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野良の恋

作者: 樹 若葉
掲載日:2020/02/29

どこにでも良くある30人程度の製造工場で、2人は出会った。特にコレといった強みもなく、典型的な小規模な工場だ。

同じ会社で働いているガクとユリカ。上司と部下の関係だ。と言ってもユリカがガクの部署である製品管理部に異動してきたのはつい3日前のことだ。

前の部署の主任とブツかってばかりで、上手く仕事が出来ず異動願いを出してたらしい。

それが認められて、我が製品管理部に異動して来た。ユリカは社内では美人で明るく、皆んなの憧れの的だが、人妻という事、ダンナ以外の男には興味がないという噂で、誰もチョッカイを出すことは無かった。

ガクも怒りっぽいが、30代で部長、面倒見がよく、明るい性格から皆んなに慕われていた。既婚者で家庭に対しても良きダンナであり、父親であった。

『これからよろしくお願いします』

家に帰り、風呂上がりにスマホを見るとユリカからLINEにメッセージが来ていた。

製品管理部(と言っても10人程度だが)では、休みや遅刻の際には上司にLINEで連絡する事になっていた。抵抗なくLINEでのやり取りをする位製品管理部は、皆んな仲の良い関係性だった。当然ユリカともLINEを交換した。

『こちらこそよろしくね』

そう返信すると1分もただずにユリカから返信が来た。

早いな返信。なんて思いながら何度か繰り返しやり取りをしていると

『部長って素敵ですよね。私スゴイタイプなんです』ハート付きのメッセージが届いた。

『オイオイ!ユリカさん酔っぱらってるの?それともからかってるの?ダンナに見られたら勘違いされるから!それにダンナにしか興味がないって聞いてるよ。嘘バレバレ。』

『私、家ではお酒飲まないので。からかってないですよ!つい本音が出ちゃって。ダンナは大丈夫です。それに、ダンナよりも部長にしか興味ないですから。ゴメンナサイまた明日おやすみなさい』

それで初めての2人のメッセージのやり取りは終わった。

正直顔がデレってしているのを自分でも自覚していた。


初めてのやり取りから1ヶ月が経っていた。この間ユリカから毎日メッセージが来ていた。『今日はお疲れ様でした』『忙しそうだったけど体調大丈夫ですか?』他愛もない内容ばかりだが、毎晩少しだがやり取りをするのが楽しみになっていた。

この頃から、仕事中のユリカの自分に対する接し方が変わってきたのを感じていた。

ボディータッチ、話す時の距離感どれも周りの連中に勘違いされるような積極性。

(オイオイ、ユリカさんオレ勘違いしちゃうぞそんな事されたら)なんて思いながらオレの顔も夏の日のソフトクリームの様に溶けていたのだろう。

そんな日々が2ヶ月、3ヶ月経ちユリカから

『部長って私の事どう思っているの?』

この頃にはもう敬語を使わない位仲良くなっていた。

『そんな事言われても!』

正直ギリギリ理性を保っているが、自分の心は妻よりもユリカの方に傾いていた。

『来週の土曜日ご飯食べに行こうよ?』

ユリカが誘って来た。

『良いよ』

自分でもダメだと思いながらも、ユリカの声、顔、歩いている時の凛とした姿、全てに惹かれている自分には断ることが出来なかった。

『前に行ってみたい!って言ってたお店予約しておくね』

そうメッセージを送って終わった。


7月27日土曜日ユリカとは18時に待ち合わせをしている。生憎の大雨だ。待ち合わせ場所の駐車場に先に付いた。地方という事で車移動が基本である。その為に駐車料金の安い駐車場で待ち合わせをして片方の車で出掛けるのは珍しくない。

5分後ユリカが来た。

ユリカの車まで傘を刺して迎えに行き自分の車に乗せた。

『ゴメンネ!待った?』

ありきたりなセリフを言ってユリカは笑っていた。

『大丈夫だよ!じゃー行こうか。』

予約をした店は、古民家を改築した多国籍料理の店だ。

前から来たかったと言っていたユリカは、嬉しそうに店内を見渡している。剥き出しになっている梁、古びた柱、可愛いのか憎たらしいのか分からないような顔をしている置物、皆んなユリカは目をキラキラ光らせて見ている。

