11話
俺が座ると沙夜が自分のショルダーバッグからクッキーの入った袋を取り出した。
「兄さんどうぞ」
「ああ、ありがとう。沙夜が作ったのか」
「はいそうですよ。かなり心愛に手伝ってもらってですけどね」
沙夜はそう言っているが明らかに先週作ったものよりおいしそうな見た目はしていた。
初めて期待して食べらるかもしれない。
「私も食べたけど食べられる味にはなってるよ」
「そうか‥‥‥と言うか食べてもいいのか」
俺が悩んでいると菜月ががテーブルまでやってきた。
「店長からの伝言伝えに来たよ。大丈夫だって良かったね、幸人」
「ありがとうございます。と伝えといてくれ」
「りょうかーい」
一礼してから「ごゆっくり」と言って菜月は戻っていった。
俺は袋を開けてクッキーを一つに取り出して、口になかに入れた。
お世辞にもおいしいとはまだ言えないが、食べられない訳じゃないしクッキーなっている。
一週間でここまで進歩するとはかなり驚いた。このスピードなら案外速くおいしいと言えるものを作れるようになるかもしれない。
「今までより断然良くなってる。頑張ったな」
俺はそう言って沙夜の頭を優しく撫でる。沙夜は気持ち良さそうに目を細めていて嬉しそうだ。
「えーと、真田君?何してるの」
「頭撫でてるだけだけど、あっ‥‥‥」
俺の手は沙夜の頭の上で止まった。
沙夜の様子が家と一緒だからつい癖と言うか当たり前の様に頭をなでていた。外ではしないようにしていたのに普通にやってしまった。
俺は沙夜の頭からそっと手を放した。不服そうにしているが我慢してもらおう。それにこの状況を理解していないようだし。
「二人って本当に仲いいよね」
「そうですね。小さい頃は両親が仕事で家にいないことが多かったのでいつも兄さんと一緒だったからだと思いますよ」
「だとしても仲良すぎるよ。兄妹って知らなかったら恋人にしか見えないよ」
「そうでしょうか。普通だと思いますけど」
「いやいや、全然普通じゃないから」
七瀬に言葉に沙夜はかなり驚いているようだ。その様子気持ちは俺もわかる。
俺も今のような話を涼にしておかしいと言われるまで今の沙夜の様に兄妹で頭をなでたりするのは当たり前だと思っていたからだ。
あの時は本当に驚いた。当たり前だと思っていたことが崩れていったんだから。
俺は七瀬と沙夜に今日の様子を聞いて、流石に仕事に戻った方がいいなと思い、十分ぐらい話をして仕事に戻った。
戻った俺が大勢の仕事仲間から恨めしの視線を受けたのは言うまでもない。
沙夜と七瀬はバイトの時間ご終わるまで待っていてくれるらしく、ガールズトークに花を咲かせている様子だった。
なんであそこまで早く仲良くなったのか、七瀬の力なのか相性が良かったのよくわからないが。
バイトの終了まで残りの一時間、沙夜と七瀬の方を時々確認しながら仕事をした。たまに目が合った時に手をって来たのは周りからの視線もあり恥ずかしかった。
誰も沙夜と七瀬に言い寄ってくることは無かったから安心だ。まぁ、あの二人にナンパまがいの事でもしたらどうなるかそいつにわからせてやるが。
「やっと終わった‥‥‥」
「お疲れ様、幸人」
「涼もお疲れ」
俺が帰るために着替えようと控室に入ると、涼が先に着替えててお互い労いの言葉をかける。それからは、疲れていたせいだと思うが無言で帰る準備をした。
涼は菜月と一緒に帰るから、もう少し待っているらしい。
俺は別れを告げて沙夜と七瀬のもとへ向かった。俺が行くと二人はすでに支払いを済ませていて、入り口の前で待っていた。
「お待たせ二人とも」
「やっと来た。遅いよ、真田君」
「いいじゃないですか心愛。早く帰りましょう」
「そうだな帰るか」
俺達は揃って店を出た。
沙夜と七瀬が楽しそうに話しながら歩いていて、俺はその少し後ろをついて歩いている。俺が一緒に帰る必要があったのか、居てもいなくても一緒じゃないか。
今は商店街を歩いていて人通りが多いからだろうが、美少女二人に向けられる視線は半端じゃない。
中には写真を撮ろうとしている輩が居てそんなときは俺がさりげなく間に入った。俺このために呼ばれたのかな。
写真を撮ろうとしていた奴は悔しそうな顔をしていたが普通に盗撮なので勘弁してもらたい。
流石に商店街を抜ければ人通りも減り周りへ注意を向ける必要もなくなった。
そしてそれを待っていたかのように二人は俺の方に向いて笑顔で話しかけてきた。絶対狙ってたこの二人。
話すと言っても基本的しゃべるのは沙夜と七瀬で、俺は二人の話を聞いて相槌を時々打つぐらいだ。
「真田君ちょっといい」
「ん、どうした急にかしこまって」
「お願いしたいことがあって‥‥‥私に料理を教えて下さい!」
急に俺に話しかけてきたと思ったら、よくわからないこと頼まれた。
七瀬は料理でできるんじゃないのか。
「えーと教えるのはいいけどなんで」
「二週間後に調理実習があるよね」
明らかに嫌そうなそうな表情で話している。
本当に料理が出来ないみたいだ。お菓子作るのはうまいのに料理が出来ないって、器用なのか不器用なのか。
「つまりそれまでに練習しときたいと」
俺がそう言うと七瀬は少し恥ずかしそうに小さく頷いた。
「それはわかったけどなんで俺なんだ」
「それはね最初は沙夜ちゃんにお願いしたんだけど、兄さんの方が上手ですよって言ったの。それに困ったときは助けてくれるって言ったよね」
約束を七瀬はしっかりと覚えていたらしい。ていうか俺そんなこと言ってたんだ。全く覚えていないが言ってしまったんだろうな多分。
教えるんなら沙夜でもいいと思ったがどう頑張っても俺にさせようとするだろう。それに約束をしていたのでは断りづらい覚えてないけど。
「わかった。俺で良ければ力になるよ」
「ありがとう。明日から毎日お願いね」
「えっ毎日‥‥‥わかった」
あんな笑顔で言われて断れる男なんて存在しないんじゃないか。七瀬が喜んでいるのはわかるが、なんで沙夜まで一緒に喜んでるんだ。
七瀬と一緒に居られる時間が増えるから嬉しいとかか。
沙夜そんな風に思える友達ができたのは嬉しい事だが、少し寂しい様な。
でも、沙夜が教えることができない理由は納得した。休みの日ならともかくとして、平日は生徒会の仕事で遅くなることがあるのだから毎日はできない。
それから二人は余程嬉しかったのかずっとテンション高めで家まで歩いていた。
逆に俺は不安な気持ちを抱えながら歩いた。人の料理を教えるのは初めてだから、どんな風に教えてらいいのかよくわからない。
俺は相当険しい顔をしていたらしく沙夜と七瀬にかなり心配させてしまった。
何をしたらいいのかわからないから、沙夜に相談しておいた方がいいかな。
マンションに着いて、俺の家の階で別れることになった。毎回俺が七瀬を家まで送っていくのはあれなので今日はここで別れることになった。
「明日からよろしくね、真田君」
「こちらこそ明日からよろしく」
「沙夜ちゃんもまた明日ね」
「はい。また明日会いましょう」
そうして俺達は分かれて自分達の家へと帰った。
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