25.誰でも解ける問題。
国語と物理基礎のテストを終え、今は休み時間。
このあと、十分後くらいに本命である英語のテストが始まる。
「よ、彩人!何してんだ?」
俺が真面目に単語帳を開いて勉強をしていると、後ろから急に背中を叩かれた。
こんな大事な時間に話しかけてくる奴なんて、理香を除いてあと一人しかいない。
「単語の勉強だよ、樹はしなくていいの?」
開いているページを見せて、今回のテストに出る単語がどれだけ難しいか教える。
しかし、樹はそれを見ても一切動じずに時計を見た。
「まぁ、勉強はしたから何とかなるだろ」
一見、樹は楽観的なただのアレな奴にしか見えないが、樹の学力は偏差値とかは知らないが、すべての教科において学年トップクラスの成績を叩き出しているので、きっと本当に勉強したのだろう。
「へぇ、じゃあガンバレ、俺は勉強するから」
「あ、そういえばさ……」
どうやら樹に勉強させてくれる気はないらしく、話題を変えてきた。
仕方ないので、適当に聞き流すことにする。
「理香が急にさっき「どの単語覚えるべきかな!?」って聞いてきたんだけど、アイツってそんなに勉強するやつだったっけ?」
「あぁ、それは俺と英語の点数で罰ゲームを賭けてるから聞いたんじゃない?」
俺が、特に何も考えずに答えると、樹は興味を持ったのか更に聞いてきた。
「へぇ……因みにそれってどんな賭けなの?」
「勝った方が、お互いの言うことなんでも聞くっていうのを賭けてるんだよ」
「彩人は理香に勝ったらなんてお願いするつもりなんだ?」
そう聞かれて俺は、単語帳を閉じる。
確かに、一切考えていなかった。
まぁ、きっと俺の事だから『ジュース一本奢って』とかで終わるのだろう。
「理香に持ち掛けられてそれに乗ったまでだから、特にまだ何も決めてないよ」
実際問題、勝てるかすら分からないので特に賭けの内容について考えていなかった。
そう答えると樹は何故か理香の方をジッと見ていた。
「へぇ~、理香は頑張ってんだな」
確かに、理香は友達のところに行かずに一生懸命単語の勉強をしていた。
「理香も単語頑張ってんだから、樹も残り時間単語の勉強でもしたら?」
一人の時間が欲しくて言ったのだが、樹はそれを聞いて何故か笑った。
「あははっ、そういう意味で言ったんじゃないよ」
てっきり俺は、理香が単語の勉強をしていることについてだと思っていたのだが、どうやら樹は違うことを言っていたらしい。
「ん?それじゃあ、何について?」
不思議に思った俺は、樹に聞くが樹は「う~ん」と答えるのを渋った。
そして、少しの間沈黙が訪れた後、突然樹は、真剣な口調で言ってきた。
「なぁ、彩人、俺はお前の味方でも理香の味方でもない」
また、英語テストの話をしているのだろうか、しかしそれにしては随分と真面目な声のトーンになっていた。
「多分俺は、本当の意味で一生理香と彩人の味方にはならない、いや、なれない」
突然樹は何を言っているのだろうか……
よく、分からない。
だけど、この話がきっと単語テストの話ではない、もっと俺らにとって重要な話だという事は分かった。
「ごめんな、俺は心が狭いから、性格がねじ曲がってるから、だから目の前に誰でも解ける問題があって、その答えを求めている人がいてもそれを俺は、解かないんだよ」
「……………」
黙って俺は、樹を見つめる。
すると、予鈴が鳴りクラスメイト達は自分の席に戻り出した。
樹も同じように自分の席に戻ろうとする。
「ごめんな、彩人……」
何か俺に言ったのは分かったが、何を言ったのかは騒がしいクラスメイトの声に掻き消されてしまって分からなかった。