合いながらうまくなって感じかな」

「へー、じゃあ沙夜ちゃんと同じぐらいの腕前なの」

「まあそうだな」


 俺の言葉を聞いて七瀬は納得した様子でうなづいている。もしかしたら沙夜から同じようなことを言われて多少なりとも疑っていたのかもしれないな。


「もう一つ聞いていい」

「まだ何かあるのか」

「うん。真田君いつもお弁当だよね、あれって誰が作ってるの」

「誰ってもちろん作ってるのは俺だけど‥‥‥」


 俺がそう言うとすごい勢いで七瀬が俺に近づいてきた。キラキラした目を俺に向けながら。

 どうしたそんなに目を輝かせて。


 それに距離が近すぎる。いい匂いはするし柔らかいものが当たっている。何かとまでは言わないけど。


 七瀬はしばらくその状態から動かず、近距離から俺の事を見ていた。俺の精神は凄い勢いで削られていく。

 それに、主婦の皆さんの生暖かい視線がまた俺の精神にダメージを与えていく。


 俺の表情に気が付いたのかハッと我に返った七瀬は恥ずかしそうに顔を下に向けて早足で歩き始めた。

 俺はその後を静かについていくことにした。


「ごめんね、その急に近づいて‥‥‥」


 落ち着きを取り戻した七瀬は歩くスピードを落として俺の隣まで来てそう言った。


「別に気にしてないから。それに俺に言いたいことでもあるんだろう」

「えーとうん。実はね真田君のお弁当が凄い美味しそうだなって友達とよ話してるの」

「ふーん。そうなんだ‥‥‥」


 俺は平静を装って答えるが内心は動揺しまくりだ。

 俺の弁当のどこがそんなおいしそうに見えるんだ。別に普通のパッとしない弁当を作っているつもりなんだが。女子の話題になる理由がわからない。


「ちなみにどこら辺がそう見えるんだ?」

「お弁当全体の雰囲気がこうなんて言ったらいいのかわからないんだけど、凄いおいしそうって雰囲気が伝わってくるの」


 なんだその暴論はそれだけで話題になってしまうのか。どれだけ暇なんだよ最近の女子高生はもっとまともな話題はないのか。

 弁当が美味しいのは事実だけど。


 さっきの七瀬のキラキラとした目は、食べたいとかそんな感じのアピールだったのか。我を忘れる位食べたいのなら別に作ったやってもいいかもしれない。

 沙夜がお世話になっているわけだし、お礼と言うことで作ってやるか。沙夜の分も含めて三人分になるがそれぐらいどうってことない。


「食べたいなら明日七瀬の分も作ってくるけど」

「えっ!いいの」

「ああ、日頃のお礼もあるし、あんな食べたそうな表情で言われたらな」


 七瀬は幼い子供の様に飛び跳ねながら喜んでいる。

 七瀬って本気で喜ぶときは、何故か幼児化するということを短い付き合いながら知ってしまった。

 そんな期待されたら明日はいつもより早起きして頑張るか。


「ありがとう、真田君!」


 満面の笑顔でそう言われて、不覚にもドキッとしてしまった。それから家に帰るまで七瀬を直視することができなかった。

 


 

 

 

 

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