10.菜乃の連絡先。
七時だというのに、あたりはすでに暗くなっていた。
鞄の中に入れていたマフラーを取り出して、俺は、寒そうにしている菜乃に手渡す。
「彩人くん……?どうしたの?」
俺の渡したマフラーを手に持ちながら、菜乃はジッと俺のことを見てくる。
「もしかして、これを私に?」
「そうだよ、さっきから寒そうにしてたから。もしかして、いらない?」
よくよく今日の菜乃の服装を見てみると、スカートを履いているが、結構防寒対策してきているようで、マフラーはいらなかったかもしれない。
熱いと感じるくらいなら、俺が使いたいので、『いらないか』聞くと、菜乃はギュッと俺のマフラーを抱きしめた。
「ありがとうございます!使わせていただきますね!」
菜乃は嬉しそうに、首周りにマフラーを回し、口元をマフラーで隠した。
きっと、かなり寒かったのだろう。俺より厚着だけど…
暖かさそうにしてる菜乃を見ていると、急に話しかけてきた。
「あの、彩人くんは、チョコの種類で苦手とかありますか?」
「いや、特にないよ」
貰えただけでも嬉しいのに、好き嫌い言うはずがない。
菜乃は、俺にチョコに関して苦手なものはないと知れたからか、安堵に近いため息を吐いた。
「はぁ、よかったです。結構美味しくできたガトーショコラなので」
菜乃が作った、チョコは結構楽しみなので、帰ったらすぐに食べようと思う。
というか、チョコでずっと疑問に思っていたことがあったんだ……
「そういえば、何で今日偶然チョコを持ってたんだ?」
そう。今日は、菜乃と会う約束はしていなかったし、偶然会っただけなのに、なぜか、チョコを持っていた。
もしかしたら、俺以外の誰かにあげるつもりだったけど……というパターンではないだろうか。
それなら、菜乃の気持ちだけ受け取って、チョコは返さないといけない。
そう考えていると、菜乃は、恥ずかしそうに、手をもじもじさせながら、話し始めた。
「えっと、今日って映画の公開日初日ですよね……」
それは、今日菜乃と一緒に見た映画のことについて言っているのだろうか。
それなら、確かに今日が初日公開日だけど。
「あぁ、そうだけど」
「なので、もしかしたら、来るかもと思いまして……」
俺が来ることを予測して、菜乃はチョコを持ってきていたらしい。
「え、それじゃあ、もし俺がいなかったら、そのチョコはどうするつもりだったんだ?」
「捨てるか、自分で食べていたと思います。でも、彩人くんに渡せてよかったです!」
菜乃は、嬉しそうに俺のことを見てきた。
菜乃のチョコは食べてみたいと少しだけ思っていたので、今日、理香のデートのために行ってよかったなと初めて思えた。
そう考えると、友人キャラって意外と強キャラ?
まぁ、どんだけ、強キャラでも、理香の好きな人が俺以外なことに変わりはないけど。
「本当に、ありがとう、そうだ、今度お礼させてよ」
俺が、チョコをくれた恩返しにお礼をすると提案すると、菜乃は、勢いよく首を横に振った。
「だ、大丈夫ですよ!それが目的だったわけじゃないですし……」
ん?その言い方だとまるで、何かの目的があったみたいなに受け取れるんだけど。
「目的って、何か目的があってチョコをくれたのか?」
「うぅ……あ、彩人くんは、そんなことは気にせずに、食べてくれればいいんですよ!」
何らかの目的があって、チョコをくれたことは明らかだが。
くれたことに変わりはないし、理由は何であれ、俺は嬉しかったので、それ以上の追求はやめておく。
「うん、美味しく食べるつもりだけど、それでも、何かお礼がしたいんだよ」
「そ、それじゃあ、連絡先交換したいです……」
何かを奢るつもりでいたので、まさかのお礼に驚いてしまった。
確かに、会えば話す関係なのに、お互い連絡先持ってなかったな。
「そんなので、いいのか?もっと他のでもいいんだぞ?」
金額に限りは勿論あるが、それでも、菜乃からもらったチョコのお礼と考えると、多少高くても、プレゼントするつもりでいた。
「うん、前から交換したいって思ってたから……」
赤くなる顔を、マフラーで隠しながら、菜乃は言ってきた。
その可愛らしい姿に、一瞬ドキッとしてしまうくらい。今の菜乃は、いつも以上に可愛らしかった。
菜乃は、スマホをポケットから取り出して、QRコードを見せてくる。
それを読み取り、俺と菜乃は連絡先を交換した。
「ふふっ、これから、たくさん話そうね!?」
菜乃は、嬉しそうに、友達登録を完了した画面を見ていた。
これで、学校以外でも、ラノベの話ができるのかと思うと、俺も嬉しくなった。
交換して正解だったかもしれない。
「あぁ、いいよ」
「彩人くん!約束だよ!?」
「うん、分かってるよ」
そんな話をしていると、菜乃の家に着いたらしく。
菜乃は、マフラーを俺に返してから、外の扉を開けて、家の中に入ろうとする。
「今日はありがとうね、彩人くん!おやすみ!」
「あぁ、おやすみ」
菜乃が、扉を閉まるまで俺は、菜乃に手を振る。
菜乃が家の中に入ったのを確認し、俺も帰路に着こうと思い、歩き出そうとしたら、突然雪が降り始めた。
「はぁ、雪か……」
降り積もったら面倒だな。明日も学校は休みだけど。
「バレンタインの日に、雪が降って……」
俺が溜息を吐くと、その息は白くなった。
告白するには、最高のシチュエーションだと思う。今、理香が何をしているのか分からないが、この綺麗な雪を、理香は見ているのだろうか……
「はぁ、理香の好きな相手が俺だったらよかったのにな……」
俺は、叶わない願いを、そっと呟いた。
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