こっちを向いてよ!
二人「どうもー」
ボケ「なんでやねん!」
ボケ、ツッコミの頭を叩く。
ツッコミ「ボケた形跡が微塵もない」
ボケ「ええっ、ツッコミに憧れてるのに」
ツッコミ「どう見ても適性がない」
ボケ「そんな事ないよ、なんでやねんと言えば大抵のボケにツッコめるとお父さんから教えられたし」
ツッコミ「お父さん、お笑いに対してちり紙よりも役に立たないな」
ボケ「相談なんだけど、若手の漫才の基本って恋愛ネタ多いよな」
ツッコミ「まあ、顔が平凡以下でもモテたい人多いから、やってる人多いのは確かだけど」
ボケ「だから基礎練で、ツッコミの練習したいんだ! ツッコミの方が売れた時、司会者としてやっていけるだろ」
ツッコミ「例外もままあるけどな……両方使えた方がこっちとしてもありがたいか。まずはナンパネタな」
ボケ「恩に着るよ」
ツッコミ「ねえねえそこの君、一緒にナンパしない?」
ボケ「良いのかいお姉さん、襲っちゃうぞ」
ツッコミ「ボケを重ねてどうするんだ」
ボケ「えっ、逆ナンかと思って」
ツッコミ「なぜ特殊なシチュやるんだ、ここはなんで女性をナンパ仲間にするんだっていうボケだろ」
ボケ「そうなの!」
ツッコミ「思考が飛び過ぎ、次はちゃんとツッコめよ──お姉さん、その日焼け肌にサングラスが似合ってるよ」
ボケ「ありがと、でもこれサングラスじゃなくて、生キュウリなんだ」
ツッコミ「リアルキュウリをメガネにする女子が、日本にどれだけいる? 俺の目腐ってないからな」
ボケ「もう、ツッコミの練習させてくれよ」
ボケ、すねる。
ツッコミ「これは俺が悪い訳じゃ無いはずだが──ねえねえ今からお茶でもしない?」
ボケ「ええっ、困ります! カフェインはお腹の子に……」
ボケ、お腹をさすりながら。
ツッコミ「そんな口説いてトラブルしか来ない妊婦さんは口説かないから。大抵の確率で旦那さんにフルボッコだから」
ボケ「断り方とか良いかなって」
ツッコミ、呆れながら次の提案。
ツッコミ「漫才なんだから、断る方法教えるとかじゃないから。もう、次は合コンネタにしよう」
ボケ「どうも、ガオ・イーフェイです、隣の子はメアリー、反対の子はアレクサンドラよ」
ツッコミ「誰だよ幹事、国際色豊か過ぎ。会話成立するのか?」
ボケ「大丈夫、全人類は皆兄弟って言うじゃない?」
ツッコミ「確実に用法と用途を間違えてる」
ツッコミの指摘を無視して、ボケがネタを続ける。
ボケ「わたしは料理が得意なの」
ツッコミ「へえ、イーフェイさんはどんな料理が得意なの?」
ボケ「里芋の煮っころがしと、カレーよ」
ツッコミ「中国のフリした日本人?」
ボケ「だって、生まれも育ちも東京浅草よ」
ツッコミ「純度100パーセントのジャパニーズ」
ボケ「ちょっと、さっきからそっちがツッコんでばっかだよ、ツッコミをさせてよ」
ツッコミ「いや、ボケを先取りされて、ツッコミしか入れられない」
ボケ「なんだよ、ぼくにはツッコミが出来ないとか言うのか?」
ツッコミ「いや、そば粉アレルギーなのに、そば打ち職人になろうとしている息子を見ている気分だ」
ツッコミ、黄昏る。
ボケ「そんな、ぼくたち同じ年じゃないか」
ツッコミ「なんでそんなにボケを被せるんだ、ツッコミを入れるチャンスだっただろう」
ボケ「そんな、今のはツッコミだろ?」
ツッコミ「ツッコミにしては、ピントがズレ過ぎているのを何故分からない?」
ボケ「分からないよ、だってボケが何なのかも分からないんだから!」
ツッコミ「よく今まで漫才やってられたな、逆にボケのセンスが際立つ」
ボケ「じゃあ逆に聞くけど、どうしてきみはお笑い始めたの?」
ツッコミ「介護が必要な祖父母の世話に家族が疲れてるから、全力で笑いを取ったら、家族に勧められたから」
ボケ「意外と普通だね」
ツッコミ「これを普通と切り捨てるお前はどうなんだ?」
ボケ「お父さん借金取りにボコボコにされそうだったから、色々と面白そうな話をしたら、笑って見逃してくれたから、それを繰り返してるうちに」
ツッコミ「壮絶過ぎる、お前、常識が麻痺してるんじゃないか?」
ボケ「常識なんか、10年あれば非常識に変わるんだよ」
ツッコミ「お前が言うと、闇な方向で深くなるな」
ボケ「そう言えば、今客席の奥にあるの、借金取りにボコボコにされた、お笑いの師匠でもあるお父さんだからね」
ツッコミ「……絶対に売れて、借金返そうな」
ボケ「そうだね、お父さんに競馬楽しませたいから」
ツッコミ「まず、整形外科と依存症治療の先生に診てもらおうか……」
オチの言葉を言いながら、ゆっくりとお辞儀をして終了。