第5話:勇者という名のシステム
「ついに君も解放されたんだね。虚構に包まれた世界から」
ティールの表情は今までのような笑顔はなく、その瞳は真剣な眼差しだった。
まるで今までの笑顔が嘘だったかのように。
「虚構に包まれた世界って……」
「セクターさんに会ったんだろ? なら話は早いよ」
テーブルに置いてあった冷め切った紅茶をティールは飲み干すと、ウエイトレスに追加の紅茶を注文し話を続けた。
「僕が世界の虚構を知ったのは勇者になってすぐの頃だったよ。世界の仕組みや偽りの神の存在、それを知った時には……ある意味で絶望を感じたよ」
「絶望……か。それもそうだな、世界が偽りなんて誰も理解できない」
「ほかにも色々知ったよ。勇者と魔王の悪魔のシステムとかね」
「シス……テム?」
システムとは聞きなれない言葉だが、アージア神聖国の新しい国だろうか?
「この世界では聞きなれない言葉だと思うよ。僕も漠然としか分からないけどね。ただ、この勇者や魔王が定期的に表れるのは偽りの神による力が大きいっていうは確かなんだ」
「偽りの神……。てことはこの世界を支配してるのも?」
「そう、偽りの神。創星記の中に出てくる偽神エニグマがこの世界を支配してる。いや、実質的には支配させてもらってるていうのが正しいんだと思う」
なんといえばいいのだろうか。
俺はこの世界の真実を知りたかったのだ。
偽りの神など知ったこっちゃないんだ。
……いや、そもそも前提がおかしいのだ。
俺が知るべきは不条理に染まった世界の真実を知ること。
話が壮大過ぎて自身の目的を失うとは。
俺が未だに未熟なことがわかる。
その後も話の半分は理解をすることができなかったが、要約すればこの世界の支配を一時的に偽神の支配の下に置き、世界を支配するほどの力があるかどうかを図っている状態だがそろそろ潮時という時に最後の悪あがきで世界に悪をはびこらせたということだ。
互いに飲み物を飲み終え、ティールの言っていたことを踏まえて改めて資料室を調べつくそうと思った。
――――
その頃、領主の家では
「……結局、あなたはハイルのなんなの?」
「心が死にかけてた彼を救った彼の仲間よ」
調理室では料理をしながら互いの腹の探り合いをしていた。
互いにハイルに対する好意を感じたのか、出会いが最悪だったからか、又はその両方だからなのか。
彼女たちにとってハイルは全てであり、ハイルのいない世界は彼女たちにとって等しく死と同じなのかもしれない。
私たちでは彼女たちを止めることができない。
否、世界のだれでも彼女たちを止めることはできない。
あの抜刀術師君以外には。
「ねぇ、サヨが倒れたんだけど! まじでどうすんのミーシャ!」
「えぇ!? あの天災級のアースドラグニルの威嚇ですら嬉々として向かっていったのに!?」
私、『術星』のミーシャと焦る『銃星』のネア、倒れる『拳闘星』のサヨ。
果たして私たちに救いはあるのか?
……ハイル君早く帰ってきて……。
「「私のハイル君の名前を呼ばないで!」」
早くこの地獄から助けてください……。
次回は4/19までに更新します。
数分ですが遅くなってしまい申し訳ありません。




