第9話:影の抜刀術師
「さあ、始めようか。憤怒。俺たちの楽しい殺し合いを」
俺の中でずっと抱いてきた負の感情。
あの時見た幻覚のそれに近い姿を模った俺は、改めて理解する。
自身の本来の力、『大罪の贄』について。
極東にきてから見たステータスの異常さ、それは既に人間の領域から外れていた。
どれも能力が四桁、今まで神の加護のおかげだと思い込んでいたが全くの見当違いだ。
これは、俺が大罪を背負うに相応しい器だと認められた上で必要な能力値。
神々の罪を背負うのには神に近づかなければならない。
だからこそ、いまは。
蛇毒ノ流水にすべてを任せる。
「ハイル、あんたまさか!?」
「クククッ、アハハハハハハハハハッ!! 何を驚いている憤怒! 試すんだろ? この暴食をよぉ!」
俺の体は一瞬消えたかと思うと憤怒の後ろに移動し横から大鎌を振る。
憤怒は咄嗟に避けるが想像以上に速く感じたのか腕に傷がつく。
俺の体はその一瞬を逃さなかった。
大鎌を振った勢いで投げ飛ばし、腰に挿しておいた『蒼穹龍ノ風刃剣』に手をかける。
確実に憤怒を殺すために体は動いていた。
『やらせませんよ。偽りの使用者。』
突然心に響く声。
それはバハムーティアのものだった。
『蒼穹龍ノ風刃剣』は抜くことが叶わず、驚異的な重さによって体ごと地面に叩きつけられた。
その時、頭を打ったせいか俺の中から異質な魔力が抜ける感覚を感じる。
大鎌は地面に刺さる所で『蛇毒ノ流水』に変わり地に刺さった。
「暴食が止まった……? と、とりあえず脅威は去ったわね……」
「体の自由が利く……よかった……」
二人して脱力する。
母さんも俺も相当魔力を使ったはずだ。
「母さん、さっきのは結局……?」
「……それも含めてギルドで話しましょう。ハイル、いえ、『予言の六等星』」
続
次話は来週金曜日に更新を行います。
次回はとある伏線を回収する回です。是非読んでください。
ここまでの読了ありがとうございました!