席に案内され、オススメの赤身のステーキ、参鶏湯、サラダ、オムレツを頼み飲み物はジンジャーエール、ユリカはアイスティーを頼んだ。

料理が届く間他愛もない話をして待っていた。

うちの子供が最近スゴイ食べ過ぎて太ってきちゃったとか、ガクさんっていつもどこで買い物してるの?とか。

料理が届いてからは、料理の感想を言いながら楽しい時間を過ごした。

一通り食べ終わり、食後のコーヒーを楽しんでいると不意にユリカから

『ガクさんって私の事好き?私は好きだよ!』

突然の質問にコーヒーをむせ返り驚いていると、ユリカは畳み掛けるように

『付き合っちゃおうよ?不倫しよう?』

ストレートで真っ直ぐに見つめて言ってきた。

ダンナとは高校生の時から付き合って来ていて、その前に1人と付き合っただけで、若い時に全く遊んで来なかったとは噂に聞いていた。若い時に遊んでないと大人になってから…とは良く言ったもんだ。

そう偉そうに思っていてもユリカの可愛い顔も、仕草も全てに惹かれてしまっている自分には何も響かない。

『ダンナと仲良いんでしょ?好きなんでしょ?家庭円満なんでしょ?止めた方が良いよ!子供だって可愛いでしょ?バレたら離れ離れになるよ?』

ギリギリの理性でブレーキをかけてユリカに言った。

チキンランで時速200キロで壁のギリギリで急ブレーキで止まってる気分である。不倫は流石にマズイ!後の事を考えたら辛い未来しかないんだから!そう自分に言い聞かせて冷静になる。

『ダンナの事は好きじゃない!ただの家族ってだけで同居人だから!!体の関係も全く無いし!レスだからウチ‼︎子供は可愛いけど好きになっちゃったもんはしょうがなくない⁉︎何かあっても私は家族よりガクさんを選ぶから!!信じて⁉︎』

そうユリカは説得してきた。

『そんな説得する程好きな訳?』

『愛してるのはガクだけだから』

急ブレーキは間に合わず壁に激突した。理性というブレーキは壊された。

『分かったよ!付き合おう』

2人は不倫関係になった。

『今からどうする?』

大人の2人にはすでに同じ事を思い描いていたのだろう。

ユリカの体は透き通るように真っ白で、綺麗で、シミ1つないシルクの様だった。スタイルは細いというよりもガリガリだ。避妊が嫌いなユリカは、避妊具をオレの手から取り上げ避妊を嫌がり、ムリやり中に出させた。

『作っちゃおうか⁉︎』

の一言と一緒に。


それからユリカは会社でも、周りの目も気にせず自分にイチャついて来た。

そんな2人を見て周りが気付かない訳もない。

製品管理部のお局パートであるマリコさんに、ガクは呼び出された。

『部長、ユリカと出来てるでしょ?何やってるのアンタ⁉︎』

ガクは必死に否定した。ただ可愛いからデレデレしてしまってる事を話したが、全く信用してないのは分かった。

次の日からである、自分を本当に慕ってくれている部下以外誰も自分に挨拶、指示された事に対しての返事がなくなった。ユリカの事もマリコは完璧ムシである。

マリコが皆んなにあの2人は出来ている!だからユリカだけ仕事が優遇されていると、あんな部長相手しなくていい。そんな権限なんか何もないのに言いふらしているらしい。仕事ではユリカだろうと誰であろうと優遇をした時は無い!しかしマリコが言いふらして、皆んなお局様という事、正直怖いというのもあり言いなりになっている。

