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10話


 また次の週の土曜日。

 今日も七瀬は家に来て沙夜にお菓子作りを教えてくれる。沙夜がやる気を出していたが変な方向に空回りしないでほしい。

 七瀬が苦労しそうだが終わり際の雰囲気からして前回よりもいい物を作ってくれと願うばかりだ。

 

 そんなことを考えながら俺は一人、バイト先に向かっていた。多少、二人だけにするのは心配だが、あの二人ならどうにかなるだろう。


 午前十時半、俺はバイト先である喫茶店に着いた。

 喫茶店と言っても開店は昼からだし、メニューもかなりバリエーションがある。

 俺的にはレストランじゃないかと思うのだが店長が喫茶店と言い張るからそういうことにしている。


 ちなみにここで、涼と菜月もバイトをしている。


「おはようございます」

「あっ、おはよう。幸人」


 俺が裏口から店内の準備室に入るとすでに涼が来ていて、さわやかな笑顔で挨拶を返してきた。

 涼以外の人はおらず礼儀良く挨拶した俺がバカみたいだ。


「おはよう、涼」


 改めて涼にいつも通りの挨拶をする。


「僕は先に行って準備してるから早く来てよ」

「了解」


 そう言って涼は店内へと消えて行った。


 俺が店の制服に着替え終わって涼のもとへ行こうとして立ち上がると、裏口の扉が開いて、菜月と見知った顔の女性が談笑しながら入ってきた。


「あ、ユッキー。おはよー」

「おはよう、夕夏。それよりユッキー言うな!」


 挨拶ついでに変なあだ名で呼んでくる菜月を叱る。

 菜月に反省の色は全く見えていないのだが。


「えーいいじゃんべつに」

「全然よくない!」

「いやー、二人とも仲良しだね」


 明らかにからかうような口調で口をはさんできたのは、菜月と一緒に入ってきた大学生で菜月の姉である双葉ふたば 彩芽あやめさんだ。


 大人な雰囲気の美女だが中身は、ほとんど菜月と変わらない。一応年上ではあるはずだが、たまに本当に年上なのか疑いたくなる時がある。

 それでも、俺達にとってはお姉さん的存在であるのは間違いない。頼りになるかは別としてだが。


「彩芽さんやめてください。菜月が調子に乗りますから」

「わかってる、わかってる」


 口ではそう言ってはいるが、にやにやしてるし言葉の意味を理解を絶対わかってない。

 ついでに、菜月も似たような表情をしている。この姉妹は本当にそっくりだ。


「それじゃあ、俺は先に準備の方してくるんで」


 俺は二人にそう告げると足早に部屋から退散した。あのままだったら多分、菜月と彩芽さんは結託して俺をからかいに来るだろう。


 一人ずつでもめんどくさいのに、二人同時に相手をするのは普通に嫌だ。

 似た者同士だから驚くほど息ぴったりで、少なくともこの二人を同時に相手でできるのは涼ぐらいだろう。


 店内へと入った俺は直ぐに涼に泣きついた。


「大丈夫、幸人。なんか逃げてきたような感じだったけど」

「涼、お前の彼女とその姉をどうにかしてくれ」


 俺の言葉で全て理解してくれたようだが、涼は苦笑いを浮かべるだけだった。涼も半ばあきらめているのだろう。


 話はそれくらいにして、店内の準備取り掛かった。

 準備と言っても俺達がするのはテーブルや椅子を拭いたり、掃除といった雑用だけど感じだけど大事な作業だ。


 店内の準備がほとんど終わったタイミングで、狙ったかの様に彩芽さんと菜月で出てきた。いや、実際狙って出てきたのは間違いないか。


 店長に軽く叱られていたが、二人に反省の色はあまり見えなかった。


 それから店長は一人一人に指示を出していく。


「幸人君はいつも通り厨房を任せた」

「はい、分かりました」


 俺はここでも自分の料理の技術を十分に発揮している。

 バイトに入った初日に厨房に入ったし、涼と一緒に考案して新作のメニューを作ったこともある。


「それじゃあ、みんな今日も一日頑張ろう!」

「「おーー!」」


 開店前にこうして全員で声を合わせて気合を入れるのがこの店の日課だ。


