17.友人キャラとして 【6】
ふと、目が覚めた俺は、ゆっくりと目を開ける。
ベッドには、うつ伏せの状態で寝ている理香がいた。
今の時刻を確認しようと思った時、机の上に置いてある、水と熱さまシートの存在に気が付いた。
どうやら理香は、俺のために用意してくれていたみたいだ。
「理香、今日は、本当にありがとうな」
そう呟いてから、俺は起きないようにゆっくり理香の髪を触る。
サラサラな髪を触っていると、近くに置いてある手紙の存在に気が付いた。
そこには、幼い時に俺が書いた字で、こう書かれていた。
『ぼくは、おとなになったらりかちゃんとけっこんします あめみや あやと』
これは、俺が理香に頼まれて書いた婚姻届けのようなものだ。
「理香………まだ持っていたのか」
俺は、この存在を今でも覚えていた。
当時は互いに幼かったので、当然今はもう、そんな約束は無効になってしまっているが、小さい時の俺は、この結婚を誓い合えて、めちゃくちゃ喜んでいた。
『やったー!あやとくん、ぜったいにわたしたちけっこんしようね!
『うん!!わかったよ!』
『ぜったいにわすれないでね!?やくそくだよ!』
なんて言っていたのを思い出す。
「何で、理香はこれを持ってきたのだろうか……」
勉強の休憩時間に、思い出話に花を咲かそうとしていたのだろうか。
でも、理香は気づいてないんだろうな……
俺が、未だに理香のことが好きだって……
理香にとっては、いい迷惑だよな……
勝手に好きになられて、子供の時のくだらない約束事が、今でも叶うように密かに願っている俺なんて。
本当に、ごめんな、理香。
机の上に置いてある水と熱さまシートはきっと、理香が俺のことを気遣って持ってきてくれたのだろう。
小さなことにも気を配れる理香には、俺なんて釣り合っていないのは分かっている。
分かっているのに、どこかで未だに期待しているのだ。両想いだってことを。
さっきだって夢の中で俺は、理香と会っていた。
その時の俺は、さっきと同じく、仰向けになって寝ていたのだ。そんな俺に理香は………
『好きでいてもいいよね!?』と言ったのだ。
まさかの言葉に俺は一瞬戸惑ったが、そんな喜びは、本当に一瞬だった。
すぐに、気づいてしまった。これは、夢の中なのだと。
せめて、夢の中では、理香に好きと言ってもらいたかったと心の奥底で願い、それがこんな形で叶ったのだろう。
そんな自分が本当に悲しくなった。
理香の幸せをどうこう言っておいて、諦めると誓ったのに……
願ってしまっていたのだ。理香が俺のことを好きだなんて言うことを。
友人キャラになんて、全然なりきれていない自分が、本当に嫌になった。
でも、そんな俺に対して夢の中の理香は、現実の理香と同じくらい優しかった。
そっと、俺のおでこにキスをしたのだ。
幼い時は、キスの意味をよく理解しておらず、頬にしてもらったりしていたが、久しぶりにしてもらったキスは、泣きそうになるくらい、嬉しかったのだ。
夢の中だとは分かっていた。
分かっていたからこそ、嬉しかったのだ。
この夢だけは終わらないで欲しい。
永遠に続いて欲しい。
どうかせめて夢の中では、両想いでいさせてくれと願ってしまった。
そんな自己中心的な願いをする俺に、理香は、そっと静かに呟いたのだ。
『彩人は!私の事だけ見てればいいんだからねっ!』と。
その言葉を聞いて俺は、何故か意識が遠のき始めた。
夢の中なのに何故、意識が遠のくのかと思ったし、こんな幸せな夢を終わりにしたくないと思ったが、その幸せな夢はそこで終わってしまった。
「理香、俺のために色々してくれてありがとうな」
お粥を作ってきてくれたり、熱さまシートを探してきてくれたり、今日一日看病してくれたことに感謝をしたわけじゃない。この感謝の言葉は、今までの出来事に対しての言葉だ。
そして、次に俺は、理香が眠っているのをいいことに、秘めていた思いを言葉にする。
「理香、ずっと前から好きでした。俺と、付き合ってください……なんて、何言ってんだろうな、俺……」
俺は、告白をしたのだ。眠っている理香に。
勿論、その返事が返ってくるはずがない。実は起きていて……なんて言うラブコメによくある展開もあり得ない。
いや、ありえてほしくないんだ。
断られるのが怖いんだ。俺と理香の、今まで築き上げてきた関係が一気に壊れるようで。
嫌なんだ、理香が離れていくのが……
相手は気づいていないけど、告白したという事実があるだけで、心は少しだけ軽くなった。
そして、今なら諦められそうな気がした。
終わらせることができそうな気がした。
この、何年も抱え続けた、初恋の気持ちを。
我ながら最低な方法で諦めることにはなるけれど、今なら、友人キャラとして、理香の恋を応援できる気がした。
だから、理香、初恋を終わらせるから、諦めるから、だから……
せめて後少し、この関係を続けさせてくれ。
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