デキているのはホントだが、仕事は平等にやっているのに!と中途半端に説得力のない事を思いながら、明日からコリャ大変になるなぁ!と溜息をついている。


8月、9月時間が経っても相変わらずの雰囲気。

仕事は皆んな真面目にやってくれているのは助かっているが、皆んなからは部長としての扱いが全くされていなかった。挨拶が無い、指示を出しても頷くだけ。ウチみたいな中小企業だから良いものを、大企業なら大問題だ。そうは思っていても、嘘を付いている罪悪感で何も行動に移せなかった。

9月下旬、益々オレに対する態度が酷くなっていった。マリコを中心に睨み付けてきたり、ニヤニヤしながら人の顔を見てコソコソ話し。

いい加減この雰囲気に我慢出来なくなったオレは、マリコをミーティングルームに呼び出した。

『いつまでもふざけた事してるな!何が気に入らない!ユリカとは何もない!!自分の憶測で周りを巻き込んで部署の雰囲気悪くして何なんだ!』

嘘をついて怒っている自分に頭の中で失笑しながら怒った。

『ゴメンナサイ。』

今までこんなに激怒した時のない自分の姿に驚いたのか、直ぐにマリコは泣きながら謝罪した。

『そんなすぐに謝るなら、こんな大袈裟に上司イジメなんてするな』

自分でも何を言ってるのか、よく分からなかった。

『皆んなには私から、誤解を招く噂を流してゴメンナサイと言います。』

マリコは言った。

呆気なく終わって、拍子抜けしてしまった。

マリコの謝罪後、製品管理部は元の仲良い雰囲気に戻るまでそう時間は掛からなかった。

だけど、心のモヤモヤは晴れる事なくドンドン曇っていく。


特に何事も無く、平和な日々が流れる中、ユリカとは相変わらずな関係が続いていた。

秋が終わり、12月もあと少しというところで、ウチの会社も正月休みに入っていた。連休中会うのが難しい2人は、いつも通りLINEをしていた。その時は突然だった。

『誰、その女?誰とLINEしてんの?』

妻に見られた。

スマホを取り上げられ、ユリカとのやり取りを見られてしまった。『愛してる』『こんな気持ち初めて』『ずっと一緒に居てね』『オレもだよ』

妻が読み上げていく。

『出て行って。顔見たくない。』

この言葉が出るまで30分と掛からなかった。

必死に謝罪をするが、聞く耳を持ってくれる訳もなく私は近所にあるビジネスホテルに泊まった。

ホテルの部屋に入り、ベッドに寝転びながらユリカにLINEした。

『バレた』

既読にはなるが返しが無い。そのまま朝を迎えた。

食事も喉を通らず相変わらずユリカからも返事が来ない。

ピコーン

スマホが鳴った。ユリカからLINEだ。

『私は、自分の家族が大事なのでサヨウナラ。私は平和に生きていきたいし。』

頭の中が真っ白になった。

自分も妻や家族を裏切ったが、こんな裏切りをされるのは初めてだった。

『あんなに良い事言ってたよね?』

『そんな事言ったかなぁ⁉︎』

それから返信もせず終わった。


それから2週間、ビジネスホテルと車中泊をしながら仕事に行っていた。新年度の初出勤が車中泊からというのも情けない。

ユリカは何事もなかったかの様に、普通に仕事をしている。自分もそれに合わせて普通に接している。

『話あるから今日家来て』

妻から連絡が来た。

『分かったよ』

そう返事を返すと、もしかしたらと甘い考えが頭の中を支配する。

『私が出ていくから、アナタ家に帰ってきて!子供もパパっ子だからその方が良いでしょ?』

『何だよそれ?』

『後、相手の女呼んで!それと慰謝料も請求するから!』

『相手の女は、オレが独身って嘘ついて口説いたんだよ!だからあっちは悪くないんだ。』

あんな捨てられ方をしたのに、必死に庇ってる自分が良く分からなかった。

『アンタ最低だね。じゃーアンタから慰謝料請求するから!』

信じたのか信じていないのか、この後に及んで庇っているのがムカついているのか…。

『オレの貯金から100万で良いかな?それ以上は用意出来ない』

『良いよ』

冷たい風が家の中を通り過ぎて行った。


子供との2人暮らしが始まった。

子供にはママは単身赴任という事にした。

