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30.快晴予報。


「理香ちゃん、頑張って~!」


試合時間も残り僅か。

最後のワンプレーで勝敗が決まってしまう場面。

スリーポイントを決めないと勝てないので、一か八かにかけて私は狙う。


私のシュートは大きな弧を描きそして、リングに入った。

その瞬間、試合の終わりを告げる音が鳴る。


私は、理解ができずに立ち尽くす。


「やったー!理香ちゃんナイス!」


仲間のクラスメートたちが一斉に私のところへと来てくれる。

……わっ、私、勝ったんだ!


「やったー!」


私たちは、ハイタッチをして喜び合う。

周りは、まさかの試合展開に大盛り上がりで、私の声が掻き消されそうになるくらいだった。


そして、喜びを分かち合い、私はすぐに体育館に持ってきた荷物を取りに行く。


やったー!これは彩人に褒めてもらえるぞ~!

もう、試合見てくれてたらよかったのになぁ~


そんなことを考えているだけで私の顔はだんだん人に見せられないくらいのニヤニヤ顔になってしまう。

ま、まだダメ!だらしない女の子って思われたくないもん!


すぐにでも彩人のところへ行きたい私は、急いで体育館履きを脱いで上履きに履き替える。


「よし、早く行こー!」


下駄箱に着いた私は、速攻で靴を履いてグラウンドへ向かう。

彩人は確か、サッカーの試合中だから、多分まだ間に合うはず!


そう思ってグラウンドへ向かったが、どこを見ても彩人はいなかった。

あれ……?試合も終わっちゃってるし、彩人はどこにいるんだろう。


辺りを見回しても、彩人は見当たらない。

グラウンドを少し歩いていると、審判が使うフラッグを持った樹くんにばったり会った。


「ねぇ樹くん、彩人知らない?」


すると樹くんは、少し暗い顔をして言った。


「彩人は、怪我しちゃってさ。保健室にいるよ」


「け、怪我!?」


「うん、そんな重症なわけじゃないんだけどね」


重症じゃないんだ……よかった……!

は、早く保健室に行かないと!


彩人の事が心配になった私は、急いで保健室へと向かう。

下駄箱から保健室へは真っすぐに進めば着くので、少しでも早く着くように走る。


「ここだよね、保健室」


保健室の隣は、私と彩人のクラスなので保健室はここで間違いないはず。

中に彩人がいるのか確認するために、私はこっそりドアの窓から保健室内を見る。


そこには、菜乃ちゃんと彩人が顔をお互い真っ赤にして見つめ合っていた。


え……?

うっ、嘘だよね……そんな訳。


そう願って私は、目を擦ってからもう一度保健室のドア窓から二人を見る。


彩人……もしかして……

私はゆっくりとしゃがむ。


「彩人………」


彩人に好きな人がいるのを私は薄々気づいていた。


あぁ、何で涙が勝手に……


私の耐えようとする意志に反して、涙はぽろぽろと流れていく。


ダメなのかな……私。

もう、彩人の彼女にはなれないのかな……

夢は叶わないのかな。


これまで私は、たくさん努力をしてきた。


上達はあまりないけど、料理だって練習した。

彩人に好きになってもらいたくて、可愛くなろうと思ってオシャレに気を配った。

彩人にこの気持ちを知って欲しくて、たくさんアプローチをした。


でも、それも全部無駄だったのかな。


私は、彩人が菜乃ちゃんとデートする姿を想像する。


その瞬間、やはり胸は締め付けられるように痛くなった。


「彩人ぉ……」


私の涙は止まってくれない。

むしろ、さっきより大粒になっている。


こんな姿を見られるわけにもいかない。

彩人に、心配させちゃうから。


「ぐすっ、彩人……」


もう、ダメなのかもしれない。

彩人のお嫁さんにも、彼女にも、なれないまま……


私が一人、保健室前で泣いていると、不意にドアの開く音がした。


「菜乃、ありがとうね、それじゃあ」


「あっ、彩人……」


泣いていたのをバレたくなくて、私は涙を隠すために何度も袖で目を擦る。

すると、彩人は泣いている私に気付いたようで、慌てた様子で話しかけてきた。


「だ、大丈夫!?何かあったの?」


私は、その言葉に返事はせずに質問をする。

それどころじゃないから。


「えっと……あ、あのさ、彩人ってさ、彼女はいないんだよね……?」


まだ、彩人が付き合っていると決まったわけじゃない。

私は、一縷の望みに賭けて彩人に聞く。


「か、彼女!?う、うん、いないよ」


……えっ、彩人、今なんて言ったの?

