第4話:幻覚と虚構
言いかけた言葉には何も残らず、掛けた言葉には後悔が残る。
人が間違いを犯したとき、やり直すことができても。
人で無くなればやり直すことに意味をなさなくなる。
――――
俺とティールはギルドに戻った。というのも、元々は創造神セクターさんの言っていた世界の真実とやらに近づくためだ。
ティールは相も変わらずニコニコしている。なんでだろうか? 対して知りもしない人の笑顔を見て喜んでいるのは。
自分の中に出来た素朴な疑問は結局答えを見つけられず、ギルドのドアを開けて中に入った。しかし……。
「ハイル殿、さすがに貴方でも今回の事は看過できませんな」
「……返す言葉もございません」
「か、彼は何も悪くありません! 元はといえば僕のせいで」
「勇者様でしたかな? 今回の件はランク依然の問題なのです。いくら勇者様といえどお咎めなしとはいきませんよ?」
「「ぐふぅ……」」
街の損害賠償と住民たちを危険に巻き込んだことでギルドマスターからお叱りを受けた。
ギルドマスターもサクラやレナといった修羅の根源がいない以上言いたい放題である。
ただ、請求されたのが四タラントだけというのがここの人たちのやさしさではないだろうか?
本来であれば勇者の権威剥奪にランクの引き下げがある。
それが行われなかったというのは非常に寛大な措置といっても過言ではない。
「とりあえず、今後女性関係の縺れは穏便に話し合いで、いいね?」
「「わかりました」」
ギルドマスターから解放された俺たちは足の痺れを取るために休憩をしてから資料室に向かうことにした。
食堂のテーブル席に二人で腰を掛ける。
ティールは注文を聞きに来たウエイトレスに紅茶を頼み、俺は悩んだ末にブレンド珈琲を頼んだ。
改めて、二人で話をする場を設けて何を話すのかといえばこちらのお手伝いの話である。
「ティール、俺が頼みたいのは世界の歴史についてだ」
「世界の歴史かい?」
「そうだ、話半分で聞いてもらって構わないが俺は迷宮の最奥で神々に会ってきてな。最後に言われたのが世界の真実を探せってのだったんだ」
「世界の……真実。つまり今の世界には何かしら虚構があるということだね?」
「まあ、そうなるな」
「……信じるんだな」
「え、もちろんでしょ? 君が言ってるんだから」
ここまで素直だといつか騙されるんじゃないかな?
……なんだか彼の未来が心配になってきた。
しかし、突然彼は今まで見せたことのない真剣な顔をし始めた。
「僕も不思議だったんだ。魔王と勇者の関係が」
「そういうのは神聖国の資料とかに載ってたりするんじゃないか? ギルドの資料室を調べろというくらいだからめぼしいところならありそうだが」
「なかったんだ。勇者と魔王の文献だけ」
「なっ!? なら、今までの童話や物語はどうなるんだよ!?」
「明らかに作ってる物ばかりなんだ。経歴からも抹消されてて見つけ切らなかった」
どういうことなんだ?
勇者を輩出している神聖国に文献がない?
歴史と現実に差異を感じたその時だった。
唐突に頭に流れてくる映像。
頭痛と共にやってきたそれは、幻覚というには現実味を帯びていた。
倒れる人々、中には魔族もいる。
立っているのは八人の人たちと黒いコートに紫色の大鎌を構える隻眼の男。
その姿はどこか見たことのある姿だった。
気づけば幻覚が終わったのか元のギルドの食堂だった。
ティールは驚いたような表情でこちらを見ていた。
「突然目を見開いたかと思えば呼吸が荒くなったから驚いたよ。どうしたんだい?」
「なんか幻覚が見えたんだ。知らない光景が」
ティールはそのことに眉をしかめ話し始める。
「ついに君も解放されたんだね。虚構に包まれた世界から」
続
次回は4/12までに更新を行います。
なろうコンは残念ながら落選いたしました。しかし、きっと報われると信じてこの作品を完結までもっていこうと思います!
読者の皆様、長丁場となることが予想されますがお付き合いいただけると嬉しいです!