元々一人暮らしが長かったおかげで家事は全然苦ではない。料理のレパートリーもそこそこある。マズイか美味しいかは分からないが。

朝7時20分に子供を送り出し、急いで出勤してなるべく定時に帰ってご飯、お風呂、洗濯、子供の宿題と連絡帳のチェックをして就寝する毎日。

ママって大変だったんだなー!残業で家の事任せっぱなしだったからなぁ。


最近ユリカの視線を感じる様になっていた。ヤッパリうちの事気になるんだろうなぁ〜。自分に慰謝料請求とか来たらどうしよう…。とか心配してるんだろうなぁ。そうオレは思っていた。

仕事中、1時間に1回は現場を見廻に行く事にしている。今日ユリカは、個室で1人組み立て部品の確認作業をしている。様子を見に行くとユリカが目を潤ませながら

『ヤッパリ無理なの私』

何のことか分からず黙っていると、

『ヤッパリ一緒に働く事は出来ない』

『はっ?』

『ヤッパリ好きなのガクの事が!顔見てるとツライの好きで、だけど戻ってまたバレたらどうしようって』

『そうなんだ』

突然の告白におもいっきりテンパっている。

一体何が起きてるんだ?オレって捨てられたんだよな?家族が大切!って言われて捨てられたんだよね?頭の中が整理がつかない。妻にも捨てられてユリカにも捨てられて野良犬の様に彷徨っていたオレ。

だけど冷静なフリをして

『ユリカはどうしたいの?』

と余裕ある態度で問い掛けてみた。

『戻りたい』

『戻ってきなよ』

つくづく男って馬鹿だな!餌を貰えたらホイホイ付いて行ってしまう野良犬の様だ。家庭が崩壊している時に、何が今1番にしなきゃいけないのか分かってるくせに。そう思いながらもユリカを受け入れた。どうせまた簡単に裏切られて、捨てられるのに。妻と子を裏切ったオレが何を言ってるんだ。


それからはまた、ユリカとの楽しい日々が続いた。

妻とは相変わらず別居中である。

今日の晩ご飯はカレーにしようか?子に問いかけ承諾を貰い作り始める。ジャガイモ、人参、タマネギ、豚肉が切り終わりタマネギを炒め始めた時である、 『プルルルル』

スマホが鳴った。誰だろ。画面を覗くと元カノの海からだった。

海とは別れた後も、良き友人として仲良くしている。思っている事をズバッと言う所、だけど弱い所もあってどこか守ってあげたいと思わせる魅力がある。

『どうした?久しぶりだなぁ』

『マリコさんとこの間バッタリ会って聞いたんだけど、ユリカちゃんと不倫してんの?』

海は以前バイトでうちの会社を紹介して、1年程働いていた時があった。

またか…。

『そんな訳ないじゃん!人妻だよ?その事は前にちゃんと話しして終わってるのにあの人また言ってるの?』

当たり前の様に嘘を付いている自分に嫌気がする。

『それなら良いけど。あの子昔からガクの事気に入ってたし、だけど信用は出来ないから、危ないから気を付けなよ!平気で自分を守る為なら人を売るタイプだから』

『そんな人なんだ!分かったよ気を付ける。』

白々しく言ってみた。

『まぁ私はバツイチだから、不倫したいなら私としたら?アハハ!』

海が冗談なのかホントなのか分からない事を言って電話が終わった。

ユリカって…。


ユリカとやり直して月日が経った。妻とも離婚の協議が始まっていた。

夏の熱帯夜、寝苦しく中々寝付けないでいた。一服するか。そう思い、庭でタバコを吸い始めた。

タバコもそろそろフィルター近くまで来たその時だった

ピコーン

突然のメッセージ。ユリカからだった。

『ヤッパリ終わりにしたい。』

困惑する。

『何で?』

そう聞くことしか出来ない。

『ヤッパリダンナが好き』

一体何なんだこの女は!別れを告げられた悲しみよりも、怒りの方が勝っている。

ユリカと遊ぶとなると帰宅が大体夜中の1時か2時になる。ユリカは会社の飲み会や姉とカラオケと言って出掛けているらしい。姉は不倫の事を知っているらしく口裏あわせをしてくれている。この間も帰宅が夜中の2時を回った時があり、家の玄関を開けるとダンナが怒って起きていたらしい。『ご飯食べ終わって、少しゆっくりしようか?』ってホテル行って帰って来たら丁度この位の時間だよな?と問い詰められたらしい。勿論ユリカは全否定して逃げたらしい。その時からきっとダンナに毎日抱かれてだんだろ、そう思った。

