14.友人キャラとして 【3】
理香は、お粥の入ったスプーンを何度も俺に『あ~ん』してくれる。
申し訳ないので断りたいのだが、なぜか理香は笑顔で毎回してくれるので、断りにくくなってしまっている。
とは言いながらも『あ~ん』してもらえていること自体は、嬉しかったりする。
心の中では、ああだこうだ言いながらも、本心では、幸せで堪らなかった。
でも、理香の俺に対する気持ちを俺は知っている。
だから、決してこの気持ちに気付こうとはしない。
理香はきっと、餌付けしている気分なのだろう。
これは決して、手作りご飯を食べてもらえて嬉しいから笑顔なわけではない。
そう自分に言い聞かせる。
そんなことをしていると、お粥は最後の一口になっていた。
「よく全部食べられたね!そんなに私のお粥が美味しかった!?」
空の器を見て、嬉しそうに聞いてくる理香。
「うん、毎日食べても飽きないくらい美味しいよ、作ってくれてありがとう、理香」
毎日は大袈裟だが、とても美味しかったし、余りがあれば、まだ食べれそうなくらいだ。
お粥を作ってくれた理香に、感謝の言葉を伝え忘れていたので、今更だが、伝えておく。
すると理香は、嬉しそうにしながら、頬を少し赤らめた。
「あ、彩人が頼めば、わ、私はいつだって作るよ!」
理香の言った言葉を俺は、心の中で反芻する。
理香は無意識でそういうことを言っているのだろうか。
理香の言っている意味だとまるで……
「それって、お嫁さんみたいだね」
『お嫁さん』という言葉に少しだけ、胸が締め付けられた気がするが、俺は気づかなかったふりをして言った。
ありえないと分かっているので、言えた発言なのだが理香はそれを真に受けたのか、恥ずかしがっている。
「お、おおおお嫁さん!?」
顔を真っ赤にしながら理香は、『お嫁さん』を連呼する。
「まぁ、私があ、彩人のおおおお嫁さんに!?な、なる可能性も…………」
「とは言いながらも、俺と理香がそんな関係になるわけないけどね……あははっ」
乾いた笑いだけど、一応否定しておく。
俺に理香への気持ちがないと知っていれば、理香は俺のことなど気にせずに、樹との恋に専念できると思うから。
自分で発言したことは分かっているが、それでも胸は締め付けられている気がした。
俺の言葉を聞いたからか、理香は黙って俯いてしまった。
「私と彩人って、ありえないんだ……」
何故、そんな悲しそうに言うのかは分からないが、俺は思った言葉をそのまま伝えようとする。
「うん、だって……」
『……理香には、好きな人がいるだろ?』
言おうとしていた言葉は、何故か喉に詰まり言えなかった。
あれ、何で言えないんだろ。分かっていることだし、もう、諦めるって決めたはずなのに……
何でこんなに胸が痛いんだろう……
少し考えたら、答えはすぐに分かった。
あぁ、そうか、まだ俺は諦めきれていないのか……。
理香が樹のことを好きって、本当は認めたくないんだ……。
ここで、俺が言ってそれを理香が認めたら、本当に俺は諦めることになる。
俺は、どこかで未だに期待しているんだ……
もしかしたら、理香は樹のことが好きじゃないって……
あの告白は、嘘だって……嘘なはずないのに……
本当に、俺はどうしようもないな……
現実を受け止め切れていない俺は、伝える言葉を変える。
「俺と、理香は、幼馴染なんだから…」
理香は、何故か、ビクッと肩を震わせた。
てきとうに思い付いたのが、これだった。
そして理香は、俺の言葉を聞いてか、俯きながら立ち上がった。
「彩人ごめんね、もう今日は帰るね……」
バッグを背負い理香は、すぐに俺の部屋を出た。
何故理香が帰ったのか分からずに戸惑い、俺は一人深く考えていた。
けれど結局何も分からずに、頭を掻いていると、外で「ドーーーン」と大きな音が鳴った。
ふと窓の外を見ると、外はこの季節には珍しい雷雨だった。
理香に『あ~ん』してもらっていたあの幸せな時にも既に、降っていたのだろうか……
雷が近くで落ちたのを見てから、俺はすぐに理香のことを考え始めた。
「理香、まさか、この雨の中本気で帰ろうとはしてないよな?」
ありえないとは思いつつも、考えていると玄関のドアが開く音がした。
その瞬間、体は無意識に起き上がり、部屋から出ていた。
「何、危ないことしようとしてんだよ理香……!」
風邪を引いているのも忘れて俺は、急いで玄関に向かった。
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