6.俺が、恋を諦める理由。
結局、三人で登校し今は昼休みの時間になっていた。
俺が母さんの作った弁当を取り出そうとすると、理香が話しかけてきた。
「ねぇ、彩人!一緒にお昼ご飯食べよ!」
いつもは俺と理香と樹の三人屋上や教室で食べていたが、それを続けるわけにはいかない。
俺は、理香のことは今でも好きだ……
だからこそ、少しずつ距離を置く必要がある。
自分の気持ちを制御するために。
俺は弁当箱を持って立ち上がる。
「ごめん、俺行くところあるんだよね」
「え……、一緒に食べないの?」
理香は、袖を掴んで俺を引き留めようとする。
今まで、弁当のある日は毎日欠かさず三人で食べてきたのだ。不思議に思われても仕方がない。
でもこれは、理香のためにする行動なので止めないでほしいんだけど……
「うん、ごめん……」
樹のいない今のうちに俺は、教室を出てとある部屋に向かった。
***
「失礼しま~す」
俺は、普段誰も立ち入らないとある部屋に入る。
その中には、一人の女の子がサンドイッチを美味しそうに食べていた。
「あ、彩人くん!?どうしたの?」
「いや、食べる場所がないから来たんだけど、一緒に食べてもいいか?」
彼女は、俺の登場に少しの間戸惑い頷いてくれた。
俺は、部屋の端にある椅子を一脚持ってきて、彼女の近くに置く。
彼女の名前は野坂 菜乃。
高校一年生の時に知り合った異性の友達だ。
そんな俺と菜乃がどうやって知り合ったのかというと、俺と菜乃には一つの共通した趣味があるのだ。
「彩人くん!今月発売のおすすめのライトノベルはありますか?」
そう、俺と菜乃はラノベが大好きなのだ。
「そうだな~、あれがおすすめかな」
俺の友人関係の中で、ライトノベルについて熱く語り合えるのは菜乃しかいないので、こういった会話の時間が結構楽しかったりもする。
そんなことを思っていると、菜乃は突然話題を変えてきた。
「そういえば、彩人くんは何で今日理香さんと一緒に食べないんですか?」
「りりり理香!?何で理香の名前を?」
焦ってしまい何度も、「り」を連呼してしまう。
菜乃との会話に理香が出てきたことがないのだ。
どうして突然理香が話題に……
「え?だって、理香さんの事好きなんですよね?」
え?何で菜乃がそのこと知ってるの?
誰にも話したことないのに…
否定すればよかったのに、俺はついうっかり肯定してしまった。
疑問に思ったのだ、何故菜乃がそのことを知っているのかと。
「え、何で菜乃がその事……」
「ふふっ、彩人くんを見ていれば分かりますよ、それに、彩人くんは少し元気がないように見えます」
どうやら、俺の行動に問題があったようだ。
隠そうとしていた気持ちが表に出てしまい、俯いていると菜乃がトントンと肩を叩いてきた。
「私が、お話を聞きます。それで、少しだけ気分は楽になると思いますよ」
「菜乃………」
「でも、それで楽になる保証はできませんけどね、でも聞かせてください、私は彩人くんの友達ですから」
もう、肯定してしまった以上今更否定するわけにもいかない。
なので、正直に話すことにした。
きっと誰かに慰めてほしかったのだと思う。
「そういうことがあったのですか……」
菜乃は、終始、大人しく話を聞いてくれていた。
「まぁでも、理香が樹のことを好きで逆によかったよ」
「それは、どうしてですか……」
樹は、非の打ち所のないハイスペック人間だ。
それに比べて俺は……なにもできない。
樹にも、理香にも全てにおいて敵うところは何一つなかった。だから、俺は気持ちを伝えずに諦めることを決めたのだろう。
あんな、お似合いな二人の邪魔をしてはいけない。
理香の邪魔をせずに、友人キャラとして応援する。
それが理香の為にできることなのだから。
「樹は何でもできるからな。俺みたいな凡人じゃ太刀打ちできない。お似合いなんだよ、あの二人は…」
「お似合いですか……でも私は彩人くんもあの二人に負けない素晴らしい人だと思いますよ」
お世辞だとは思うが、菜乃は真剣な瞳で俺にそう言ってきた。
「いや、俺はどこで競っても負けてるんだよ…」
菜乃は優しい。だから慰めてくれているのだ。
本当に、俺って情けないな……
そんなことを考えながら話すと、菜乃は突然食い気味に言ってきた。
「彩人くんは、か…カッコイイじゃないですか!それに、優しいじゃないですか……」
「ありがとう……でも、優しさなんて、誰でも持てる。意味のないものなんだよ……」
樹を見てて負けたと思ったのは、容姿だけではなかった。
性格でも、負けていると思った。理香が樹のことを好きになる理由が俺にはよく分かってしまうくらい。
樹は、完璧な奴なんだ。
「そんなこと言わないでください!彩人くんが、私に初めて話しかけてくれた日のことを私は、今でも大切に覚えています。私は、知っています。彩人くんの素敵なところをたくさん……だから、だから私は……」
だから……の先は出てこなかった。
そして、コホンッと咳をして、菜乃は、話を戻す。
「本当に、諦めてしまうのですか、樹さんが相手だからって……」
「それもあるけど……」
樹が相手だからあきらめるというのは、合ってはいるが本心はそこじゃない。
理香への気持ちを諦める一番の理由は……
「理香に、樹と幸せになって欲しいんだよ……」
俺の言葉を聞いてか、菜乃は黙ってしまった。
「最後にもう一度だけ聞きます、いいのですか?諦めてしまっても……」
「あぁ、いいんだよ……」
俺は、今までたくさん理香に助けられた。
いじめにあった時も、泣きじゃくっていた自分を慰めてくれていたのは理香だった。
だけど、俺からは何もできなかった。
だから、これは恩返しなのだ。
いつも理香に助けてもらっていた自分にできる。
最初で最後の恩返しなのだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。僕猫です
いつもアドバイスなどをくださる方ありがとうございます。いただいた感想などを見て、改善できるところはするつもりです。
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そして今後も、この作品をよろしくお願いします。
後書き失礼しました。