ユリカの言ったダンナとレスだ!というのも嘘だった。

職場の仲の良い同僚と最近いつしたのか、そんな話をユリカがしているのを耳にした時があった。ユリカは昨日と答えていた。ダンナに抱かれるとスゴイ好きでたまらなくなるとまで答えていた。その話をユリカにした時、逆ギレされた

『夫婦がして何が悪いのか?』

と逆に責められた。

きっとダンナは嫉妬心からユリカを毎晩抱いたんだろう。そしてユリカはダンナの事だけを。

『勝手にしたら?男バカにするのいい加減にしろよな!』

それだけ送信してまたユリカとの関係が終わった。

所詮不倫だ。って言い聞かせているがポッカリと空いた心が寒すぎて何も手が付かずにいた。

自分でも無意識のうちに電話を掛けていた。

相手は海だ。

『もしもーし』

あの元気で明るく、人懐っこい海の声がスマホ越しに聞こえる。そうは言っても海も今年で36歳だ。

『よっ!元気?』

『珍しいねこんな遅くに⁉︎どうしたの?』

『ただ何となーく』

自分でもナゼ海に電話をしたのかよく分からないでいた。

『ガクお前、不倫は私としなー!って言ったからあわよくばだろ?そんなに私が良いのか⁉︎アハハ!じゃー今度会おうか?』

海の明るい声が今の自分には、天から差し伸べられた光の様に感じた。

『イヤイヤそういうアレで電話したんじゃないよ!』

何故この時海に電話をしたのか、自分でもよく分からなかった。誰かに慰めて欲しかったのか、それとも1人が寂しくて、海の本当なのか嘘なのかも分からない言葉に甘えたかったのか。

結局次の休日海と会った。

また妻を裏切るのか。海とのあんな会話の後に、会った時点で裏切りでは無いのか帰るなら今だ。

そう自問しながら海を待った。

『よっ!』

目の前には、ロングのワンピースに白T、ベージュのキャップを被った海が居た。靴は相変わらずナイキのスニーカーなんだな。こういう海のカジュアルな私服が昔は好きだったなぁ。

『よっ!』

お互い挨拶をした後、歩き出した。

『とりあえずさぁ、お腹すいたからご飯食べた後買い物付き合ってよ?』

『良いよ』

そう言って昔2人がお気に入りだったカフェに行った後、大型ショッピングモールに行く事にした。

こじんまりとした店構え、だけど店内は花や北欧の雑貨がオシャレに飾られている。そんな老夫婦が営むカフェに着いてメニューには目を通さずいつも通りオレは、ポークステーキセットにジンジャーエールを、海はオムライスセットにミルクティーを頼む。

『ガク、今更だけど大丈夫?』

急に海が話を振ってきた。

『何が?』

『簡単に言えば元気が無いし』

元気に振る舞ってはいても、ヤッパリ海にはお見通しだな。

海は勘がとても鋭い。気を付けないとユリカとの事がバレるかも!と焦り始める。

『奥さんと上手くいってないんだろう?原因は女か?』

相変わらずスゲーな海の勘は!

