9.菜乃との映画。
「え、何でここに、菜乃が……」
学校で偶然会うことはあるが、休日に合うのは、これが初めてだった。
「えっと、その、映画を見たくて来ました…」
映画館にいるんだから、そりゃ映画を見に来たんだよな。
何聞いてんだろ、俺。
「そ、それじゃあ、俺そろそろ上映時間だから……」
「あ、そうですね、それでは、失礼します」
丁寧にお辞儀をして菜乃は、入場口へと並んでいった。
それについていくわけではないが、少し遅れて、俺も入場口に並んだ……
まではよかったのに、何故……
「あ、彩人くん、もう少しで始まりますよ!楽しみですね!」
何で、隣の席が菜乃なんだよ!偶然が重なりすぎだろ。
「あぁ、そうだね……」
そんな会話をしていると、徐々に室内が暗くなってきたので、俺は慌ててスマホの電源を落とす。
理香と樹には、
『急用ができたので、帰ります。本当にごめんなさい』と送っておいたので
今頃、俺のことなど気にせず二人仲良く、遊んでいるところだろう。
理香と樹が、デートしているところを想像していると、胸が苦しくなってくるのを感じた。
ダメだ、今は映画に集中しよう。
***
「彩人くん、面白かったね!」
映画が終わった帰り道。菜乃は、笑顔で俺の方を向いてきた。
「たしかに、今回は原作と少しだけ内容が変わっていたけど、そこがまたよかったよな!」
俺はついつい興奮したまま、菜乃の言葉に同調してしまった。
そんな俺を見て引くのかと思ったが、菜乃は俺以上に興奮した口調で話し始めた。
「分かります!そこがまたいいんですよね!」
それからはずっと、映画の感想を話し合っていた。
理香と樹は今頃何してるかな……デートを楽しんでいるといいな。
きっと、今頃は理香が樹にチョコを渡している頃だろうか。
そんなことを考えていると、菜乃が、バッグの中に手を入れて、何かを探し始めた。
「彩人くん、ハッピーバレンタインです!」
差し出した手の中には、綺麗に袋に詰められたチョコが置いてあった。
「これって、俺にくれるの?」
俺が、状況が理解できずに戸惑っていると、菜乃が笑顔で頷いてきた。
「はい、プレゼントです!もしかして、いりませんか……?」
菜乃は、俺のことを上目遣いで見てきた。
「嬉しいよ、ありがとう!」
チョコを俺がもらうと、菜乃は突然、俺の方を見ずに歩き始めた。
それに追いつこうとしたときに、ふと理香のチョコのことを思い出した。
チョコをもらう約束をしてたけど、本当にくれるわけじゃないよな……?
***
「彩人くん、今日はありがとうございました!それでは、さようならです!」
電車に乗り、お互いの最寄り駅で降りてから数分歩いたところで、菜乃は言ってきた。
どうやら、ここでお別れらしい。
時刻はすでに七時を回っていたので、俺は帰ろうとする菜乃を止める。
「こんな夜遅い時間に、女の子一人が帰ると危ないから、送っていくよ」
「だ、大丈夫です……や、やっぱりお願いできますか?」
俺は、それを了承し、菜乃についていく。
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