 残念ながら俺達のような学生組は休日しかできない。俺は毎日してもいいなと思っているから、本当に残念。


 午後十一時、開店した。

 昼時とあって店は繁盛している。

 俺以外のバイト仲間は、全員接客に回っている。注文を取ったり、料理を運んでせわしなく動き回っている。


 そういう俺も次から次へと来る注文に応えるべく、料理を作りまくっている。作るのは楽しいし、やりがいがあるからいいんだけど流石に疲れるんだよな。


 ちらっと店内を見た感じ、涼達も頑張っているようだったし俺ももうひと頑張りしたいとな。

 それから、人の出入りだ少なくなるまでがむしゃらに頑張った。


「幸人ちょっといいかい」


 客足が少し収まって俺が待機室で休憩していると、さっき休憩が終わったばかりの涼が部屋に入ってきた。

 急いだ表情から何か緊急の用事でもあるのかもしれない。


「なにかあったのか」

「別に何もないよ。ただ沙夜ちゃんが来ただけだよ。七瀬さんと一緒にね」

「は?いやいや何の冗談だ」

「幸人残念だけど事実だ。それで、沙夜ちゃんが呼んでるからこうして呼びに来たんだ」


 涼がそんなしょうもない嘘をつくわけがないから本当なのだろうが何故来てるんだ。

 今の時間は二人でお菓子を作っているはずだ。一体何をしているのか。


「わかった、とりあえず行ってみる」


 俺が二人のもとに向かうと、沙夜と七瀬は紅茶を片手に談笑していた。


 美少女二人が楽しそうに話しているだけで本当にお客さんも店員も見とれているようだった。

 そこに話しかけに行くのは雰囲気を壊すみたいでかなり気まずい。


「あっ、兄さん。こっちですよ」


 話しかける前に俺の存在に気が付いた沙夜が笑顔で手を振って呼んできた。

 みなさんの視線が一斉に俺の方に向く。視線はよく受けてはいるが、俺に向けられることはまずないから恥ずかしい。


 そんな俺の気持ちを理解してくれていないであろう沙夜は笑顔で手を振り続けている。


「お、遅れて悪い二人とも」

「いえいえ。大丈夫ですよ、兄さん。急に来たのは私達ですから」

「そ、そうか。それじゃあ俺は戻るから二人でゆっくりしてくれ」


 俺がその場を離れようとすると不意に袖を掴まれた。

 俺が振り向くと恥ずかしいのか顔を赤らめて俺の袖を掴む沙夜の姿があった。


 この瞬間、この場に居る俺以外の全員がフリーズしただろう。中には気絶しかけた人もいるようだ。


 美少女が顔を赤くして袖を掴むという状況にこの場が飲まれている感じだ。七瀬ですら驚きのあまり硬直して微動だにしないのだ。


 沙夜と七瀬はお互いにかなりのレベルの美少女だがタイプが違う。

 七瀬はどこか大人な美少女だが、沙夜は可愛い系の美少女だ。

 七瀬でもかなりの威力になるだろうが、沙夜の可愛いさには負けるだろう。


 俺にはよく見せてくれるから可愛いとは思うが動揺はしない。

 だが、俺以外には見せたことのない表情だったのには驚いた。


「沙夜。俺はまだ仕事があってだな‥‥‥」

「私は兄さんと一緒に居たいです」


 そんな悲しそうな表情をされては断りずらい。それに人の目があるから余計にだ。


 俺がどうしようかと考えていると後ろから視線を感じた。後ろを向くと店長が笑顔で親指を立てていた。

 確実にあれは沙夜と一緒にいても大丈夫だということだろう。


「はぁーわかった。沙夜と一緒に居るよ」

「ありがとうございます。兄さん!」


 そう満面の笑顔で返されては返す言葉もない。

 それに周りは沙夜の魅力にまた引き込まれているようだった。


 兄としてはちゃんと兄離れできるか不安である。


「えーと、お邪魔します」


 俺も席に腰を下ろした。

 七瀬にここまでの経緯を聞いてみたところ、先週よりも早く作業が進んで予定よりも早めに終わったらしい。

 終わって七瀬が帰ろうとしていると、沙夜も出かける準備を始めて気になったので一緒に来たとのことだった。

 

 へぇーそんなに早く終わったんだ。

 

 

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