関心してる場合では無い。

『違うよ。子供が反抗期で疲れてるんだよ』

『ふーん』

全く信じていない海の返事。

食事を終え、今や全国どこにでもあるだろう大型ショッピングモールへと向かった。海が好きな男性ファッションと、オレの服の好みは凄く合う。その為、一緒に買い物に行くとスゴイ楽しく、ついつい買いすぎてしまう。この日も黒スキニーパンツに白いサマーニット、それに秋服にとグレーとベージュのニットベスト、その他にも何点か購入した。

今日も相変わらずの購入量だ。

一通り買い物も終わりプラプラと歩いていると、海が

『最近1人で子育てしていくのが辛くて、あんな旦那でも別れない方が良かったのかなぁって考えるの。私も36歳になるし誰にも女として相手されなくなっていくんだろうなぁ』

突然のセンチメンタルな空気に沈黙していると海が

『不倫でいいから付き合わない?割り切った関係でいいから!』

『それは良く無いよ!海は性格も良いし顔も可愛い。だから良い人が必ず現れるから!』

『じゃー友達のままで良いから、今日だけは彼女気分にさせてよ?』

『どういう事?』

『ホテル行こう!』

『マジで?』

結局意思の弱いオレは海を抱いた。

『不倫とか、より戻したいとか気にしないで良いから』

あっけらかんと言っている海に何故か心が踊っている。

『多分近々妻とは別れるんだよね。』

何を思って、何を期待して言ったのかも自分では分からなかった。結局、あわよくば感があったのだろうが。

『マジで?』

10分位だろうか沈黙が続いた。

先に沈黙という闇を消したのは海だった。

『じゃー別れたら私が彼女にまたなりたいなぁ!まぁ別れる理由は聞かないよ。何となく分かってるし。』

その何となく分かってるしが妙に怖く感じていた。

『そんな事出来ないよ。待たせておいて海を傷つける結果になるかもしれないし』

この時、あわよくば感よりも海を傷つけるよりも、ユリカと付き合っていた事実が海にバレる事、またユリカの時の様に裏切られるかもの恐怖が頭の中を支配している。

『そっか。分かったよ!だけど私は全然大丈夫だからその気になったら言ってね?元カレだったお友達くん』

そう言いながら笑っている海の目には光るものがあった。


まただ。まただよ。

最近また、仕事中のユリカの視線を感じる様になっていた。目が合うとデレッとした顔をして視線をそらす。チラチラ見ている。ヤッパリ好きとか言うんじゃねーだろうな。そう思いながら4日が経った。

日曜日の昼間、子供も友達と出かけてやる事がなく、暇を持て余していると

『ピコーン』

LINEだ。ユリカからだった。

『こんにちは』

お決まりの一言から始まった。

『お疲れ様。どうしたの?』

『ガクの事考えてるとヤッパリツラくて。今からちょっとでも良いから会えない?話ししたい』

『良いよ。1時間後にいつもの所ね。』

この時はもうハッキリ2人の関係を終わらせよう。そう思っていた。

1時間後いつもの公園の駐車場で落ち合った。

ここは誰も来ないし、道路からも見えないので、密会するのにはかなり良かった。

ユリカの姿を見たオレは迂闊にもトキメイテしまった。

髪型も服装も全て今のオレ好みにして来たのだ。

内巻きに巻いた髪、フレアスカートにノースリーブのシャツを着てカーディガンを羽織っていた。歳をとってからは、こういう落ち着いた服装が好きになっていた。

ホント何で男ってこんな単純なんだ。そう自分にガッカリしながらユリカの話を聞き始めた。

『今までゴメンネ。不倫っていう関係だけどもうガクを悲しませたり裏切らないから戻りたい。ホントに信じて。』

ユリカは泣いていた。

『分かったよ』

女の涙は最強の武器になる。男はバカな生き物だ。結局またオレとユリカは不倫を始めた。


付き合っていればそれはヤッパリ楽しい。ユリカは誰もが認める美女だ。モデルしてます!と言っても皆んな信じるだろう。年齢は34歳だが20代でも通じる。

仕事帰りに30分だけとか、有給を同じ日に取ったりして会った。性行為の時は相変わらず全て中に出していた。危険日でも構わず。良い大人が後の事を考えずにその時の勢いで行動していた。

