2.俺、友人キャラになろうかな。
朝、理香と一緒に登校してから時間はあっという間に流れ、いつの間にか昼休みになっていた。
俺は、告白台詞を今一度変えるか変えないか考えながら、腕を枕にして寝ようとする。
「よ、彩人、昼休み寝るのはもったいないぞ!」
名指しで挨拶されたので仕方なく顔を上げると、目の前にはイケメンがいた。
「ん?あぁ、なんだ樹か……」
俺に話しかけてきたイケメンの名前は美島 樹。
樹は頭脳明晰で、顔立ちもよくて、その上コミュ力モンスターで学年の大半の人となら仲良く話すことができる。そして当然、樹の人気は凄いもので、学校内で一番女子からの告白をされた回数が多いとどこかで聞いたことがあるほどだ。
因みに、何でそんなハイスペック人間と俺が知り合いなのかというと、中学が同じだからだ。
「どうしたんだ樹、何かあったのか?」
無理やり笑顔にしようとしてる表情で俺のことを見てくる樹に問う。
「ん?いや、特に何もないけど……」
まぁきっと、また樹のお姉さん絡みの話なのだろうと思い、俺はこれ以上話を深堀りしないことにした。
お互い黙っていると、樹は俺の肩を叩いてきた。
「まぁいいや、おやすみ」
いつもの樹らしくないけど、何かあったのだろうか……
まぁ、今はそんな事より告白だ。
ふと、理香の方を見る。
理香とほかの女子たちは、うるさくならない程度に笑いあっていた。
そんな理香を見て、俺は心の中で呟く。
告白、成功するといいな……
***
思っていた以上に、時が進むのは早く、時刻は四時三十分。
つまり、あっという間に放課後がやってきたのだ。
俺はというと、誰もいないトイレに直行し告白した時の予行練習を一人で延々としていた。
「理香、ずっと前から好きでした、俺と付き合ってください」
そしてその都度想像する、理香が俺の告白を受け取った時の反応を。
今の時代、メールで告白すれば、こんなに緊張せずに済むのだろう。
でも、何年も抱えていたこの好きという感情を言葉にするのは、やっぱり直接がよかった。
「よし、約束の時間まであと……ってまだ三十分もあるじゃん……」
流石にあと三十分近く、トイレにいたくないので、約束の時間より早いけど、教室に向かおうかな。
俺は、周りに生徒がいないことは知っていながらも一応、水を流しトイレから出る。
「ふぅ……」
ゆっくりと息を吐き、緊張を和らげる。
告白するときのシチュエーションについて考えていたら、あっという間に集合場所の教室に着いていた。
「……………のことが……」
すると、誰もいないはずの教室から声が聞こえたので、俺は窓付きのドアからこっそりと誰がいるのか見てみる。
教室には、理香と樹がいた。
二人で何をしているのだろうか。少し疑問に思ったが、何やら邪魔をしてはいけない雰囲気があったので、ドアで見えないような位置に座り、二人の会話を聞くことにした。
「ず、ずっと前から好きでした!私と付き合ってください!」
「理香が俺のことを好き……」
その光景を見ることはできないので、どうなっているかは分からないが、どうやら、理香が樹に告白しているようだ。
………って、理香が、樹に告白?ま、まさかそんなわけ……
信じたくない俺は、向こうの会話を静かに聞く。
「うん」
「えっと……その、う、嬉しいよ」
「それで、告白の方はどうなのかな?ダメ……かな?」
俺は気づかれないようにその答えを聞かず、教室から離れる。
何もかもが、跡形もなく崩れた気がした。
特に何も考えずに、靴を履き替えて建物の外に出る。
「はぁ……寒いな……」
手を口に近づけて息を吐き、手を温める。
「はぁ…」と息を吐くと、息は白くなってどこかに消えた。
そして、その時やっと、自分がどういう状況にいるのかを理解できた。
「理香……好きな人いたんだ……」
三十回近くの告白を断っていたので、なんとなく好きな人がいることは分かっていた。
だからこそ、その相手が俺だといいなって少しだけ思っていた。
「なんで、俺じゃなくて樹なんだよ」
でも、俺じゃなかった。当たり前だ。そんなことは分かってるのに……
よくよく考えてみれば、樹と理香ってお似合いなんだよな。
二人そろってハイスペックだし、俺じゃ太刀打ちできないし。
理香の好きな人は樹なのか……
それが分かった瞬間、俺は、涙を堪えて決意する。
まず、この気持ちは、心の奥底に閉じ込めておこう。
どうやら、この物語の主人公は樹であり、彼女は、理香のようだ。
そして、俺は、物語によくある幼馴染どまりの役のようだ。
でもこれだけは知ってほしい。それは、俺にとってのヒロインも、理香であることに変わりはない。
という事だ。
そして、主人公ではないことが分かり、好きの気持ちを隠すことに決めた俺にできる事。それは……
理香と樹の友人キャラとして、理香の恋を応援することだ。
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