22.分かりやすい嘘。
休憩時間もあっという間に終わり、勉強会が再開されたのだが……
何故か理香は両手の人差し指同士をツンツンさせたり、俺の肩をトントンと叩き「どうしたの?」と聞くと
「………な、なんでもない…」と言ってきたり、勉強に集中できずにいた。
「あのさ、彩人……」
「ん?何かあったの?」
話したいことがあるけど、中々言い出せないといった感じなのだろうか。
理香はもじもじしていた。
「えっと……その…や、やっぱ何でもない」
そう言って、理香はシャーペンを持とうとするが、目は全く問題を見ておらず手も動いていない。
これでは埒が明かないので、自分から聞くことにする。
「理香、何かあったの?さっきから変だけど?」
「あっ……えっと、その……」
思い当たる節があるらしく、理香は言いずらそうにモジモジする。
そんなに言いにくいことなのだろうか……
「えっ、本当に、何かあったの?」
「何かあったわけじゃないんだけどさ……彩人さ…」
「うん……」
何を言ってくるのだろうか、何故かこっちまで緊張してしまう。
「その……一緒にお昼ご飯食べれるかなぁって…」
えっ…………と。ん?
あれ、予想してたのと違いすぎるんだけど……!?
「お昼ご飯?」
「う、うん、お母さんが!彩人くんも一緒に食べていけばって…!」
「あ、うん、理香のお母さんがそういうならありがたく食べさせてもらうけど……」
「えっ、本当に!?一緒に食べてくれるの?」
えっ、何でそんな驚かれるの?
断ると思われていたのだろうか。
「うん……理香のお母さんと理香が迷惑じゃなければ……」
俺がそういうと、理香は首を思いっきり横に振って俺の顔に近づいてきた。
「全然迷惑じゃないよ!むしろ嬉しいもん……!」
「あ、うん、ありがとう……」
理香の顔が至近距離にあるせいで、変な声になってしまった。
俺が一緒に昼ご飯を食べることが決定したからなのか、安堵に近いため息を吐き安心した様子の理香。
「……………」
俺が黙ってそんな理香を見ていると、突然お腹を抱え始めた。
「お、お腹が痛いよぉ~!す、少し部屋から離れるね!彩人は勉強してていいから!結構時間かかるかもだけど気にしないでね!それじゃ!」
理香は、お腹を抱えてながらゆっくりと部屋のドアを閉めて、部屋を出る。
あっという間に消えた理香に対して、俺は一人思うのであった。
……あれ、絶対嘘だよな。
棒読みで言ってたし、何より一番の根拠は……
俺は、理香が出て行ったドアを見つめる。
すると、『ドタバタ』と廊下の階段をすごい勢いで駆け下りる音がした。
「やったーーーーお母さん!彩人も一緒に食べるって!!」
腹痛で苦しんでるやつがこんな元気なわけがない!
目なんて泳ぎまくってたし。しかも声がこっちまで聞こえちゃってるし。
嘘つくの下手すぎるだろ……
まぁでも、理香が喜んでくれてるなら全然いいんだけど。
理香がそんなに喜んでくれるとは思っていなかったので、内心嬉しかったのは気のせいだと思おう。
***
「ねぇねぇ、お母さん!彩人が一緒に食べるって!!」
私は、嬉しすぎて『ドタバタ』と階段をもの凄い勢いで駆け下りる。
何年振りだろう!これは、腕によりをかけて作らないと!
実は、今回のお昼ご飯は私が作るのだ!
彩人には、チョコレートの件もあって断られるかもって考えちゃって言えなかったけど……
前回は朝ご飯だったからそこまで作れなかったけど、今回は気にせずに作れるし、頑張らないと!
彩人がさっき、結婚の約束は関係ないって言ってたけど……
彩人に作る料理で彩人の心を惹くことができたら、好きになってもらえるかもしれないからね!
「お母さん、キッチン使うね!」
「いいわよ~私は……そうね、洗濯物でも回そうかしら……」
お母さんが洗濯物を回しにリビングを出て、一人きりになった私は冷蔵庫の中を確認する。
お母さんには、事前に言っておいたのと、彩人を今日絶対に呼ぶつもりでいたのもあり、冷蔵庫の中は食材が豊富にある。
彩人の好きなものを作ったら、彩人の心をきっと掴めるよね!
そうだ!今回は、私が彩人と結婚したら一番最初に作るつもりだったのを作ろうかな!
彩人の好きな人が菜乃ちゃんの可能性もあるけど、でも。
負けたくないから。
何年も抱え続けたこの気持ちを諦めたくないから。
彩人に私の事を好きになって欲しいから。
読んでいただきありがとうございました!また次の話も読んでくださると嬉しいです!