『身内で入院している人がいて看病とか行ってるんだよね!』

突然ユリカが話し始めた。

『昨日も行ったし、これから週に何回も仕事終わってから行く様なんだ。』

『そっか。大変だなぁ』

そう言って会話が終わった。

次の日からだ、毎日夜の21時30分から始まるユリカからのメッセージが来なくなった。

会社ではいつも通りに接して来る。

入院している身内の看病って言ってたな。忙しいんだ。そう自分に言い聞かせて2週間後…

『別れたい』

ユリカからだ。

『何で?』

とりあえず聞いてみた。

『気持ちが冷めた。もう好きじゃない』

思っていた通りの答えが返ってきた。オレもガマンの限界だった。

『キチンとケジメ付けたら?妻にバレたのはオレのせいだけど、何でいつもオレばっかりこんな振り回されるの?もう限界ユリカのダンナに全部話すから!』

自分でも妻にバレたのは自分のせいであって、ユリカは悪くないのは分かっていた。だけどいつも振り回されて、自分だけコレからツライ日々を送って行くのか、ユリカは何事もなく平和で楽しい人生を送って行くのか。そう考えたらガマン出来なかった。

『勝手に言えば?』

どうせユリカは言わないだろと思っているのだろう、全く余裕でいる。

『今どこ?』

『家だけど』

プルルル

ユリカのスマホに電話した。

『ちょっと何?』

『ダンナに変われよ?』

『居ないよ』

『居ない訳ないじゃん!電話の後ろから声聞こえたよ!』

実際は聞こえていないがハッパをかけてみた。

『ゴメンナサイ許して。ダンナにはバラさないで。』

その懇願するユリカの声で一気に冷め切ってしまった。

『分かったよ。その代わり会社ではお互い普通にする事、仕事を辞めたりして逃げるなよ!仕事は関係ないんだから。この事で皆んなに迷惑かけたくないから!それと、オレ達2人の勝手な行為で、コレからウチの子は辛い目に合うんだから、その事はユリカもキチンと一生背負っていけよな⁉︎』

『分かった。約束します。』

コレでユリカとは完璧に男と女の関係は終わった⁈


秋が深まり、子供とコタツを出したり、冬用の布団を用意したりと慌ただしい日曜の休日を過ごしていた。

不意にその電話はかかって来た。

『別居も何か疲れちゃった。家に戻ろうかな。子供にも会いたいし。』

突然の妻からの言葉だ。この間妻は一切家には帰ってこなかった。やはり子供は気になっていたんだろう。

『今までの事は水に流すから、家族3人また1からやり直さない?』

妻からの思いもよらない提案に、涙しながら答えた。

『セイカが許してくれるならオレは大歓迎だよ』

『じゃー荷物まとめたら今週末に家戻るね』

『ありがとう』

土曜日11時家に妻が帰ってきた。子供は喜びオレは泣いていた。妻はヤレヤレという表情をしながら笑っていた。

『次はないからね』

肩を叩きながら妻は言った。

『分かってるよ。ヤッパリ家族が1番だよ。だから家族になれたんだもんな。』


月曜日

『行ってらっしゃい』

妻に送り出されて家を出た。今度の日曜日は3人で、隣の県までドライブしながら、美味しいカフェ巡りでもしようかな。そんな事を考えながら会社まで車を走らせた。

『おはよう』

ユリカが今日は1番に来ていた。相変わらずスゴイ美人だなと不覚にも思ってしまう。

『おはよう』

返事を返す。

2人っきりになるのは別れて以来初めてだった為か、妙に空気が重い。何を話したら良いのか分からず、あからさまなその場しのぎで、スマホでニュースを見ていた。

スマホに目をやりながら何か視線を感じる。そう思ってチラッと上目遣いで前を見ると、ユリカと目が合った。ユリカは急いで目を逸らした。何とも言えない緊張感と、変な期待をしてしまっている。

まただ、視線を感じる。ユリカと目が合った。ユリカはあのデレッとした顔で急いで目を逸らす。

またなのか?このパターンは

そしてあの言葉が聞こえて来る

『あのさーガク、私ヤッパリ無理だよ!ヤッパリ


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