4.何故、私は怒っているでしょうか!
「え………何でそんな事言うの…」
私は、特に考えず思ったことを聞く。
「今まで沢山もらってきたし、今度は俺が行動で恩返しするよ」
行動で恩返し?
何をしてくれるって言うのかな?
って、そんなことより!
「恩返しなんて、どうでもよくて私は……」
私が言葉を発すると、彩人は突然急ぎ始めた。
「あ、もう十一時回るから寝ようかな、お休み」
彩人は私のお休みを聞かずに通話を終了する。
「彩人……」
私は、スマホをベッドに置いて呆然とする。
未だに彩人の言葉の意味が分からないからだ。
本当は、今日告白するつもりだった。
なのに、いくら待っても彩人は来てくれなかった。
何で先に帰ってしまったかの理由も分からない。
そして、今年からチョコはいらないと言ってきた。
私、避けられてるのかな?
頬を軽く叩いて、頭を振る。
ネガティブに考えるのはやめよう!
明日は、いつも通り彩人を起こしに行くから、その時に何でかをしっかり聞こう!
そのためにも今日は早く寝ないとね……
そして、心の中で私は、彩人に問う。
『私は、彩人の事好きだよ……でも、彩人は私のことどう思ってるのかな?』
両思いだといいな……
なんてね。
***
俺は、目覚ましを鳴らした時間にしっかり起きる。
いつもなら二度寝するけど、今日からは友人キャラとしての任務があるため、二度寝なんてしていられないのだ。
洗面台で顔を洗い、制服に着替えてから、リビングに行くと母さんは珍しいものでも見たかのような目で俺を見てくる。
「おはよう」
「あら、彩人おはよう、理香ちゃんが来る前に起きるなんて珍しいね」
「今日からはちゃんと、規則正しい時間に起きるから安心して」
因みに、もう理香のことは好きじゃない。
訳じゃないけど、それ以上に理香の幸せを願っているため、自分の気持ちは考えないことにした。
友人キャラとして頑張るぞ!と、一人やる気を出していると玄関の扉が開いた音がした。
「おはようございます!」
どうやら、声の主は理香のようだ。
理香は、朝から元気いっぱい!といった感じでリビングにやってくる。
「彩人ママさん、おはようございます!」
「あら、おはよう」
「あ、彩人も起きてるおはよう!」
「おう、おはよう」
理香は挨拶し終えると、リビングの扉を閉めて二階に行く。
何しに行くんだろうと思っていると、ものすごい勢いで一階に降りてきた。
「彩人が起きてる~!何で、どうしちゃったの?風邪でもひいちゃったの?」
俺のことを指さして、俺が起きてることに驚く理香。
そして、急に近づいてきて俺のおでこに理香のおでこをくっつけてきた。
風邪を心配してくれるのは嬉しいが、朝早く起きただけでこの心配されようは流石に悲しいぞ……
俺、そんなに不健康な生活を送っているつもりはないんだけど。
「風邪じゃないから、心配するな」
時刻を見ると、時刻はすでに七時半を回っていた。
走る分には、十分間に合う時間だが、歩いて向かうと考えると遅刻する可能性のある時間帯だ。
「そんなことより、早く学校に行かないと遅れるぞ?」
「あ、うん!早く学校に行こ!」
玄関で、靴を履き、家を出る。
「「いってきま~す!」」
「いってらっしゃ~い」
そして、学校に向かって歩き始めたわけなんだけど。
いつもなら、話題は理香が出してくれるのに、今日は何故かずっと黙っていた。
黙っている理香の方を見ると、理香は突然話しかけてきた。
「彩人!実は私、朝から猛烈に怒っています!さて、何故でしょう」
え、理香怒ってるから急に静かになってたの?
俺なんかしたか?もしかして、昨日強引に通話切ったこと怒ってるのかな?
「昨日、強引に通話を切ったから……」
俺は、正解だと思っていたが、理香は頬を膨らませ首を横に振った。
「ぶっぶ~!」
違うのか?そうなると、全く分からないんだけど。
「分かんないから、正解を教えてくれ」
「正解は、何で、昨日チョコいらないなんて言ったの?でした!」
「あ、あぁ……」
昨日の通話内容を思い出す。
確かに、俺がチョコを要らないといったあたりから、急に静かになって黙っていたのを思い出す。
好きだった相手から、義理チョコをもらうのは正直辛いし、友人キャラになるって決めたから、そこで貰うとまた好きになっちゃうような気がしたから。
だから、断ったのだ。
昨日のことについて思い出していると、理香のテンションが急に暗くなった。
「ねぇ、何で、昨日はあんなこと言ったの?私からのチョコは嫌なの?」
「嫌ってわけじゃないんだけどさ……」
なんてこと言えるはずがないので、何とかして言い訳を考える。
どうしよう……
「理香からチョコもらったってことを誰かに知られたら、絶対に噂されると思って……それに、俺のためにチョコ作るの、面倒だろうなと思って」
俺が、咄嗟に思い付いた言い訳を述べると、理香は俺に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。
「彩人は、私と噂されるの嫌なの?」
その声を聴いた俺は、あらぬ誤解は生まないように否定する。
「嫌じゃないけどさ……」
噂されて困るのは、理香の方なんじゃないのか?
それとも、もう付き合ってるからそんなの関係ないとか?
ていうか、よくよく考えたら、もう既に付き合ってる可能性もあるんだよな……
その場合、友人キャラいらなくね?
「それならさ、私のチョコもらってよ……」
上目遣いで、言ってくる理香。
この言葉はかなりずるいと思う。そんな言われ方されると断れなくなってしまう。
「分かったよ」
「本当?今、言質取ったからね!?」
そういいながら、録音した音声を俺に聞かせてきた。
そこまでして、俺にチョコを渡す理由が思いつかない。
まぁ、なんだかんだ理香からチョコがもらえるのは嬉しいので、素直にもらっておくけど。
「でも、チロルチョコとかでいいからな?」
俺に渡すチョコは、義理だという事が分かっているので
去年みたいに、手作りで作る必要はないことを伝える。
すると、理香は「やだ!」と言ってきた。
「私は、しっかりとしたチョコを彩人に渡したいの!だから期待しててね!最高傑作をあげるから!」
俺が、チョコをもらうと言ってから、急に機嫌を取り戻した理香。
そんな上機嫌な理香は、俺が止まった事に気づかずに、嬉しそうにチョコのレシピについて考え始めた。
ほんっとうに、何で好きでもないやつに、最高傑作をあげるんだよ……
あげる優先順位間違ってんだろ……
そういう意味でも、俺が友人キャラとしてフォローしていかないといけないのか。
俺が一人、立ち止まっていると、数歩先を行ってしまった理香がこちらを向き、手招きをしてきた。
「何してんの?早く行こ!?」
「はぁ」と小さくため息を吐き俺は、理香のもとへ走った。
因みにだけど、俺のために、チョコのレシピを考えているその姿に。
手招きをして、俺を待ってくれているその姿に。
惚れてしまいかけたのは、ここだけの内緒だ。
俺が、理香のことをまた好きになるなんてありえてはいけない話なんだから。
文字数多くてすみません。
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