第8話:憤怒と暴食
門の前に立つ俺はその様子を見て焦りを感じた。
外側からこちらの様子を伺っている角と翼を生やした人と似て非なる存在。
そして、俺は知っている。
あの長い赤い髪、右肩の傷、それは俺のよく知っている人の特徴だった。
ただ、そこに存在していることはありえないはずの存在だった。
「母さん……?」
「まさか、ハイルなの!?」
「なんでここに、いやなんで生きてるの?」
「……色々あったのよ。でも、まさかあなたが……ヴェルズビュートの資格者だったなんてね……」
そう、目の前にいたのは母さんだった。
数年前、パーティーの冒険者に殺されて俺の目の前から消えた。
……何故。
「何故今更ここに?」
「……神を殺すためよ」
母さんは静かに言った。
つまり、母さんはこの世界の真実を知っているということだ。
それが母さんが魔族になっている理由にはならないが、それは些細な問題だ。
俺の中から今までにないものが出てくる。
それは、悲しみで、憎悪で、喜びで、嫌悪で。
感情が、存在が喰われるような。
あぁ、これが。
「『大いなる大地よ。世界の深淵に眠りし冥府よ。空高くに存在する天よ。私の罪と懺悔を聞き入れてください。大いなる蛇の化身宿りし暴食を今ここに。大罪・暴食』」
なぜか口から自然に漏れた祝詞。
言い終えた瞬間に俺の周りを深い闇が覆う。
闇が晴れた時、俺の姿は今までとは異なっていた。
黒い装束に紫色に光る鎌、髪の毛には一部紫色が混ざっていた。
「さあ、始めようか。憤怒。俺たちの楽しい殺し合いを」
続
次回も来週の更新となります。
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