彼女はいないって言ったの?


「ほ、本当に!?」


「うん、本当だよ、ここで嘘つかないよ」


私は、その事が嬉しくて安堵のため息を吐く。

で、でも、まだ私は嬉しくなってはいけない。


「そ、それとさ、彩人って今、好きな人いるの?」


私が聞くと、彩人は少し暗そうな顔をしてから、私に言った。


「……い、いないよ」


少しためがあって心配になった私は、再度確認する。


「ほ、本当に、好きな人はいないんだよね!?」


彩人の顔をしっかり見られるように、私は彩人の顔に近づきジッと見つめる。


「う、うん、いないよ」


そう言うと、彩人は私との距離が近いことに照れて、顔を赤くする。


「そっ、そうなんだ……!」


それが、まだ私にも可能性があると何故か思えて、一気に心に降った雨は快晴に変わった。

あ、彩人が私に照れてくれてる……!


これって、まだ私にも可能性はあるってことだよね!


………決めた!私、彩人が自分の口から

『理香以外に好きな人がいる』って言うのを聞くまで、アプローチし続けよう!


今は菜乃ちゃんの方が優勢かもしれないけど、諦めたくないから。


彩人の彼女に……お、お嫁さんになるっていう夢を叶えたいから!


「彩人、心配してくれてありがとう!」


彩人の私への対応はやっぱり、心が温かくなる。

大切に思っていてくれているのだと、感じることができるから。


「ううん、元気になったみたいで何よりだよ」


何で泣いてたかは、聞かないんだね……

多分、それも彩人なりの優しさなのだと思う。


彩人の顔を見ているだけで幸せになる。

やっぱり、彩人は誰にも渡したくないな。


そんなことを考えていると、彩人が私に不思議そうに聞いてきた。


「そういえばさ、何で理香は保健室に来たの?怪我……してそうにも見えないし」


………そ、そうだったー!

それどころじゃなくて忘れてたけど、彩人、怪我してるんだった……


「彩人が怪我したって聞いて急いできたんだよ!」


「あっ、そうだったんだ……来てくれてありがとう」


「そっ、それで、怪我は大丈夫なの?」


「う、うん、ちょっと転倒しちゃって」


恥ずかしそうに笑いながら話す彩人に私は言う。


「彩人はさ、この前私のことを大切って言ってくれたけどさ、それは私もだから!だから、その……えっと、今後は気を付けてね?」


私の言葉を聞いて、彩人は驚いた様子を見せたがすぐに、嬉しそうに返事をしてくれた。


「うん、気を付けるよ」


本当は、もっと違う言葉が言いたかった。

『大切』よりも、もっと分かりやすくて、ずっと前から言いたかった言葉を。


でも、それは今じゃない。

彩人に気付いてもらうために、今以上に頑張ってアプローチして、そうして両想いになれたと思った時にこの言葉を伝えよう。


『彩人……○○だよ!』って。


第一章 完


これで、第一章は終わりとなります。

実は、第一章は一年生編だったので、第二章は二年生編となります。


第二章で物語は終わる予定なので最後までこの物語に付き合ってくださると嬉しいです。


それでは、次回も読んでください!


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― 新着の感想 ―
[一言] 二章待ちです。早めに来てくれたらいいなぁ
[良い点] 心情の書き方が上手過ぎる… これは((((;゜Д゜))))ガクガクブルブルものですわ…凄すぎる [気になる点] 好きな人いるの?って結構直接過ぎる気がするかな?これだともう好きだって言って…
2020/10/25 02:20 退会済み
管理
[一言] もし保健室での彩人と菜乃のやり取りを樹も見てて、通常のライバルキャラだったなら、チャンスとばかりに理香に接近するんでしょうが… 心までイケメンそうな樹の場合だと、逆に理香の為に彩人と菜乃のあ…
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